祭壇の儀式
宮永桜とメフィストはとある場所に来ていた。
メフィストの部下によって連行されている怪物の女を見ながら不気味な笑みをうかべる。
宮永桜も自らのおなかをさすって魔法陣が床に描かれている広々とした祭儀でも執り行うような祭壇の中央に立っていた。
連行されている怪物の女たちはいずれも人間の男と交わったとされる者たち。
その彼女たちは宮永桜を中心として祭殿の端に配置される。
そこには柱が立っていた。
その柱にそれぞれ縛り付けられて彼女たちは暴れる。
暴れると妙な脱力感が襲った。
「そういうことでしたのねぇん。アリカはあなたの存在を恐れていたのはコレが理由でしたのねぇん」
「さすがは大悪魔の末裔ですね。察しが良いことこの上なく素晴らしいことです」
「あら、褒めてくれるのかしらぁん? それじゃあ、解放してちょうだい」
「あはは、おもしろいことを言いますね。そんなことしてあげるわけないでしょう。宮永さん術式の起動はできるんですか?」
「もう、始めてる。話しかけないで」
「これは失敬しました」
お腹を触りながら宮永桜はブツブツと独り言のように念仏でも唱えるかのように続けていた。
それはこの場における祭壇で実行するある魔法術式を起動するための詠唱を行っていた。
まだ、準備はそれでも万全ではない。
「多くの力は溜まっているようですがやはり彼がいないと話になりませんからね」
メフィストは細めた目で宮永桜というエルフの末裔を見ながら自分が教え、彼女と共に書き上げた魔法陣を見続けた。
光輝き続ける魔法陣の文字は炎が燃え上がるけれど、その現象は不十分な証拠を示す。
「手は打ちましたが、大丈夫でしょうかねぇ」
「あなたたちが何をしようと無駄よ! 彼は絶対につかまらないわ」
「そうですね、あなたはソレを十分に理解していますよね。なにせ、あなたはずっと傍で彼を守ってきた守護する怪物の一族であったんですから」
「一体何の話か分からないわ」
「イーコール」
「っ!」
メフィストが言った名称に大きな反応を雪菜が示した。
それを見てメフィストは歓喜した。
「やはり、やはり間違いではなかったんですね」
「ちょっと、どういうことかしらぁん。イーコールですって? あれは亡んだ血の神じゃなかったかしらぁん?」
「それは生きていたんですよ。自分の身を偽ってずっとずっと長い間ね。ある使命を背負いながら時代を長く生きて人間の世界で他の怪物同様に生活もしていた」
ゆっくりとイリエナとイリスは雪菜を見つめていた。
彼女の目が赤い瞳に混じって金色の網膜へ。
それが彼女の正体を次第にイリエナとイリスにわからせた。
「ずっと、ずっとアクトを苦しませていたのはあなたね。悪夢を見させていた元凶」
「ええ、その通りです。私には大きな目的がありましたから長い年月をかけた壮大な計画がね。そして、その計画の上で欠かせない存在を見つけた時はもう最高に興奮しましたよ」
「この島に呼び寄せたのはあなた?」
「それは彼女ですよ」
遠い目をしながら詠唱を続ける宮永桜を見つめるメフィスト。
「あなたたちの目的は絶対に達成なんかできはしないわよ。彼は自分の存在ですら知らない。それを私たちが悟らせないように保護して生活をさせてきたのよ。自覚のない存在がこの広大な術式の鍵になると思うわけ?」
「あはは、確かにその通りです。でも、大丈夫ですよ。それはわからせるようにするために宮永桜を私は協力者に選んだのですから」
「どういうこと?」
「時期に分かります」
「アクトに何かをしたらただでは済まさないわよ!」
「本当に必死な神様ですね。よもや、守るべき対象に恋するほど堕落していますのに威勢だけは神様級でしょうか。アハハハ」
「コロス! 絶対に殺してやるわ!」
メフィストは余裕ぶって嘲笑い続けた。
宮永桜がついに空を見上げて身体中から黄金の輝きを放って空までその輝きは貫く。
周囲にいたメフィストの部下たちが次々と倒れていく。
「ひどいことするわねぇん。さすが災厄の悪魔ねぇん」
「誉め言葉と受け取っておきましょう。ですが、彼らは臨んでこの僕に仕えたのですから。しかしですね、部下はここに居る彼らだけではない」
その時、ゆっくりとした足音が近づいてくる音が聞こえた。
「ようやく到着ですか。待ちましたよクロさん」
その正体を見てイリエナは衝撃を受けた。
「なんで………クロッ!」