小雪舞う日の檻のそば
ある所に、仲の悪い二つの国がありました。
互いに互いを嫌い合い、とうとう戦争になってしまいました。
小雪舞うある日、ちょっとだけ優しかった一人の看守の男が、収容所のパンや薪を、こっそり運んでいました。
収容所は、隣の国からきた人や移り住んでいた人、その子どもや孫たちを閉じ込めておく所です。
ここの看守達はとても行いが悪く、閉じ込められている人達に配るはずの食事や薪などを、猫ババしています。
これじゃあ閉じ込められている人達は餓えてしまいますし、寒くて病気になってしまいます。
だけど、ちゃんとしようと言っても、他の看守達にボコボコにイジメられてしまいます。
だから男も少しずつ盗むフリをして、閉じ込められている人達にコッソリ渡していました。
十二月のある日、小さな女の子が病気になってしまいました。容態はみるみる悪くなり、息をするのも苦しそうです。
もう、薬を飲まないと助からない様に見えます。だけど薬は貴重で、閉じ込められている人には出してはいけないことになっています。
男は悩みました。薬を盗んだことがバレたら、罰を受けなければいけない。だけど苦しむ女の子を見てはいられない。
悩みに悩み、悩み抜いて、そして迎えたクリスマスの朝、男は医務室に忍び込みました。
そして薬を女の子へのクリスマスプレゼントにして‥‥‥盗んだことがバレた男は、看守をクビになりました。
それから暫くして、この国は戦争に負けてしまいました。
今日、男は裁判所へ、車で連れて行かれています。
聞くところによると、あの収容所にいた看守たちは、とても重い罪に処されていました。死刑を言い渡された人もいる様です。
重たい気持ちで車を降り、裁判所の入り口に向かっていると‥‥道の横に並ぶ人波に目を奪われました。
そこにいたのは、あの収容所に閉じ込められていた人達でした。そして口々に、
「その人がいなければ私たちは生き残れていなかった」「その人は他の看守達とは違う」など、男をかばう言葉を叫んでくれています。
そして手にしている横断幕には、【今度は私たちが助ける番だ】と書かれていました。
男の胸には、感動が込み上げていました。
自分が離れたあの収容所の中、この人達が生き残ってくれていたことに‥‥そして自分をかばってくれていることに‥‥ 男は深々と頭を下げました。
男の罪は、とっても軽く済みました。
時は流れ、男はおじいちゃんになっていました。昔と比べて、ずいぶん平和な時代になっています。
今日は、孫が今度結婚するお嫁さんを連れて来る日です。
男は、小雪舞う窓の外を眺めつつ、暖炉の近くで椅子にもたれていました。
玄関をノックする音と孫の声が聞こえ、息子が出迎えにいきました。そして息子に案内され、孫とお嫁さん、そしてお嫁さんのお母さんが、男のところにやってきました。
少し恥ずかしそうに挨拶をしてくれるお嫁さん。そして彼女を気づかう孫。
幸せそうな若い二人を見ていると、胸が温かくなります。
ふいにお嫁さんのお母さんが、男に声をかけました。
「私のこと、覚えていますか?」と。
名前を聴いて、男は思い出しました。あの収容所のクリスマスの日に、薬をプレゼントした女の子、その人だったのです。
男の頬を涙がつたいました。
彼女は男を、ぎゅっと抱きしめました。
そして二人は願いました。
もう二度と、国境がみんなの仲を引き裂かないことを。
若い二人を見つめながら‥‥
世界が平和でありますように