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影の女

 濡れた身体は色々なもので風呂に入った後だというのにドロドロに汚れていた。

 しかし、それは愛の証明である。


 「アクト……」


 「雪菜姉ちゃん……」


 お互いに顔を見合わせて、唇を情熱的に重ね合わせる。


 イリスが二人の情熱的なキスを見て、今度は自分の番だというように悪斗へせがみ唇をあわせてくる。


 左右両側からの二人の美女のキスは至福のひと時である。


 しかし、その愛の確認はここで終了をさせられてしまう。


 遠くから突然と聞こえてくる爆発音に悪斗たちは反応してキスを止めた。


「今のなんだ?」


「爆発?」


「みたいですぅ」



 慌てるような一人の男の声が聞こえた。


「おーい! 3人共風呂あがってはよ来るんだゾ! 召集ぞ!」


 なんとも不気味な空気を感じる。


 また、一波乱が起こる気配に愛で緩み切っていた体に緊張感が走り硬直し始める。


 3人して唯一の乾ききった床下の上で着替えをすまし、地上へと出ると焦燥した表情の須藤が待っていた。


 俺たち3人は須藤の声に呼び出されて、秘密の居住場所にしている基地の中へと急いで戻った。


 裏の出入り口の付近で待機していた須藤の様子は焦燥にまみれていた。


「このブタ、あなた覗いていたんじゃないわよね!」


「ブッ――誰がおめぇのようなビッチ吸血鬼のセッ〇スなんか覗くんだぞ!」


「誰がビッチよ! って、やっぱり覗いてたんじゃない!」


「いや、3人で入ってるならそのくらい察しがつくんだぞ」


「うっわ、最低な想像ね!」


「ちょっと、二人とも話がそれてる! それで、須藤さん何があったんですか?」


 どうにかして二人の喧嘩を止める意味も込めて須藤のほうへと本筋を問いただした。


 彼は思い出したように外に誘導する。


 寝床場所でどうやら襲撃があったらしい。



「なんで早めに言わないのよこのブタ!」


「僕は話そうとしたんだぞ! おめぇが話の腰を折ったんだぞ!」


「私が悪いっていうの!」


「ちょっと、いい加減に喧嘩はやめて敵の襲撃に集中しないとまずいです!」



 須藤にも言い聞かせるように丁寧な口調でなるべく仲裁に入ってみるが過去も過去で須藤に対する雪菜の感情は怒りしか向けられない。


 まだ信用性はないのだ。


 それは悪斗自身も同じだったがもう長い時、この島で同じ釜の飯を食った間柄なので最初に比べたら信用度は上がっている。


 もしも、彼がまだ敵であったとするならば今の状況で無視をしていたはずであり、見張りまでしてくれるはずもない。



「須藤さん、我堂さんはこっちへ来ましたか?」


 単刀直入に彼に質問をしたもう一人の仲間の安否の確認も込めた。


 だが、彼は首を横へと振った。


「あの人ならたぶん大丈夫よ。狼男は回復能力もずば抜けてるし、身体能力も高い。まぁ、認めるのは癪だけど妖怪として次に優秀なのは彼なのは間違いないってくらいよ」


「雪菜姉ちゃんがそこまで言うなら大丈夫と思いたいけど」


 彼の安否は不明であるのは変わらないけれど、この基地にいる中で戦力として非常に信頼性の高い雪菜の発言には説得力があった。


「それよりも今回の襲撃はやはりソコの女を狙いに来たに違いないぞ。さっさとこの女を引き渡すしかないぞ」


 須藤が悪斗の裾を掴んで決して離さない少女に睨みを向けた。


 悪斗はかばうように須藤の前に出た。


「彼女を突き出すっていうなら俺は何をするかわからないですよ」


「へぇー、人間のお前に何ができるんだぞ? 妖怪の種馬になるくらいしかできねぇ人間なんぞに」


「あっ?」


 先ほどいやらしい行為を一緒にしていた間柄ではあっても出会ってまだ数日という彼女、神楽坂イリスという少女。


 謎の集団に襲われ逃げてきたという彼女だが、実際にはまだ彼女は自らの素性をすべて語ったわけでもないので心の奥底では悪斗も信じてはいなかった。


 須藤の疑いもわかるし、この状況で彼女が狙っているのもまた事実だとわかっていた。


(だからって、女を差し出すほど落ちぶれてねぇんだよ)


