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アリカの遺言

 沈みゆく意識の中で、アリカの死体が波打ち際に倒れた光景が見えてくる。

 何度も想像したあの忌まわしい記憶。

 彼女の遺体をモノクル眼鏡の男を筆頭にした集団が首筋に触れて脈を確認する。


「死んでいるのか」

「うわぁー、むごいっすねぇ。首を切るとか」


 死体と思っていたがそれが微かに動いた。

 アリカはまだかすかに生きていたのだ。


「何?」

「アクト……さん……彼女から逃げて……」

「ほうぅ……この女を運べマツ」

「えー、面倒なんすけど……。運ぶなら力自慢な鬼塚にやらせればいいじゃないっすか」


 マツと呼ばれた女は悪斗を後に襲撃する射手の女。

 彼女は嫌な顔をしながら、ガタイの大きい赤肌に角の生えた女を指摘する。

 彼は首を振ってこたえる。


「影の薄い君ならば彼女を背負っていてもバレることはないと判断する」

「あー! 今言っちゃいけないこといったっすね! むきぃー!」


 地団駄を踏みながらもしっかりと命令に従って彼女を背負う。


「確かに私は影が薄いっすよぉーだ! だけど、私が狙われたら影が薄くなかったって認めてくださいっすよ!」

「さて、彼女を回収したから基地へ戻ろう。彼女からは貴重な情報が聞き出せそうだ」

「ちょっと、ジンノ聞いてるんすか! ねぇ!」


 軽く無視されてちょっと涙目なマツを他所にモノクル眼鏡男のジンノの軍団はその場から撤退行動を開始したが、それを阻む攻撃が彼らを襲う。

 最初に攻撃の標的となった仲間は一人死ぬ。


「サミアド!」


 カタツムリのような目に蝙蝠のような耳をした男だった。

 その男の腹には大きな穴が開き、血が流れる。

 一瞬の攻撃に彼は即死だった。


「くっ、全員構えるんだ。敵は周囲にいる」


 ジンノの予想は大当たり。

 周囲から黒い影が生み出されて人の姿が次々と現れた。

 そんな現れた人々を取りまとめてる存在はもちろんいた。


「彼女を引き渡してくれるかしらぁん」

「君はあの時の悪魔の女か。なるほど、彼女は君の仲間なのかい?」

「だったら?」

「なおのこと人質になってもらうに限るな。彼女は貴重な情報も持っていそうだ」

「死にたいのかしらぁん?」


 一触即発の空気。

 ジンノの軍団たちは全員が我慢しきれなかった。

 仲間を一人殺されたことに腹を立ててるのだ。

 何よりも彼には恋人がいた。

 その恋人が無謀に特攻したのだ。


「タンドフェ、止すんだ!」


 だが、彼女は止まらず攻撃を仕掛けてしまった。

 金粉が影の黒い女に向けられる。

 それが引き金になり両者の戦争が始まった。

 


 ――――戦争は多大な被害を出してジンノの軍団がアリカを置いて撤退をしたことで終わった。

 だが、神楽坂イリエナは多くの仲間を失ったことに大きなショックを受けた。

 影の女の能力によって死体は黒い沼地の中に沈み消えていく。

 影の女はアリカの死体をも消そうとしたがアリカの手が影の女に触れた。


「イリエナ様! アリカが!」



 彼女にそっと近づいたイリエナは耳を当てる。


「アクトさん……殺さないであげて……彼は私たちにとって重要な人……私の愛した人……お願いします……殺さないで……食料として……でなく……彼を守って……ください」


 彼女は言葉を必死でつむぎながら告げていく。

 イリエナは涙を流しながら頷く。


「わかったのよ……だから、もう喋らないで。しっかりと治療をするわ」

「無理……この島にあの女が仕掛けた……ある限り……」

「あの女? 仕掛けた? なんの話をしているのかしら? ねぇ、アリカ!」


 アリカはにこやかに笑みを向けながら最後に言う。


「この島で……彼を守ることが一番の鍵……元凶は…………」


 アリカはそのまま目を閉じて最後に言う。


「アクトさんに……あなたが好きでしたと……つたえ……」

「アリカっ! しっかりなさい! アリカっ!!」


 最後にはイリエナの悲痛な声にならない叫びだけが海岸沿いにこだましていた。

 


 悪斗は目覚める――

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