夢という名の過去
突然の過去パートで申し訳ありません。
悪斗の過去についての話の始まりです。
目覚める直前、悪斗は深い眠りの中で夢を見ていた。
それは夢と形容するべきものかは定かではない。
なぜならば、悪斗にはそれが現実感を帯びていた。
その記憶をしっかりと持っている。
まるで、過去を追体験でもしているかのような感覚であった。
遠い昔の記憶とでもいうことが正しいことなのだろう。
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「悪斗、今日から小学生ね。頑張るのよ」
「うん、僕頑張って勉強するよ! 友達いっぱい作るんだ」
「ええ。でも、いい? 勉強も友達も作るのも大事だけど決してあのことは口にしては駄目よ」
「あのことって……お化けのこと?」
「そう。変な子だって思われちゃう。だから、絶対に言わないこと。それに、もう一個の力は出しちゃダメよ絶対に」
「うん……わかった」
「さあ、行ってきなさい。もうちこくしちゃうわよ」
小学校に上がったころの当時の最初の朝の出来事。
この日、初めて学校へと通いだした。
何気なく過ごして勉強や友達も徐々に増えてきた。
悪斗は当時は子供でまだ純粋で親のいうことを努力して守ってきたつもりであったが、学校通いだして1週間が経過した時のこと。
「あ」
悪斗は見てしまった。
クラスの教室で一人のクラスメイトに憑依した怪物。
それがその子に悪さをしているのを見て優しかった悪斗は止めたい思い、正義心が動いてしまった。
「なにいってんだこいつ?」
「だから、○○君の背中には悪いやつがいるんだ! 君らもそれに汚染されてるから○○君をいじめてる! それは良くない行いだよ!」
放課後に憑依していた子をつけていけば、彼は裏庭でクラスメイトにリンチにされていじめられていた。
その現場を悪斗は見て自らの霊視で見えた光景はゾッとするものを見ていたのだ。
憑依した怪物が嘲笑い周囲のいじめっ子共に陰鬱な影をまとわりつかせている。
「よくわかんねぇこと言ってんじゃねぇよ。おまえさ、クラスでいい顔してるみたいだしいじめたらなんかありそうだから手出さないでいたってのによぉ……」
いじめっ子の一人が近づいてきて僕の腹を殴った。
息苦しいお腹を押さえて僕は奥歯を噛み締める。
「僕は僕は……負けないよ」
「な、なんだよその目」
悪斗の睨みつける目に怯えたように後ずさりするいじめっ子たち。
悪斗は彼らに手をかざした。
自らの手から発光する現象が彼らに衝撃を与えて昏倒させた。
そのそばでいじめられていた子はおびえたようにこっちを見て慌てて逃げていく。
それは災厄の引き金となってしまった。
次の日、悪斗に待っていたのは学校からの呼び出し。
「ぼ、僕はただ守ろうとしただけで」
「で、でもね○○君たちの話では君が先に手を出してきたというじゃないか」
「先生、ウチの子はそんなことをする子じゃないです。そのいじめられていた子は何と言ってるんですか!?」
「○○君も同じことを言ってましてね、ですから――」
「だったら、もう一度確認を取ってください。彼が脅されてる可能性があるじゃないですか」
「あのですね、お母さん。こちらとしてはおとなしく穏便に解決をしたいのですよ。ですから――」
両親も必死で弁明をしてくれて悪斗の証言を信じてくれたけど教師側は一向に信じなかった。
教師たちの目は明らかに悪斗へと向ける目つきはおびえていた。
その場は悪斗の証言通りにあったことを教師は認めいじめっ子たちに謝らせたが、彼らが悪斗を見た時に発言した言葉は悪斗の心を痛めつけた。
「か、怪物!」
「化け物だぁあ!」
「来るなぁああ!」
怯えてしまう彼らとの和解は和解と呼ぶべき行いをできずそのまま流れた。
それからの悪斗の小学校生活は燦燦たるものになり、自宅学習へと落ち着く道へと入った。
