無人島 後編
各自がまず、自己紹介などを行い、事態のまとめを言っていく。
中でも取り仕切るウルフ族の男、牙堂哲也の発言がみんなの行動を決めていく言葉となっていた。
彼の存在感やその政治家のような発言力がそういうリーダーのような風格があった。
「おおよそ、この島の面積は50000平方キロメートルだと思われる。オレと彼女と彼で捜索を行ったが奥地にまでは相当な距離がある。なによりも、この場所はずいぶんと日本から離れている島とみてよいだろう」
哲也がまとめた島の情報にみんなが唖然となって沈黙した。
パニックを引き起こす者はいないのがこの場にいる者たちが全員常識ある大人であるからかもしくは狂った者たちの集まりで過酷な状況下になれてる者どもの集まりからかはわからない。
悪斗は傍らの雪菜の渋った表情を見ていた。顎に手を当てながらも動揺はしても「そう」というような言葉を漏らしていたって冷静な彼女の切り替えには恐れ入る。
「まぁ、それはいいけど、なんでアタイらはこんな場所に拉致って来られたわけ? いみわからないんだけど」
「そうだぞ、いみわからないぞ」
二人の男女、ギャル系の格好をした角を生やした女と大柄な体に豚鼻をした農作業者のような格好をした肥満男に続け、その場の者たちも同様の文句を口にした。
そのようなことが哲也にわかるはずもなく首を振って「オレにもソレはわからない」と受け答えた。
「第一、ココにいる者はなぜ妖怪ばかりか、一人、人間は混じっているが」
ぎろりと漆黒のコートを着用し襟を立たせ顔を半分ほど隠したクマのひどい根暗顔の病弱の青年が悪斗を見据えた。この人物は至って見た目は人間の装いだがどことなく異質性は感じられる。
おおよそ、彼も怪物なる部分があるのだろう。
さっ、とさりげなく雪菜が悪斗と青年の間にわりこみその視線から悪斗をかばう。
「にしてもそうよねぇん、人間一人っておかしいんじゃないかしらぁん? まさか、あなたが仕掛け人?」
一人の白衣に妖艶な漆黒のドレスという相まった格好をした金髪のグラマラスな顔に紋様の出た美女が含み笑いを浮かべて悪斗をなめるように観察する。
彼女の発言が発端となり周りの人たちまで悪斗を怪しんだ。
「ふ、ふざけないでよ! アクトじゃない! こんなことする子じゃないわ!」
「君は、たしか彼の知り合いだったはずですよね。実に君も怪しいな」
モノクルメガネを掛けた敏腕のビジネスマン風のスーツを着た美男子が雪菜に目標を変えて悪意ある疑念の矛先が彼女にまで向き始めた。彼も病弱な青年同様に見た目は人間であるにもかかわらずその瞳は金色で普通の人間に見えてそうではない存在だった。
「ちょっと待てよ! 俺は何も知らない! ただ人間だからってこんな疑いをかけられるのはあんまりだ! だいたい俺はあんたらのような怪物がいるのを知らなかったんだぞ!」
そういって主張をしたところ哲也が全員にその主張を支持してくれた。
「そうだ。彼はオレたちを最初に見た時に気絶をしている。もし、知っていたとすればあのような動揺を起こしはしないだろう。あれが嘘や演技だとはオレには見えなかった。君たちはどうだ?」
各々が頷いた。
「とにかく、もう夜は遅い。日も落ちた。各自で寝宿を準備し明日に備えよう。その為にはまず班分けをしたい。オレの方で勝手に決めていいかな?」
その哲也の言葉に何人かの文句が出てきた。
なぜ、そんなことをするのかとか、勝手に各自ですればいいだろうとか。
自由に行動したいとかだ。
そのような発言が出てきた。
「君たち、事態を理解してるのか! 現状、これはチームワークが必要だ。みんなで協力を――」
「悪いけど僕は一人で行動をさせてもらいます。あなたたちは信頼できないですからね。ここにこの事件の発端の犯人がいて何かをしでかす可能性もありますので。では」
まず、一人の脱退者が出てくる。例のビジネスマン風の男だった。つづけて、白衣の美女は数人のメンツをひきつれどこかへ消えていく。
どんどんとばらけてくと後に砂浜に残ったのはわずか5人だけ。
「あいつらは何もわかっていないのか! クッ」
彼の言葉に最初は耳を傾けていたはずの人たちだったが結局はうわべだけで取り繕ってたようだった。
次第に、哲也は残った悪斗たちに目くばせを行う。
「オレたちはこの場を生き残るぞ。調達と寝床づくりで班分けを行いたい」
現場の取り仕切りを早速哲也は始めた。
「ぼ、僕は果物や野菜とかだったらわかるから食材の調達だったら任せてくださいぞ」
「ならば、エルフの君と――」
「……宮永桜です。」
エルフと言う種族の名指しはさすがに人としては癪に障ったのか彼女は自ら名乗り上げた。
哲也の目が悪斗に向いた。
「わかった。では、宮永さんと人間の君名前は?」
「神月悪斗だ、です」
「じゃあ、神月の3人で調達を頼む。吸血鬼の君はオレと木材の調達を頼もう」
「ちょっと、納得できない。私はアクトと一緒がいいわ」
「なに?」
突然の文句に哲也の顔が険しくなったのを見て悪斗はとっさに雪菜の前に出た。
「雪菜姉ちゃん状況を考えろ。ここは協力が必要だって。俺と一緒にいたい気持ちはわかるけどここは彼の言う通りに行動したほうがいい気がするし」
「なんで? 彼が信用できるの?」
「そ、それはびみょうだけど、とりあえずはさ、な?」
「わかったわ」
どうにかして説得を試みて雪菜はしぶしぶと哲也さんに賛同を示した。そうして、それぞれが行動を開始した。サバイバル生活の始まりだった。