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怪物サバイバル(R15版)(連載中止)  作者: ryuu
第2章 戦争恋愛錯綜
9/40

悪魔の鬼ごっこ 前編

 宮永桜と神月悪斗の消息が不明になったことを朝になって牙堂哲也と鞍馬雪菜は気付いた。


 気づくことになったのは朝、雪菜が隣に寝ていたはずの悪斗がいなかったからだった。


 彼女は撥ね起きて悪斗を呼んで森林を捜し歩いたが代わりに見つけたのは下半身を丸出しにした須藤満の存在だった。


 彼に駆け寄ってゆすってみれば頭皮の傷が原因で起きなかった。雪菜は一度その場に彼を放置して牙堂を呼びに行き彼もことの状況を知った事態に発展した。


 いないのが宮永桜と神月悪斗だけということに。




「彼らがいないのはどこかへ二人で逃げたからか? それを食い止めようと動いた須藤が反撃にあったか」


「なんで、アクトが私の元から逃げるのよ! アクトはそんなことするわけないわ!」


「なぜ、そう言いきれる? 彼らもオレたちと行動を共にしたくないと感じたとは思わないのか?」


「わ、私はアクトを小さい頃から知ってる! 彼が私を見捨てて他の女と逃避行するはずない。これは彼が宮永桜に拉致されたに違いないのよ! あのアバズレが単独で彼を誘惑して拉致したに違いないわ!」


「まず落ち着くんだ、彼女はエルフだ。肉食の種族ではない。そのエルフが人間を拉致して何を考える? だいたい、なぜ独断でそのような行動を起こすのか?」


 すっと、森林の奥を見据えてから考えるのをやめたように倒れた須藤をみた。


「どちらにしろ、事情を知ってそうなコイツが目覚めてからにしよう。とりあえずこの男はオレが運ぶ。鞍馬さんは食料調達を頼めるかな? くれぐれも勝手に彼の後を追いかける真似はするなよ」


「狼男のアナタから逃げきれるとは思ってないわ。だけど、これを最後に言わせて。アクトのことは誤解しないで。アクトは決して他人を……いいえ、この私を見捨てる人じゃない」


「……わかった。キモに命じておこう。だが、君にも伝えておく。時に怪物も人間も気持ちの移り変わりは激しいということを」



 テントに戻っていく牙堂の後姿を見つめながら雪菜はほっと胸をなでおろした。


 そのまま地面を触って彼の痕跡を探す。


 人がわずかに発する電磁波。それは人がその場にいたという証拠となる電波みたいな足跡を残す。


 それを感知する能力をもつ雪菜は感覚を鋭敏に研ぎ澄ませ彼の電流の痕跡を捜索する。


「ぐっ」


 微細な電流がそれを邪魔して感知を阻害される。

 

 額を抑えてうずくまりギロリと奥を睨む。



「やっぱり、アクトは拉致されたのよ。彼が私を見捨てるはずないわよ。アクトを奪うなんてそうはさせない。アクトは私のなんだから! あのアバズレ出会い頭に殺してやるわ」


 牙堂哲也の食料調達のことなどお構いなしに鞍馬雪菜はそのまま森林の奥へ走って向かった。



 ******



 その頃、神月悪斗と宮永桜はどこかの森林地帯にひっそりとあった廃墟のコンクリート平米の建物に身をひそめていた。数分前に森林のただ中にいたがそこから移動して見つけたのがここだった。


 この建物がいつに建てられたものなのか、どういう目的で建てられたものなのかは分からずとも内部は広く物は一切ない殺風景なものではあるが隠れ蓑にするには少々物足りなさを感じつつも我がままなど言ってられない状況だったので隠れ蓑にした。


 その場所にきて早々に悪斗はただ彼女のされるがままになっていた。


 正確に言うならば隠れ蓑にしたのは悪斗の意思など反映されていない。


 宮永桜が独断でここまで悪斗を拉致してきたに他ならないのだ。


 腕を光の輪のような存在で拘束されており、宮永桜の監視のもとで食事をする。


 まさに、囚人のような扱いだった。


 桜はただそのような立場を非常に歓喜に震えて、悪斗に口移しで食べ物を与えるという非常に卑猥な行動を行っている。


 幾度となく彼女の唾液と絡まった。

 

