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絶望の序幕

悪斗はイリエナに抱かれようとしていた。

 普通ならば男が女をというのが一般的な行為なのだろうが、これに愛情なんてものは存在しない。

 彼女が悪斗に一方的な感情をぶつけてるだけの行為でしかない。


(こんなのは嫌だ)


 たびたびこの島で繰り返されてきた悪斗を襲う女たちの幻影が見えてしまう。

 中には確かな愛をもっての行為をしたときもあったがイリエナとの行為は違いを示している。

 彼女のモノが悪斗へ重なり合おうとしたその時に誰かの駆けてくる音がその行為に歯止めをかけた。


「え、雪菜姉ちゃん?」


 気まずい感情が真っ先に出て口から弁明の言葉を並べるように喋ろうとしたが、彼女の切羽詰まった叫びが先だった。


「イリスちゃん! 後ろに敵よ!」


 雪菜の言葉に反応をして後ろを振り返ると元は扉でもあったのか空洞個所ができている場所があった。その陰から一人の女の子がこちらを見ていたのだ。

 全然気づかなかった存在に思わず羞恥に顔が赤くなると同時に悲痛な声を上げたくなった。

 それだけではとどまらない。

 彼女の背後にいる影に気付いた。

 衝撃的な感情までが心を支配していった。

 イリスの身体に向けて伸びる黒い人影。

 その人影を突然として現れた別の人影が絡める。


「なんだっ!?」

「クロ、あなた彼女を止めなかったわねぇ!」


 必死でイリスを守るその影に向けてイリエナが怒鳴り散らす。

 イリエナも瞬時に動いてた。

 その動きは早く、悪斗の前から瞬間的にイリスの傍へと移動をしていた。

 彼女をかばうようにして抱き留めてその場から翼を使い離脱するイリエナ。

 妹を抱きかかえて飛ぶイリエナの背後に別の人影が存在した。


「あぶない!」


 悪斗は思わず叫んだ。

 イリエナも気づいてはいたが妹を抱きかかえていては防衛手段は行使できない様子であり、そのまま彼女が落下していく光景が目に見えた。

 慌てて悪斗は向かいに走ろうとするが、建物を飛び出して早々に後ろ手を掴まれた。


「どこへ行くの!?」

「雪菜姉ちゃん、たすけないと!」

「彼女たちは敵なんだよ! アクト、今なら逃げるチャンスなんだよ!」

「それでも、彼女たちを放ってはおけない!」


 悪斗の訴えを中々に聞き止めようとせず雪菜はその手を離さなかった。

 互いに気持ちの意見が食い違う。

 その二人をさらに追い込むかのように足音が近づいてくる音が聞こえた。


「やぁっと見つけました。悪斗さん」


 その声に悪斗の身体からは恐怖の発汗があふれだした。

 ゆっくりと声のしたほうを振り向くと大きなお腹をさすった一人の女性。

 長い耳に金髪、美麗な容姿にボロボロのシャツ一枚だけの姿。

 その女はいうなればエルフという種族の女性である。

 しかも、彼女を悪斗は良く知っていた。


「宮永さん……」

「ええ、あなたの愛する妻宮永桜です」


 さらなる絶望の序章が始まろうとしていた。

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