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隠された秘湯

  あれから、悪斗たちは鎮火した森を通って基地へと戻った。

 フェンスや建物作りが火災の被害を受けなかったようで中にいた我堂たちは敵の襲撃だけの被害で済んだようであった。

 彼らも敵の襲撃は無事乗り切って生きてもいた。

 それには悪斗も安心をして胸をなでおろし、同時に感謝もした。

 自分たちの戻る場所をしっかりと確保して守ってくれていたのだ。

 さらに、彼はすぐに食事の準備をしてくれた。

 いたわりつつ、イリスのことを無碍にせず、この場で一時的にかくまうことを承諾してくれる次第に落ち着いた。



「今この場で彼女を離すのは得策ではないだろうしな。オレたちのところへイリスを狙ったその射手の少女とやらがまた来る可能性もある。ならば、どちらにしても彼女をここで野に放ったとしても意味もないはずだ。どうせ、オレらが奴らは匿い続けると思って行動を起こすに違いないからな」



 そう結論付けて、我堂はイリスに寝床を与えた。


 その寝床はちょうど、悪斗の隣の部屋だった。


 殺風景な風通しの良い月が見える部屋ではある。


 イリスの住まう部屋には問題が一つあった。




「ちょっと! 我堂さんアクトの隣の部屋は私でしょ!」


「だから戦力となる君と同じ部屋に彼女を住まわせればいい」


「つまり、私が彼女の護衛をしろって? なんでよ! 今日だけはアクトのピンチでもあったしいろいろわけ合って協力したけど今日だけのはずでしょ!」


「なんだ? そこまで嫌がる訳を話せ」


「そ、それはだって……アクト……二人きりに……なれない……。それに……」


「彼女が最上位悪魔だからか?」


「き、気づいてたの?」


 雪菜も悪斗も我堂と須藤には唯一イリスのことで伝えてない事柄がある。

 それは射手の女が言った『ソロモンの悪魔』である彼女の正体について。

 我堂は薄々ではあるがそれに気づいていた様子で今語った。


「神楽坂イリエナの妹ならば、そう考えるのが妥当だ」


「それなら、私のみの危険性も考えてよ!」


「君の危険性? アハハハ。吸血鬼である君が何よりもこの中で一番強いじゃないか。それに、彼女は少女でも一応女性だ。オレが同衾したのでは問題あるだろう」


 まさに我堂の正論に雪菜もそれ以上の追及はしなかった。



 我堂が呆れた様子で再度窘めるように言い残した。




「君がアクトくんを好きなのはわかるが事情も踏まえて行動をしてくれ。今は君が頼りなんだぞ。君は一番妖怪としては優れた存在だというのをわかってほしい」




 悪斗もそれには賛同できた。

 だから、自らもまだ結論にはっきりと答えを出さない雪菜を丸め込むためにも擁護する。



「雪菜姉ちゃん、俺からも頼むよ。雪菜姉ちゃんだけが頼りなわけだし」


「むぅ……アクトが言うなら……」



 雪菜は渋々彼女の護衛係兼監視役とルームメイトに同意した。

 そのまま、イリスを引き連れて自分の部屋の場所へと案内をしに行く。


 しかし、件の弓使いの少女を率いている例のジンノという男のグループがイリスを危険視した要因だけは不安性としてまだ残る。


 彼女を狙うのもそう言った危険性を考慮して行動をしてくる可能性も再びある。



「あ、あの、例の敵はまた明日きますかね」


「ん? 悪斗君それはどういう意味かね?」


「今日俺は彼の仲間を二人殺した。それを彼が気づいていないはずはないですしそれに……彼はここ最近動きが活発化しているみたいだし……」


「ふむ……それは彼女もそうだし自分も仲間を殺した腹いせに敵へ狙われる恐れもあるんじゃないかということかね?」


「…………」


「大丈夫だ。君が命を奪われることは決してないよ。なにせ、君には強いボディーガードがもういるではないかね」



 彼の視線の先には雪菜とイリスがいる寝床の建物だった。

 我堂は再びだまり込んだ。

 消えかけの焚火の前で悪斗も大人しく身体を温める。


 日が沈みゆき、須藤が自ら進んでマキ拾いへ向かった。


 その様子を見た我堂はふと何かを思い出したのか立ち上がった。


「我堂さん?」


「そうだ伝え忘れていた。襲撃のあったときにたまたま見つけた場所があったのだよ」


「何か見つけたんですか?」


「ちょっと、待つといい」


 言われてから数十分後、須藤が濡れた髪と上気した身体を揺らして歩きながら戻ってくる。

 まるでどこかの温泉にでも使ってきたような姿だった。


「え、風呂でもあるんですか?」


「そのまさかだ。風呂場を見つけたんだよ。ここから、北東側にあった建物の地下道があってだな、その先に湯が沸いた場所があった」


