悪斗の覚醒
森林の中から一人の男を引きずって現れた妖怪『影女』の濡羽黒。
彼女は暗澹たる表情で彼を引きずって宮永桜の前に放り出した。
その光景を前にしてメフィストは拍手をする。
「見事見事。さすがですね。あの未覚醒とはいえ彼を捕縛するとは十分な成果ですよ」
「御託は良いですから早くイリエナ様を解放してください!」
彼女は愛すべき主人、イリエナを解放するために目の前の男メフィストフェレスと契約をしていた。
「契約通りに彼を連れてきました。あなたたちのいうことを聴いた。そうすればイリエナ様だけを救う約束をしたはず」
「ええ、しました。しましたけど」
メフィストは一向に彼女の意見に従うそぶりを見せずそれどころか、彼女の周囲に不穏な怪物どもの集団があらわれた。
彼らはゲヒタ目で彼女を見ている。
「僕は君の主人に仲間を殺されてるんですよね。それに対して何も行わないというのは割に合わない」
「約束と違う! イリエナ様を解放すると!」
「あはは、馬鹿ですか。僕はウソを得意とする悪魔ですよ。そんな口約束信じるなんて本当に……」
一瞬のための後に彼の表情が恍惚の笑みを浮かべて叫んだ。
「馬鹿な女だ!」
彼女へと群がり始めた怪物の雄ども。
必死に黒は抵抗をした。
衣服を剥ぎ取られて、露出する肌へと男たちの手が伸びる。
「クロッ!」
イリエナは涙ながらに彼女のことを呼んだ。
必死に体を揺り動かして暴れる。
「ああ、儀式中ですよ暴れないでください。せっかくの儀式が無駄になる」
「何が儀式かしらねぇっ! わたくしは最初からこんなの参加している覚えはないのよ!」
「ああ、面倒くさいですね」
ゆっくりとメフィストがイリエナへと近づいてその顔面を蹴り飛ばす。
彼女は衝撃を受けて大人しくなった。
その顔面を無理やりつかみ、目の前で今にも犯されそうな部下の姿を無理やりにメフィストは眺めさせる。
「さあ、恥辱にまみれて苦しんで死にゆくあなたの部下の姿を見続けるんですよ!」
「うぁああああああ!」
イリエナは吠えるしかなかった。
無抵抗にされた自分の非力さを味わう。
男どもに無理に犯されそうな黒も自らの過ちを後悔し、目の前のクズな男どもの慰みものにされはじめようとした。
奇跡は起きた。
宮永桜の悲鳴が聞こえて、メフィストも信じられない光景を目の前にする。
それはその場にいる全員の注目の的にさせ、行動を停止させた。
「ああ……なんと、なんと神々しい! まさか、まさかこのような形で覚醒したのですか!」
宮永桜の前に一人の青年が光を放出しながら立っていた。
それは黒によって気絶をされていた男であり、この島の唯一の人間とされていた青年。
そして、メフィストにとっては鍵にもなる重要な存在。
彼が覚醒した兆しを見せたのはメフィストにとっては感動で涙をこらえきれなかった。
宮永は産気づきながら感動に彼へと手を伸ばす。
「ああ、アクトさん。わたしの……」
その手は振り払われる。
彼女はショックに彼を見上げると彼によって自分は無視以下の存在でしか見られていないという認識をぶつけられた。
一つの視線だけで。
彼による覚醒の力の余波であるとはこの時メフィストと受けた桜だけが気づいた。
「どうして、どうしてなの! 悪斗さんどうしてそんな目を向けるの! 私は愛して愛して愛して愛してるのに!」
「俺を利用しようとした女を誰が愛すると思う?」
「私は利用したんじゃない……ただ、あなたを愛したかっただけなの!」
「なら、そのやり方が大きな間違いだったんだよ」
彼は彼女を無視してゆっくりと濡羽黒の傍に近づいた。
彼女の周りに群がった怪物たちを睨みだけで退かせた。
一種の恐怖を直感的にその場から離れた怪物は感じ取った。
抵抗すれば『殺される』という感覚があったのだ。
「お前にもいろいろ言いたいことはある。けど、この状況を作った元凶について話を聞かないとならならいから後回しだ。なぁ、そうだろそこにいるお前」
「アハハハハ、うれしい、うれしいですよ! 神の御指名! あなたと出会えるのを待ち望んでいましたよ! 創造神のイザナミの子孫の子よ!」