表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。

小雪舞う日の檻のそば

作者: 雪 里 枝

 ある所に、仲の悪い二つの国がありました。

 互いに互いを嫌い合い、とうとう戦争になってしまいました。



 小雪舞うある日、ちょっとだけ優しかった一人の看守の男が、収容所のパンや薪を、こっそり運んでいました。


 収容所は、隣の国からきた人や移り住んでいた人、その子どもや孫たちを閉じ込めておく所です。


 ここの看守達はとても行いが悪く、閉じ込められている人達に配るはずの食事や薪などを、猫ババしています。

 これじゃあ閉じ込められている人達は餓えてしまいますし、寒くて病気になってしまいます。


 だけど、ちゃんとしようと言っても、他の看守達にボコボコにイジメられてしまいます。

 だから男も少しずつ盗むフリをして、閉じ込められている人達にコッソリ渡していました。




 十二月のある日、小さな女の子が病気になってしまいました。容態はみるみる悪くなり、息をするのも苦しそうです。


 もう、薬を飲まないと助からない様に見えます。だけど薬は貴重で、閉じ込められている人には出してはいけないことになっています。


 男は悩みました。薬を盗んだことがバレたら、罰を受けなければいけない。だけど苦しむ女の子を見てはいられない。


 悩みに悩み、悩み抜いて、そして迎えたクリスマスの朝、男は医務室に忍び込みました。

 そして薬を女の子へのクリスマスプレゼントにして‥‥‥盗んだことがバレた男は、看守をクビになりました。




 それから暫くして、この国は戦争に負けてしまいました。

 今日、男は裁判所へ、車で連れて行かれています。


 聞くところによると、あの収容所にいた看守たちは、とても重い罪に処されていました。死刑を言い渡された人もいる様です。


 重たい気持ちで車を降り、裁判所の入り口に向かっていると‥‥道の横に並ぶ人波に目を奪われました。


 そこにいたのは、あの収容所に閉じ込められていた人達でした。そして口々に、


 「その人がいなければ私たちは生き残れていなかった」「その人は他の看守達とは違う」など、男をかばう言葉を叫んでくれています。


 そして手にしている横断幕には、【今度は私たちが助ける番だ】と書かれていました。


 男の胸には、感動が込み上げていました。


 自分が離れたあの収容所の中、この人達が生き残ってくれていたことに‥‥そして自分をかばってくれていることに‥‥ 男は深々と頭を下げました。


 男の罪は、とっても軽く済みました。




 時は流れ、男はおじいちゃんになっていました。昔と比べて、ずいぶん平和な時代になっています。


 今日は、孫が今度結婚するお嫁さんを連れて来る日です。

 男は、小雪舞う窓の外を眺めつつ、暖炉の近くで椅子にもたれていました。


 玄関をノックする音と孫の声が聞こえ、息子が出迎えにいきました。そして息子に案内され、孫とお嫁さん、そしてお嫁さんのお母さんが、男のところにやってきました。


 少し恥ずかしそうに挨拶をしてくれるお嫁さん。そして彼女を気づかう孫。

 幸せそうな若い二人を見ていると、胸が温かくなります。


 ふいにお嫁さんのお母さんが、男に声をかけました。


「私のこと、覚えていますか?」と。


 名前を聴いて、男は思い出しました。あの収容所のクリスマスの日に、薬をプレゼントした女の子、その人だったのです。



 男の頬を涙がつたいました。


 彼女は男を、ぎゅっと抱きしめました。



 そして二人は願いました。

 もう二度と、国境がみんなの仲を引き裂かないことを。

 若い二人を見つめながら‥‥



 世界が平和でありますように



評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[一言] ロシア、ウクライナのことを考えてしまいました。 世界が平和になりますように。
2023/04/28 22:47 退会済み
管理
[一言] 相手のことを自分のことのように考える。その当たり前ができなくなってしまったから、戦争は起こってしまうのでしょうね。国境が接していない日本でも、いざこざはたくさん起こっているわけで、性善説でみ…
[一言] 舞台は暗いのですが、書かれている内容はとても優しくて温かかったです。 世界が平和でありますように。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