 少しでも優しい気持ちを捨てたくはない。


 責任感もあるのだ。


 少女を抱いた責任感が動かしている。


 愛した女を守らないといけないという行動。


 唯一彼女の味方をしてあげるのは悪斗だけしかいないと悪斗自身は感じ入った。


 雪菜も彼女の危険性をまだ痛感している状況なのだから須藤に賛成だろうと思い込んでた。



「おい、豚」


 悪斗の予想は外れた。


 自らは愛した女性を信じれなかったという罪悪感も押し寄せた。


 悪斗の目の前で雪菜は須藤を蹴り飛ばしていたのだ。


「な、なにふるんだぞ」


「いたいけな少女を生贄に差し出す? ふざけるんじゃないわ! 彼女は私の妹って認めたの! だから、彼女は絶対に私が悪斗と一緒に守るわ」 


「何をトチ狂ってんだぞ。おめぇもさっきまでこの女を危険視していたんじゃなかったのかだゾ」


「ええ、でも一緒に裸の付き合いをして分かったこともあるのよ。イリスちゃんはねすっごい優しい女の子だって」


 須藤に堂々と宣言した雪菜。


 おもわぬ掌返しとはこのことを言うのだろう。


(俺ってやつはどうして雪菜姉ちゃんのことをもう少し理解してやれないんだ……こんなに良き義姉のような存在で愛する女性じゃないか)


 須藤は口から出た血をぬぐってゆっくりと立ち上がった。


 急いで建物から出て駆け出した。


「ちょっと、どこ行くのよ豚!」


 夜間の中でわずかに星空が照らす中を疾走した彼の姿はすぐに見えなくなった。


 夜目でも効く雪菜には見えていたのか――


「あの豚一人で敵影の中に突っ込んでたわ」


「え……助けないと!」


「いいえ、それは得策じゃないわ。私たちはこのまま基地から離脱するの」


「で、でも、それじゃあ我堂さんたちを見捨てることに……」


「アクト!」


 両頬を抑えられて、普段の狂った雪菜ではなく、少し冷静な彼女の表情になっていた。


 普段の雪菜である。


 悪斗といると狂ったような振る舞いをしがちに見える彼女であるが本来は冷静な判断力をしっかりと持ち合わせている彼女である。


 だからこそ、彼女は決断をした。


「このまま、私たちが行けば敵の思うつぼになる。それどころか、優遇な状況まで与える可能性だってあるの。だから、私たちはこのまま基地から抜け出して3人でどこかへと逃げて数日身を隠すの」




