無人島 中編
ひんやりとした心地よい感覚。
その妙な感覚に誘惑されるようにゆっくりと重い瞼を開けていく。
「目が覚めたのね! よかったぁ!」
「うぁ! ゆ、雪菜姉ちゃん?」
勢いよく抱きついてきた幼馴染の姉に似た怪物に吃驚してそのままされるがままにされる。
視界に広がる光景は2度目の眠りにつく直前と変わらない。
妙な森林地帯と波打ち際の砂浜。
そして、ハロウィンの仮装パーテーィ―会場なのだろうかと思えるような怪物の姿をした人たち。
さすがに、今度は恐怖を堪えてその現実を受け入れる。
自分はどうやらその最中にこの幼馴染の姉に似た存在の膝の上で眠りこけてたらしいことを悟った。
(いや、彼女本人なんだろう。こんな見知らぬ怪物のような姿をしているが)
冷静に考えると、彼女であったことに安心感と周囲の場所が砂浜だとロマンチックな状況だと危機感無く思ってしまう。
「ちょっと、離してくれよ、雪菜姉ちゃ」
「ご、ごめんなさい」
「っ」
彼女が離れて初めてちゃんと顔を合わせ、息を呑んだ。いつもの素顔ではない。悪斗が知ってる幼馴染の顔ではなかった。顔本来の形が変わったとかいう意味ではなく彼女の姿が変形している。赤い瞳と鋭い牙、妖艶な艶のある肌のある肢体と美麗な容姿。元々美しい顔であったがそれがより洗練され美麗になったとでも表現すべき顔だちになっている。
物語に出てくる吸血鬼にそっくりな姿をしている。
翼とマントはないがそれ以外はほぼ一緒だ。
「ゆ、雪菜姉ちゃんなのか……?」
「……えっと……見えてるんだよね? ……やっぱり」
オウム返しに問い返してきた。
彼女は今まで自分の正体を隠し通していたのだとその言い方で察した。
「こ、これには事情があるの! 説明させて!」
「説明? ここ数年間一緒に暮らしてきた幼馴染に隠し事していて説明とかあるのか?」
「深い事情があるのよ! 私たちの様な妖怪は世の中では表立って正体を明かすわけにはいかない規則なの。もし、その規則を破れば政府の秘匿組織に捕まってしまう。それに、私たちが世に出ればパニックを引き起こしかねないからこそよ」
どんなファンタジー小説にもよくある内容だった。生物学的に幾何学な要因が表に出てくれば人とはすぐにパニックを引き起こして不安を抱え込み大変な事態へと発展する。下手したら抗争になるおそれすらある。
現実ではこの手のことはあると噂されても昔から政府がその手のことを隠してるなんて言う隠ぺい節なんてのは世の中多くに語られてることだ。
実際そのようなことはフィクションであるというのが一般的な強要になっているし信じてる人間なんて少数だ。
悪斗もそうだった。しかし、今まさに幼馴染が吸血鬼だったと知ってその隠ぺい節が真実だとわかったわけである。
「雪菜姉ちゃんが政府の秘匿組織とコネがあったり仕事を一緒にしてるのは吸血鬼だからなのか?」
「そうよ。私たちの家は代々吸血鬼の貴族と人間の混合した血脈。そういう特殊な家柄で日本の戦国時代から傍らで日本のトップを支えてきたし日本の裏の情勢に働き掛けていた」
「…………」
なにか文句をいうことなく素直に耳を傾けその真実を聞いた。
今までの彼女の行動は身辺事情がすべて明らかとなり合点が言った。
「そうだったのか。でも、隠さず話してほしかったよ」
「そうしたっかった! ずっと! だけど、話せば身の危険だった。ごめんなさい」
「……もう、いいよ。そこまで怒ってないから。で、ずっとその姿でいるの?」
「それがもとに戻れないのよ。本来はなるべく人間の血液を摂取しないようにするためや人間世界に溶け込むために人間への疑似化を行ってるけど今はそれができない。なぜかはわからないけどこの島には私たち妖怪に対してそのような能力が働いてる。他にも色々驚くことがあって……」
話を聞きながらゆっくりと周囲を見てわかったことがあった。
悪斗以外に人間がいない。
妙なことだった。
しかも、ここはどっかの島でみんなが拉致され連れて来られたはずで――
(あの時、頭上だったかどこからか黒い影のようなものが落ちてきたんだったな)
年齢もバラバラであるが共通する点は怪物であることなのか。
でも、そうするならば悪斗はどうなるのか。
「わかった? アクト以外みんな妖怪よ。だから、妙な話。それにここがどこかわからない?」
「他の人と話してみた?」
「うん、今探索チームが――」
雪菜が説明する直後に奥の森林から数人の男女が戻ってきたようにやってくる。
「お、人間のボウズも目覚めたか。よっし、みんな集合してくれ。ざっと島について話をしよう」
そういって一人のオオカミ男が集合をかけた。