 森林地帯で生えていた奇妙な果物たちが悪斗の口の中に入れられていく。


 もはや、彼女の味で果物の味などしなくてわからない。 ただ、ひたすらに栄養を摂取するしかないという気持ちで彼女の行為という好意を受け続けた。


 桜もまた悪斗の味を楽しむように舌なめずりして甘美に身体をのけぞらせる。


「いい加減に口移しじゃなくって直接手で食べたいんだけど、これ外してくれないですか?」



 手元に光る輪の手錠。それがどういう原理で出されてるのか悪斗には知る由もないほどの奇妙な力。


 彼女は悪斗が申し出た言葉を聞きながらも無視して口移しで今度は水を飲ませた。


 おもむろに彼女の手は悪斗の下半身に向かっていく。


 ズボン越しだというのにもかかわらずその動きはいやらしく悪斗の快感神経を逆なでして昂らせた。


 だけど、すぐにその昂りに歯止めを利かせるように下唇を強く噛んだ。


「あ! どうしてそうやって無理に抑え込もうとしちゃうんですか! 私とま・たしたくないんですかっ!」



 ヒステリックに叫び出す彼女の口をキスで抑え込み落ちつかせる。


 彼女が時折見せるこの傍若無人な振る舞いは悪斗の腕輪にも影響を及ぼしてきて電流が身体に走るのは激痛だった。


 その中で見出した落ち着かせる方法はキスだった。


 過去にも雪菜がヒステリックを起こした時に対処した行動が役立っただけであるとは目の前の彼女には悟られるわけにはいかない。


 すると、彼女は眼を瞬いてすこし頬を赤らめて身体をちじみこませる。


「落ち着いてください、そういうのじゃありません。今は気分じゃないからってだけですよ」


「あ、悪斗さん……うれしい……こういうのがお好みなら最初から言ってくれたらよかったのに……」


「まったく聞いちゃいませんね……」


 悪斗は自分の目の前でしおらしくなった桜を見て頭を抱え込む。


 須藤満の暴挙から救ってからと言うもの桜の悪斗への態度は過激なものへと変わっていく。


 それが宮永桜の愛情表現であることはわかってはいるがそれがあまりにも度をすぎてるために悩ましくもある。


(つくづくヒステリーな女に縁があるよなぁ)



 ここから離れようとすれば桜はヒステリックな物言いをしながら何をしでかすかわかったものではない。

 最悪、殺される危険性すらあった。


(あの幼馴染との付き合いの賜物なんだろうか)


 だとしても嫌な経験をしていたといえる。


 今は雪菜はおとなしい性格をしているが昔は酷かったことが今になって思い起こされてくる。



「悪斗さん? しないの?」


 目の前でまるで子供のように問い返してくる。

 その言葉はこうして手足を拘束されていなければ魅力的に感じることだった。


「今はしません……今はおとなしく食事しましょうよ」


「今はね……なら夜に?」


「……」




 すごくうれしそうなほどに顔を輝かせる。

 

 アニメなどであれば光のエフェクトさえ見えそう。


 桜はうれしそうに再度、口移しで食事を与え続けた。


 次第に腹も膨れたことを言い訳にして口移しの食事を切り上げさせ少し外へ出たいと具申してみる。


「外?」


「ああ。この辺がどういう所なのかしっかりと確認したいんです。だって、こんな建物があるのならば現地住民がいる可能性も考えられます。 そしたら、ココから脱出する方法が何か探れるかもしれません。」


「そんなのどうでもいいじゃないですか」


「え?」


「アクトさんはそんなにこの島から出たいんですか?」


「そ、それはそうでしょう。だって、この島には何もないし俺には帰りを待ってる人が――」


「本当にいるんですか? 聞きましたよ雪菜さんから」


「え?」


「悪斗さんは今は一人身で両親はいないから雪菜さんと二人で暮らしてたって」



 よもや自分の事情を知っていたことを伝えられていたことを認識してたじろいでしまう。


 桜の瞳に陰が宿りだして次第に腕の光の輪が強く輝きだして腕を焼きつかせていく。おもわぬ激痛に叫び声をあげてしまう。



「悪斗さん、そんなに叫んだら誰かに気づかれちゃいますよ。まぁ、誰か来たところで返り討ちにしますけど……ん?」



 顎を掴んできてキスをしようとしてきた桜が外の方を向いた。


(外れろ! 足だけでも外れれば!)


