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二人の女とゆがむ気持ち

 一人でに鞍馬雪菜は基地内を散策していた。

 いくら同盟を結んでいても元は敵に変わらない相手を彼女はたやすく信頼するはずはなかった。

 彼の安全が保障されてるのは事実でそこは安心していた。

 同時に今の彼に再び自分自身が必要と無くなってしまったことに寂しさを抱いた。


「アクト……」


 彼の名前を口にしただけで胸がズキンと痛み、身体中に興奮する疼きが走る。

 性的欲求を刺激する本能。

 同時に吸血鬼としての本能が彼を求めてしまう。

 それも理由は彼女にはわかっていた。


「もしも、彼の正体をここの人たちが知ったら大変なことになる……」


 独り言ちたその言葉。

 その言葉を何者かが聞いた気配がした。


「誰ッ!」


 この周辺一帯には建物が多く顕在するので身を隠すにはもってこいの場所であった。

 その建物の影から黒い人影が姿を現す。


「あなた……」


 黒い衣装には目立つ金髪と金色の瞳をした女。

 自分と悪斗をこの基地に連れ出してきたイリエナの仲間の影の女だと気付いた。


「何か私に用事?」

「…………あまり動かないでいただきたい。同盟関係でも単独行動は控えていただきたい」

「何か見られて困るものでもあるのかしら?」

「そのようなものはない……」

「なら、別にいいでしょう」


 影の女を無視して雪菜はそのまま歩き始めたが女の手が彼女の素手をつかんだ。


「痛いんだけど……」

「動かないでくれといった」

「何よやる気?」


 その時にどこからか微かな悲鳴が聞こえた。

 イリエナの声。


「ちょっと、あなたのボスが大変みたいよ。助けに行かなくていいのかしら?」

「助け? イリエナ様はただ楽しんでいるだけに過ぎないです」

「楽しむ? やられてるの間違いじゃない?」

「…………ふっ、愚かな吸血鬼です。あなたの愛する男がどうなってるのかまだわからないんですか?」

「なによ……なんでそこでアクトが……」


 その時に雪菜は気づいた。

 急いでその場から動こうとするが影の女の触手が雪菜を絡めて身動きを封じ込めた。


「離しなさい! アクトに手を出して許されると思ってるの!?」

「あの彼は何者かは私も存じません。ですが、イリエナ様の邪魔をすることだけは許さない」

「あなたまさか……あの女が好きなの?」

「ッ! 私の気持ちなど二の次で構わない。イリエナ様のために私は動くのみ」

「馬鹿じゃない! 愛する人のために何かを起こすのが人ってもんでしょ!」

「私たちは怪物です。人ではない……」

「ハッ、これだから怪物処女は困るのよ」

「処女は関係ありません!」


 雪菜の身体が徐々に空へと高く持ち上げられていく。

 上空から彼女には見えてしまう。

 イリエナと悪斗の情事。

 

「うっー!」


 口がふさがれ何も喚くことができなかった。

 愛する男と敵の女の近くに一人の少女の存在と背後に敵影の存在が見えたのだ。


(ちょっと!)


 必死で影の女に唸って知らせようとするが影の女は拘束に必死で何も気づかない。


(このままじゃ不味い!)



******


 影の女は悔しさをにじませながら持ち上げた吸血鬼を哀れに見ていた。


「愛する男を寝取られて哀れにも抵抗するなど愚かな行為。そんな私も愛する人に言われるがままに行動しその愛が感じることはできない哀れな女……笑えますね」


 心にぽっかりと空いた穴。

 そんな絶望の悲しさにかすかに触手が弛緩してしまった。


「いつっ!」


 自らの触手は自分の肌と連結されている物質で噛まれれば痛覚はしっかりと伝わってくるものだった。

 思わず吸血鬼を解放してしまう。

 彼女が地面へと落下する。


「しまった!」


 慌てて近づこうとした次の時、彼女は素早い動きでどこかへと向かっていく。

 それはわかっているイリエナの元だと。


「それは駄目!」


 追いつけず、イリエナの元に彼女を向かわせてしまった。

 二人の視線がぎょっとしたままこちらを見ていた。


「イリスちゃん! 後ろに敵よ!」


 吸血鬼の女は予想外の言葉を口にする。

 イリエナと男の情事を観察していた少女がいた。

 イリエナの妹君。

 彼女の背後には黒い人影があった。

 吸血鬼の女はその人影へと突貫する。

 間に合うはずもない。

 

「っ!」


 自然と自分が動いていた。

 愛する人の妹を守るためならばその身を犠牲にしてでもと。

 影を使えば瞬間的にどこへでも移動できる影女の力。

 イリスの影へと動いた。

 自分の身体に強烈な激痛が走る感覚。

 影女の自分自身の意識はそこで途絶える。

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