ある時に両親は悪斗の元に一人の女の子を連れてきたのだ。
そう、それは鞍馬雪菜。
隣家に突然と越してきた女の子であった。
当時は何も思わなかったけれどあまりにも都合がよかったと今なら思えた。
「悪斗、くらまユキナちゃんよ。あなたの一つ上だからお姉さんになるのかしらね。仲良くしてあげるのよ」
「えっと、神月あくとです。よろしく」
「よろしくね、アクト」
それからはずっと彼女と過ごす日々が続いていく。
中学校に上がる時期に入ったときに一つ上の彼女と同じ学校へと入学することが決まった。
ちょうど、タイミングよく女子高が共学になったばかりの学校である学校だった。
過去のいじめのトラウマで入学するのに恐怖していたが幼馴染の雪菜の支えがあってそれも克服するように中学校の初日から徐々に乗り越えていった。
だけど、つくづく悪斗は運が悪かった。
「なんで、なんでなのさ」
クラスメイトの中に数人の悪いものに憑りつかれた存在を見てしまった。
学校生活に慣れてきたある日のこと。
関わらないようにしようと決めていたからこそ。幼馴染にもそのことは口外できなかった。
悲劇は再び訪れてしまった。
「え」
憑依された彼女たちを確認した放課後。
彼女たちが幼馴染の雪菜と共にどこかへと行く姿を見つけてしまう。
悪斗はつけてしまう。
4人組は屋上へと向かっていく。
屋上の光景をひっそりと扉の隙間から覗き込んだ。
「おまえさぁ、調子にのんのもいい加減にしろよ。そんな綺麗な顔してこの学校にいる少ない男子のそれもあの1年のアクトくんを独り占めとかふざけんなよ?」
「幼馴染とかマジそんな特権許されねぇしぃ」
「ほんま死ねばいい」
ガラの悪くコギャルな女子3人に絡まれてる幼馴染を目撃してしまう。
絶望的な光景。
慌てて止めようと足を動かそうとしたが動けない自分。
トラウマが引き起こした要因。
「クソッ! 動けよ!」
目の前で幼馴染がいじめられてる中に飛び込めない自分にみじめな思いを痛感する。
またあのような経験をしたくなかった。
「おいおい、そんなにいじめてやるなよ。かわいい顔が台無しになったらやる気も失せるんだって」
いつからいたのかガラの悪そうな男子が幼馴染へと近づいていく。
この学校に入学した数人いる男子の一人で最も素行不良態度が教師の間で騒がれてる生徒代表だった。
「なんでだよ……アイツが原因?」
彼には何も憑依しているようには見えなかった。
「そういうこと……。あなたが元凶」
雪菜の何かに気付いたかのような言い回しの言葉を聞く。
「雪菜姉ちゃんが危ない」
トラウマに打ち破るかのように足は動いた。
息苦しさに胸ぐらをつかんで喘ぎながらも悪斗は4人を睨みつけた。
「おいおい、マジかよ。そんなことってあるのかよ!?」
「え……なにその目……アクトくん?」
怯えている4人に容赦なく、手をかざした。
やってしまった後に悪斗は後悔で咽び泣いた。
その時に、その背後からそっと雪菜が抱きしめていた。
「私を助けるためにしたんだよね。わかってるから大丈夫。私は逃げたりしないよ」
「うわぁあああん!」
「ありがとうね。だけど、ごめんね。アクト。お母さまから言われたことを私は実行しないといけない」
「雪菜姉ちゃん?」
「一瞬で終わるからね」
そのあとの記憶は覚えていない。
だけど、その後のことは覚えている。
コギャルたちはなぜか学校を退学した。
悪斗もあの時の記憶も今となってはなぜ忘れていたのかと思える。
その後は自分が霊視の能力を持ったちょっと変わった人という認識をしていた。
本当は違うのに。
わかっていたはずの自分のもう一つの力の存在を忘れていた。
高校の時には両親は鞍馬家の人たちと海外遠征へと旅立った。
幼馴染の雪菜と長い二人だけの生活を始めていたのだ。
今ならようやく思い出せる。
(俺に備わってるこの力のこと、自分が何者かを忘れていたのはきっと……)