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この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

コドク

作者: 綺一

 俺はいつからここにいるのだろうか。記憶が曖昧で、何も思い出せない。周りは暗く、何も見えない。が、何かを感じることは出来る。俺ではない、何かの気配。蠢き、呼吸、歩行音……「生きている」という気配が至るところから語りかけてくる。

 途端に光が降り注いでくる。上を見ると、黒の一部が丸く光っているのが感じられた。鳴き声がし、丸の中に黒い影が見え隠れする。影の全てが丸に収まると、その影が大きさを増し、やがて実体となって落ちてくる。ああ、またか、と思った。俺がここに来てから何度この光景、一連の流れを繰り返しているのだろう。一つ増えたことにより、空間を支配する空気に変化が生じる。嫌な臭いだ。俺に嗅覚というものがあるのかは知らんがね。

 丸の中に一回り小さな黒い丸が現れる。それもやがて大きさを増していく。しかし、その丸が落ちてくることはなく、白い丸を完全に消し去るだけに終わった。

 辺りに静寂が立ち込める。先程よりも獰猛な気配が静かに近づいてくる。やがて気配は音などに反映されるようになり始めた。少し進むとすぐ何かにぶつかってしまう。上に登ることも、飛ぶことも出来ない。今までの「常識」がこの中においては通用しないのだ。各々色々な手段を試しているようだったが、最終的には一つの考えにまとまってしまった。

 本能のおもむくままに、と。

 そこからは簡単だった。向かってくる奴らは全員喰い殺してしまえばいい。攻撃する奴らは全員喰ってしまっていい。こんなに簡単なことはない。多少の毒など、もう俺には効きはしないのだから。数日後、空間の中の音はすべて俺が支配するようになった。食料ならいくらでもある。あとは俺が生き延びればいい。俺は体の中にかすかな違和感を覚えると同時に強い快感を覚えていた。今なら何でもできる気がする。否、不可能なことなどないのだ。今の俺の体には、それこそ神か悪魔でも宿っているのではないかと錯覚してしまう程だった。自分の歩行音が頭を刺激する。同じ種族の雌でもいればとても面白いことになっただろうに。

 かなりの時が過ぎていった。また外から音がする。見上げると、白い空間が三日月から満月へと形を変化させている最中だった。完全な丸になると、俺の入っている壺が逆さまにされる。勿論中には俺しか残っていない。死骸の中で蠢く俺を見たあの人間は、邪悪な笑みを気持ちの悪い顔面に貼り付けていた。

 蠱毒。その先にあるのは、狂ってしまった孤独なのではないだろうか。神でも呪いでもない、ただの、しかし永遠の孤独に苛まれるのが俺の運命なのだろう……

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