 それに悪斗は歓喜する。


「その話本当!?」


 耳ざとく吸血鬼の聴覚で聞き耳を立てていたのだろう。


 イリスを引き連れた雪菜が再び戻ってきた。


「ああ、ここには温泉がある。行ってくるといい。須藤途中まで案内をしてあげるといい」



 須藤に連れ立って、悪斗とイリス、雪菜は後をついていった。

 密集された基地の群衆の中にあったドーム型の建物。

 その中へと彼が入っていくと地下道へと続く階段があった。

 どんどんと先へと進み、微かに硫黄のような匂いがしてくる。


「襲撃の時に身を隠していた時にたまたま見つけたんだゾ」


 大きな広さの岩盤の溝に湯気立つ水が浸かっていた。


 溝の微かな穴からは間欠泉のごとく泉があふれている。


 まさに温泉だった。


 だが、お湯は思ったより少ない。


「わずかに周囲の亀裂がお湯を常に流してしまってるから綺麗ではあるぞ。だが、少ないのも欠点だが十分体は温まるゾ」


「へぇー、わるくないじゃない。まぁ、強いて言うならオークの後に入るのは正直嫌ってところかしら」


「なら、入らなくていいゾ、クソビッチ」


「だれがビッチよ!」


 バチバチといつものことながら仲悪くにらみ合いをおっぱじめる二人。

 そんなこと空気を壊すように一人の少女の嬉々とした笑い声が聞こえた。


「うっわぁー! あったかぁい!」


 二人してその少女の笑みに怒りも忘れたのか冷静になっていった。


「じゃあ、あとはゆっくりするといいゾ。オレは隣の建物にいるゾ。なんかあれば呼びつける」


 そう言って彼はそのまま出ていった。


 残った悪斗たち3人。

 悪斗はこのメンツを見て真っ先に言い出す。


「じゃあ、俺は後でいいから先に二人で入っておきなよ。俺は須藤さんの馬鹿がのぞきに来ないように隣の建物で見張っておくから」


「アクトも一緒に入ろうよぉ」


「は?」


 一瞬何を言われたのか理解できずポカーンとなってから慌てて首を振った。


「な、何言ってんだよ! イリスさんもいるんだ! 一緒に入れるわけないだろう!」


「もう! 照れ屋さんなんだから! でも、二人っきりならOKなんだね! うれしい!」


「そ、それも違う! もう、さっさと入ってくれ! 俺は見張っているから!」


 そう言いながらその場から出ていく。



「はぁー、あいかわらず雪菜姉ちゃんは心臓に悪いことばっかしか言わないよな」


「それはなんだぞ、リア充自慢か? 爆発すればいいんだぞ」


「す、須藤さん! 覗きに来たんですか!」


 階段を上って地上へ出れば、皮肉な物言いを返す須藤が待っていた。



「なっ! 失礼だぞ! 違うぞ! これ!」


 須藤が手渡したのはリンゴにも見える果物だ。



「とりあえず、風呂あがったら二人に渡すといいぞ。水分補給がわりにはなるんだぞ。僕は隣にいくぞ」



 意外な彼の気使いに悪斗は言葉を失う。





「す、須藤さん待ってくださいよ、僕も一緒に行くんで」


「は? 何を言ってるんだゾ」


 そう言って彼が後ろを見ていた。

 そこには雪菜とイリスがいた。


「お前ら先に入っていたんじゃないのか?」

「私はアクトと一緒じゃなきゃ嫌なの!」

「いや、だって……」

「私なら平気です……アクトさんにはお礼もかねて背中を流したいです!」


 なんて顔を赤らめて言う二人を無碍にはできない気持ちでいっぱいになった。

 そんな悪斗たちの様子を見て須藤は舌打ちする。


「リア充爆発しろ! リンゴのお礼はいらないゾ!」


 そういって彼はその場から離れていった。


 突然に体の向きを変えさせられた。鼻腔を柑橘系のよい香りが突き抜けたとき、悪斗の唇は雪菜の唇と重なり合っていた。


 淫猥に絡まりあう舌。



 何度も、口を離そうとしても離さない雪菜に悪斗はされるがままだった。


 自ずと力が奪われていき、手にした果物を落とす。


 イリスはその光景にどきどきしながら手で顔を隠していた。


 そんなあられもない二人の姿を見てはいけないというマナーを守っての行動。


 だが、年頃の乙女。


 わずかな手の隙間から二人の愛の行為をしっかりと見てしまっていた。


「ねえ、一緒に洗いっこして……私のもの全部あげるからアクトのもちょうだい」


「雪菜姉ちゃん……そんなイリスさんもいるのにそれは……」


「それなら、大丈夫私に考えあるんだ」


 手は彼女にひかれてそのまま温泉のほうへと連れて枯れた。


 そうして悪斗は――一つの決断をし、その日悪斗は二人の女の初めての男になったのだった。

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