神楽坂イリエナとの再会
影の海から解放されたときには朝日が照らして目をくらました。
見えた光景に唖然と立ちすくむ。
そこは見知らぬ場所だった。
どこであるのか周囲を観察して考える。
森林の奥地であるのか。
自分たちが隠れ蓑としていた場所とはまた違うコンクリート平米の建物が群衆となって点在している。
自分がその場所の中心地にいるようである。
「ここは島の基地? まだ別にあったのか」
「そうよぉん、うふふ」
ぞわっと背筋が凍りつくような声。
明らかな女性と思われるその声が背後からして振り返った。
一人の金髪の女がいた。
妖艶で黒いドレスを着飾り、グラマラスな身体つきを覆い隠す。
そんなグラマラスな身体にはタトゥーのような紋様と額には角。
悪斗は彼女のことをよく知っていた。
「お前は神楽坂イリエナッ!」
拳を構えた。
彼女は手を上げると
影から不気味な感じで手が出てきたかと思えば、徐々に体全体が出てくる。
それも二人分。
一人は悪斗を影に取り込んだ金髪に金色の瞳の影の女。
もう一人は彼女の能力であるのかそんな黒い影のような薄膜の物質に身体を拘束されて猿轡までされてるような状態の雪菜であった。
「おい! これはどういうことだ!」
「おとなしくなさぁい。私はもうあなたと争う気はないしどうこうするつもりもないのよぉん」
「そんな言葉信用できるか!」
「まぁ、そうでしょうねぇん。あれだけのことをお互いにしたんだからぁん。でも、アリカの意思を尊重してここは休戦協定を結ばない?」
「え……」
その言葉は悪斗の殺気を沈めて冷静させるには十分だった。
「アリカさんの意思だって……?」
「遺言で頼まれたのよ……あなたを食料としてでなく保護をしてくれってねぇん」
「遺言だって? アリカさんが死んだときお前たちはいなかった! デタラメを言うんじゃねぇ!」
アリカは悪斗の目の前で確実に首を桜に斬られて絶命をしたのをこの目で悪斗はしっかりと見ていた。
その場にいたのは誰であるのかもしっかりと覚えている。
悪斗と雪菜、桜とモノクル眼鏡の男の軍隊。
それ以外の人物はいなかった。
「それがいたのよねぇん。ウチの側近である影女のクロエが」
「ウソもたいがいにしろ。お前の仲間だったとしても彼女の死を使って俺を丸め口も歌ってそうはいかねぇ。アリカさんのことを使うことは何よりも許さねぇ」
「はぁ……。イリス」
イリエナが大仰にため息をつくと彼女の後ろからゆっくりと誰かが歩いてくる。
ずっと、物陰に隠れていたのか神楽坂イリスがこっちに歩いてきていた。
「イリスさん……今までどこにいたんだ?」
「ここに到着してすぐにお姉ちゃんに保護されて……それで」
「そうか……安全なようで安心したよ」
「それで……悪斗さんお姉ちゃんの話を信じてもらっちゃダメ?」
「イリスさん……。昨晩、話をしただろう。この俺は彼女と何があったのか。そんなことがあった相手をそうたやすく信じれると思うか?」
「それは……わかってるよ。でもね、お姉ちゃんは仲間思いで何よりも他人の死を使うような非道なことはしないっ! それが仲間だった人なら」
イリスの言葉は真意に悪斗をまっすぐと見て発言したモノ。
それに心は動かされてしまう。
もしも、仲間を無碍に思うようならば悪斗に保護されたイリスをイリエナは抹殺していることだろう。
裏切り者と罰して。
それをしていない彼女は本当に仲間思いであるのだろう。
「信じてくれたかしら? こっちも正直あなたを憎んでるのをこらえて提案をしようとしているにねぇん」
「イリスさんに免じて今回はお前のことを信じる。だけど、アリカさんの遺言ってのがどういうことなのかしっかりと説明しろ。話はそれからだ」
「わかった。なら、こっちへ来て」
神楽坂イリエナへと手招きされ、緊張に身体が強張る。
「何かする気か?」
「殺しはしないわぁん。私の記憶を共有してもらうだけよぉん」
そばでは雪菜が必死に体を揺さぶって暴れていた。
「落ち着きなさぁい吸血鬼。彼は殺したりしないわよぉん。これでも、妹を救ってくれたことに敬意も示しているんだからねぇん」
悪斗はなるようになれという気持ちで彼女へと近づいた。
そして、彼女の手が悪斗の額に触れ、膨大な記憶の波が悪斗の頭の中に流れ込み、その重みに耐えきれなくなって悪斗は気絶した。
「あら、強すぎたかしらねぇん」