カリンの死体
沈黙を続けながら歩き続けていく二人。
かれこれ3時間は経過していたが一切二人の間では言葉の一つもなかった。
ひたすらに緊張感を醸し出しながら黒が言う集まる気配の元に向かう。
悪斗は黒の行く道について歩く。
心中は正直穏やかではなかった。
(ああっ! きっまずい! なんだよこれ! 疲れるんだけど!)
3時間の沈黙の移動は心身ともに限界を迎えている。
悪斗は彼女の背中を見つめながら物思う。
(この女黙りっぱなしで歩いていて疲れないのかよ)
そう思いながらも悪斗も彼女へついていくしか他に道はなかったために反論する言葉もない。
ただ、黙って歩き続けてようやく目的地にたどり着いたように黒の足が停止して悪斗も停止した。
「なんだ? ついたのか?」
突然として奇妙な感覚が悪斗の身体を撫でるかのようにして伝わる。
不気味な感触に背筋に悪寒が走った。
それも一瞬のことで何くわなかったかのように目の前では黒がまた歩き続けていた。
「あ、おい、なんか今妙な感覚したんだけど、なあったら!」
彼女に声をかけても振り向く素振りすらしなかった。
「ったく、さっき足を止めたのは何だったんだ?」
何も変わった不自然さは周囲にはなかった。
ここは無人島。人も一人もいないどこかの海の孤島。
森林や軍の基地のような跡地が存在しているだけでなんら他に変わった様子もない島。
その島の森の中に他に不自然さがあれば目に留まるが今いる場所はただ木々に囲まれた自分の存在だけであった。
「考えすぎか」
慌てて悪斗はもう一度歩き始めて彼女の後に続こうとしたときに何かが視界の端に見えた。
右方向を向いて、木々の中に何か地面にいるのを見つけた。
前に進んでいる黒を見て、悩んだ末に気になった存在に向けて近づいていった。
「え」
衝撃を受ける。
気になった存在は地面に倒れ伏した死体であった。
一体誰なのかは不明でしかないがふいに既視感を感じた。
「この人見覚えあるぞ。でも、どこでだ?」
数秒間考えたのちに、数日前の出来事を思い出した。
ちょうど、桜と共に逃げていたあの殺伐とした日々。
初めてアリカと遭遇した時の日。
『そうそう、これもあなたに聞きたいのだけどカリンはどこかしら?』
イリエナから聞かされたあの名前も思い起こされた。
あの場所でアリカと初めて遭遇した時に一緒にいた怪物の女がいた。
彼女のそのあとの足取りは不明だった。
ずっと、記憶の外のことだったようになっていた。
ようやくすべての記憶のピースがパズルのように重なって埋まった。
「そうか、あの時の彼女がカリン。でも、じゃあ誰が彼女を殺したんだ?」
彼女の身を起こした。
彼女は丙午でその肉体にバッサリと切裂かれたような傷があった。
起こした彼女の胸元の位置の地面には文字が書かれていた。
「っ!」
そこには『この島から逃げないとみんな死ぬ』と書かれていたのだ。
「これって……」
背後からがさっとした木ずれの音で振り返る。
何かが頭部を強打した。
悪斗の意識は失われて行き、薄ぼやけた瞳が捉えたのは一人の女の姿だった。
「どうして……」
意識がそのまま途切れた。