 明滅している輪に力を加えた時、足枷だけが外れた。


 その隙をついて外へ向かい走った。


 だが、横合いから突如として誰かが押しかかり首を絞めてくる。


「あぐがぁ………」


「ふっ、獣が一匹哀れにも紛れ込むとは滑稽だ。この暴虐の化身の生贄となれ」



 漆黒のコートの襟によって顔を半分ほどうずめた病弱な青年が奇妙な言葉をまくしたてて首を右手で絞めつつ左手を鋭い金属の槍のような姿へ変え振りかざした。


 だけれど、コートの男を遠方からの光の砲撃が吹き飛ばしたことで悪斗に槍が突き刺さることはなかった。


 代わりに桜に捕まってしまう。


(くそっ! せっかく逃げ切ったのに!)


 彼女に襟首をつかまれて抱きかかえられる。


「もう、逃げるからですよ。悪斗さん、あなたには私しかいないんですから」


「へぇー、お熱いカップルが誕生してたんだねぇアタイたちがいないあいだにィん。詳しく何があったか聞きたいかしらぁん」



 森林の中からぞろぞろとあふれるように出てくる人の群れ。


 白衣に漆黒の妖艶なドレスを着こんだ金髪のグラマラスな美女の周囲に集まるようにして人の群れはあった。



「お久しぶりねぇん、お二人さん」


「だれ?」


「だ、だれって……っ!」


 こめかみを押さえながら怒りを隠してにこやかな笑みにかえて告げる。



「あなたたちとこの島に来た、神楽坂イリエナよぉん。ちょぉーとばかりぃそこのあなたに用があって来たってわけかしらぁん」


「私に用?」


「あなたじゃないわよぉん! そこの人間よ!」



 指を刺したのは悪斗。


 それを指摘したことで何かを悟った桜の顔に険しさが宿る。



「あらぁん、そんな怖い顔しないでほしいわねぇん。この島にいるたった一人の良き怪物の餌を一人占めするのはどうかしらねぇんエルフの少女ちゃん」


「彼は餌じゃないです。私の夫です! 夫はあなたの餌にさせませんよ」


「くくっ、人間は私たち怪物のえさでしょぉん。遥か昔より決めてあったことよぉん。だけど、時代の流れでそれが難しくなったからこそぉ私たち怪物は人間を捕食することをやめたわけだけどねぇン。だけど、今はその制度もないこの無人島に来ているわけだしぃちょーど、我慢せずできるってわけねぇン」


 神楽坂イリエナと名乗った金髪の角の生えた刺青の美女は背中らか二つの翼を生やし、瞳が赤へと変わった。


「悪魔ね」


「悪魔とひとくくりで呼ばないで頂戴。私は『リリス』の神楽坂イリエナよぉん。彼の精気をもらい受けるわぁん」


 彼女に助長するように他の物たちも各々の力を発揮するように武器や体の一部を突き出すようにして構えた。


 それぞれが人間に求める餌という存在を一つの言葉として主張する。


 『肉』や『魂』というものがほとんどであり悪斗は自らの危険に背筋を震えあがらせる。




「大丈夫です。私は妻だから夫を守ります」


「笑えるわねぇん。森の守り人風情の種族がこの怪物の大群を一人で相手にするなんてできるのかしらぁん」


「してみせるんです。悪斗さんは逃げてください。私が彼女たちを食い止めますから」


「な、何を言ってるんですか! 俺も一緒に――」


 その後に続ける言葉はふいに喉元まで出かかり止まる。


 これは本当に彼女から逃げるチャンスでもあるのではないかという気持ち。


 目の前の宮永桜という少女は自分に好意を抱いていて本当に逃がそうとしてくれているのだという心情も彼女の目を見て察してしまう。


 相反した気持ちで揺れ動いてしまう。


「いいから逃げてください!」


 叱咤の声を受け、悪斗の取った行動は一つだった。

 

 その自分本位の考え方に胸糞悪く、桜の手を引いて駆けだしていた。


 そのあとを猛然と追いかけだした神楽坂イリエナの部隊。


「畜生がぁあああ!」


 鬼気迫る追いかけっこが始まった。



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