 悪斗はゆっくりと頷いた。


 苦渋の決意をするように下唇を強く噛み締めた。


 自身にはコレが最善の策だと何度も言い利かせた。


 3人で建物から出て走り、フェンスを越えようとしたとき、一陣の風がフェンスを吹き飛ばす。


 3人の足を止めた。


「逃がすわけにはいきませんよ」


 ゆっくりと夜闇の中に響く革靴であるく音。


 夜闇に響く、終演の序曲にも聞こえてしまう。


 夜目で見えぬ悪斗であったがわかった。


 背後を振り返り、間合いを取って男立っていると。


 彼の手には誰かが握られている。


「ああ、そうだコレお返しします」


 ポイっと誰かが投げ渡された。


 かすかに夜目に目が慣れ、近くに倒れた大柄な男の存在が分かった。


 血まみれになった須藤の姿だった。


「すどう……さん……」


 完全に瞳孔は開き、首を斬られている。


 須藤の亡骸であるほかないのだ。


「急に『ココは僕が守るんだぞー!』っと襲いかかってくるものですから始末してしまいました」



 我も忘れて彼に殴りかかろうととしたとき、後ろからその手を引く手があった。


「駄目! アクト!」


 雪菜がその手を止めた。


 毛嫌いしていた相手でも仲間であったことには変わらない。


 その仲間を殺されたことは彼女もまた怒っていた。


 冷静な彼女はわかっていたのだ。


「彼を相手にしては駄目」


 じりじりと後退をするように悪斗を後ろへと押していく。


「ふむ、吸血鬼にしては勘が鋭い。僕を一瞬でも危険と判断した」


 平然とにやけ面を晒し、モノクル眼鏡のレンズをふき取ってる仕草。


 悪斗にも夜闇に慣れた目でその人物の姿の全身が見えてくる。


 至って人間のような姿をしている存在をどうしてそこまで警戒をしているのかが悪斗にはわからなかった。


「天地創造以降、我々のような存在は能力を弱めてしまったが故に他種族よりは劣った能力を持っているとは思ってはいません。ですが、その悪魔の娘だけは別でしてね」


 突然と流暢に自らの申し出を何やら語り始める男に悪斗は聞くに及ばず怒鳴った。


「黙れよおっさん! 須藤さんを殺しやがって! この人は最低な人であったけどそれでも反省して俺らに対して心意に接しては彼なりにしてくれてたんだ!」


「ふむ、ではこちらからは一つ。そのオークは何やらあなた方の信頼を勝ち取るために僕たちに向かってきた様子でしたが? それはあなた方が心意に彼に接していなかったのにどうして彼の死をそこまで悲しむ?」


 図星をつかれ、悪斗は何も言えなくなった。


 風呂に上がっての一件が一瞬にして思い起こされた。


「君たちこそ仲間の死という建前を使い僕の言葉を遮る行為をやめていただきたいですね」


 

 悪斗は膝から崩れ落ちて、あの時の光景が思い出された。


 アリカが死んだ時の光景――


「あ……あぁあ……ああああっ!」


「あ、アクト!」


 パニックになった悪斗の肩を抱きしめてキッと雪菜は彼を睨みつけるしかなかった。


 相手の強さをしっかりと理解しているからだ。



「では、単刀直入に申しますね、彼女を渡してください」

 

 雪菜は悔しく奥歯を噛み締めて、鋭い爪を伸ばす。


 吸血鬼の力を拡大化させていく。


「私と戦う気ですか? 馬鹿な行為をよしなさい。あなたも理解していますでしょう。そのあなたがかばう悪魔はとんでもなく危険ですよ。あなたを殺す可能性だって秘めています」


「そんなことしないって私にはわかったの。最初は私だってイリスちゃんが危険な存在だって信じていたわ。でも、大悪魔にも彼女のような子は存在していたのよ」


「はぁ……まったくに愚かな決断ですね。ならば、死んでください」


 男が手を振るう。


 その時――――ゆっくりと暗闇の陰から姿を現す存在が振るった男の腕を斬りつけた。


「チッ」


 モノクル眼鏡の男は瞬時に後退する。


 悪斗たちの前に暗闇の地面からゆっくりと奇妙な黒い女が姿を現した。


 胸元が開けたようなシースルードレスを着込んだ女性。


 それは見間違いで、着飾ったドレスはただ暗く澱んだ何かの影のような薄膜が体を覆っているだけだった。

 

 彼女の素顔は夜闇の中でも綺麗に輝くほど美しい金髪と金色の瞳をしていた。


 

「あなた何者?」


「私の影へと手を触れて」


 突然に表れたその女に雪菜は一瞬混乱したが、今は迷ってる暇はなくその陰に大博打で触れたのだ。

 雪菜はそのまま悪斗たちの手も掴み、悪斗はイリスの手を掴んで3人は謎の女の影に飲み込まれていった。


 

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