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操られし者2

気がかりではあった。

 基地ではぐれてから、あの二人の消息は途絶えていた。

 気にはなったし生きてもいると信じていた。

 彼らは強さと冷静さを持っていると悪斗は信じていた。

 だから、彼らならば大丈夫と思い続けた。

 現実は非情だ。

 悪斗の目の前には負傷した身体と瞳に光を宿さぬ二人の存在。

 そこに『生』を感じはしない。

 まるで死した人形という表現がしっくりくるかのような動きで悪斗を襲っていた。

 我堂哲也の拳を掴んだが彼は左足を上げて足さばきによる蹴りの攻撃。

 その瞬間に、握られていた彼の拳の関節からいびつな音が鳴った。

 彼はまるで表情を変化させず拘束から脱出している。

 蹴りの威力に怯んでいた悪斗の背後に回り込む影。

 須藤が捕縛して圧死させようとする力技。

 悪斗も簡単に圧死されるほど甘くもなく頭突きで彼の頭部を強打したが鼻の骨を折ってるはずなのに痛みを感じないかのように力を緩めない。


「ぐぁああああ!」


 メフィストの嘲笑する顔が見えた。

 怒りがふつふつ湧き上がりながら吠えた。


「メフィストォオオオ、おまえだけは……おまえだけは……がふっ」


 バキバキと骨の折れる音が鳴り響く。

 自らの身体が悲鳴を上げて視界がかすみ始めた。

 幼馴染の涙目になった表情が見えた。

 ここで終わると思われたときに、一筋の風が須藤を吹き飛ばす。


「おやおや、どういうつもりかね? 桜くん」

「話が違う、これでは彼が死んでしまう」

「チッ、これも必要なことだ。彼にとって最後の仕上げを邪魔するんじゃないよ」


 宮永桜は急にうずくまる。

 苦し気に呻き自らの首を抑えていた。

 

「メフィストフェレス、彼女に何をした!」

「ククッ、私と彼女はこの儀式のためにちょっとした契約を結んでるんですよ。その契約の規定違反を犯したがゆえに罰を受けてるにすぎない」

「悪魔との契約というやつか……さくらさん、なんであなたはそんなことをしたんだよ!」

「あなたを愛しているから……それにあなたを……うぐぅ……」


 俺は奥歯を噛み締めてメフィストに向かい駆け出した。

 だが、須藤と我堂が行く手をまた遮った。


「お二人ともいいかげん目を覚ましてください! あなたたちは操られてるんです!」

「アハハハ、死体に何を言おうが無駄ですよ!」

「黙れメフィストフェレス! いくら死体であったとしても彼らには思念が存在している! それさえあれば反応を示す」

「その思念さえ、この祭壇に吸わせてるんですよ。無駄なあがきです。さあ、ヤレ」


 仲間だった彼らの脅威が再び迫ると思い身構えた。

 二人はおかしなことに動かなかった。


「何をしているんですか! 動きなさい!」

 

 必死にわめくメフィスト。

 彼らは決して動かなかった。

 どれどころか、異変が起きた。

 祭壇に明滅な現象が起き始めた。


「にげ……ろ」

「僕らの……ぶんまで……」


 かすかに聞こえた二人の意志のある声。


「我堂さん! 須藤さん!」


 それ以上の言葉はなく、すぐに二人の拳が襲う。

 両腕を構えて防御の姿勢をとったが我堂の鋭い爪が皮膚を防御の構えの上からでも裂き、須藤の腕力で骨に軋む音が響いた。

 勢いよく後方に吹き飛ばされて祭壇の柱に背中を打ち付けた。

 そばには意識を薄れさせていた雪菜がにじり寄る。


「ごめん、ごめん……アクト」

「雪菜姉ちゃん……」


 彼女が涙をこぼし、悪斗の頬を伝う。

 ゆっくりと歩み寄る足音。

 素早い蹴りが雪菜の顔面を蹴り飛ばした。

 顔を上げて怒りの眼差しを向けるよりも早く顔面を抑え込む手。


「うぐぅ」

「ああ、腹立たしいですねぇ。まだ、反抗的な贄たちだ。桜、君も本当に儀式を成功させる気があるのですか! 君には彼との未来があるんですよ!」


 未だ契約の罰に苦しむ彼女が言葉を一つ一つ紡いだ。


「彼を傷つける……行為に限度を設けたはず……」

「ええ。設けましたよ。殺さないとだけね」

「っ……そんなことない」

「いいえ、そうなんですよ。そうなってるんですよ! だから、おとなしくさせるために手足の一つや二つくらい折っても問題はないんですよ」


 メフィストの素手が悪斗の腕をつかんだ。

 思い切り逆方向に捻じ曲げた。

 ボキっとこぎみのいい音が鳴り悪斗は強烈な痛みに絶叫する。


「アハハハ! 半神の悲鳴ですか! しかし、君が仲間に弱いために彼らを用意したのは正解でした。思いのほかあなたをとなしく捕まえられている。だけれど、君にはそのお仲間を殺してもらわなきゃ儀式は成立しないんです」


 そのまま負傷した悪斗は浮遊感を味わう。

 自らが放り投げ捨てられたのだと自覚した直後に身体が地面へと追突したように落下した衝撃が襲う。

 痛みに身動きがうまく取れず足腰もおぼつかず立てない。


「さあ、我堂、須藤。その男を襲いなさい」


 仲間たちの牙がゆっくりと悪斗へ再び迫る。

 悪斗は絶望に打ちひしがれた。


(もう、殺すしかないのか!)


 そう思ったその時、メフィストが急に悲鳴を上げた。

 ハッとしてそちらを見ると神楽坂イリエナと神楽坂イリスの二人に攻撃を受けてるメフィストの姿。

 

「なぜ、君らが動いている!?」

「あなたって自分の余韻に浸りすぎてしまうと周りが見えなくなるタイプじゃなぁい?」

「なんだと?」


 メフィストは何かに気付いたように瞠目し叫ぶ。


「人形ども! 背後を見ろ!」


 我堂と須藤に慌てた指示を飛ばす。

 しかし、その背後から――


「遅い」


 その一言が聞こえだした。

 二人の人形が黒い触手のようなものに拘束されてその場に倒れ込む。

ぼろぼろの衣服姿の女がその彼らを足ふみして立っていた。


「これで恩返しできましたか?」


 濡羽黒がそこにはいたのだった。


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