宮永桜の陰謀
宮永桜は一人、悪斗たちに散策と伝えた後、周囲の散策なんてせず一人森の奥深くに進んでいた。
周りのあらゆる木々に魔法をぶつけ通り道を作っていく。
魔法をぶつけ続けて進むと途中で魔法が何かの壁にでも衝突したかのように打ち消される。
「このへんでしたか」
右手を伸ばしてバチッと手先に感じる魔力の波動。
詠唱を唱えて、空間に黒い穴が出現する。
ゆっくりとその場所に足を踏み入れた
彼女がひた隠しにしてきた場所。
まるで森林の中とは思えないような幻想的な空間がそこには存在している。
そもそも、ここは別の次元空間が作り出している場所であった。
周囲には何もなく石畳の上にある祭壇のみ。
四方を囲うのはわずかな支柱。
祭壇に触れた桜はある部分を目視で確認する。
祭壇の中央にある四角の台座に幾何学文字が浮かび上がる。
それは人間の言語でもない。彼女だけが知っている失われた言語、エルフ文字。
『場所と時を指定せよ』という文字と下には時限爆弾のような数字表記。
「残り二日しかない。あれだけの危険を冒したのに彼の力は覚醒しない……これじゃあ、意味ない! 子供を宿したとしても彼が神格化しないと意味がない! そうじゃないと私は……」
支柱を蹴り、苦痛の叫びをあげた。
彼女は背後の殺気に気付いた。
腕に巻きついた鉄鎖。
その鉄鎖を放った人物は桜が数日前に遭遇した敵、神楽坂イリエナの部下であるアリカとともにいた女であった。
「丙牛の女ね。ずいぶんと苦労して追いかけてきたみたいですね……しかも、この空間を見つけるなんて驚きました」
「ここは何? あんた何をしようとしているの? ただ猫被っていたにしては平然とは思えない」
「……」
両者に緊迫した空気が漂う。
一歩動いた方が先手の攻撃を放つ。
そんな空気が両者の間でできていた。
「アリカはどこ?」
「私が簡単に教えると思いますか?」
「力づくでも口を割らせようか!」
「くくっ、ちからづくぅ? 本気で私に勝てるっておもってるんですかぁ?」
「あ?」
含みのある挑発的に言い回しに丙牛のカリンは癇に障り、鉄鎖をもう一度放った。
彼女の首筋にまかれた鉄鎖を強引に引いて彼女の首を締めあげる。
「どう苦しい! このままおっちんでイキな!」
「くくっ、力量差も知らないバカ女」
鉄鎖は突如として溶解し始めた。
その現象にカリンは動揺して武器を手放す。
隙をつき、宮永桜が迫った。
「しまった」
懐へもぐりこんだ桜の掌に宿った闇色の光が彼女の腹へと射出された。
一種の砲弾攻撃にカリンの内臓器官をずたずたにして彼女は喀血しながら地に倒れ伏す。
「ただの……エルフじゃない……ね」
「いいえ、エルフですよ。3分の1ですけど」
「3分の1? ……あはは、この強さで……」
「私3分の1エルフで悪魔『――』ですから」
その言葉を聞いたとき、カリンは血の気がひき青白く染まる。
自分が従うリーダーと同じ種族では勝ち目はない。
悪魔とはどんな種族でも頂点に君臨する最強の存在である。
そして、最後に囁かれた種族は実在してるのかとさえ半信半疑な伝説的な種族だった。
もし、それが事実とすればカリンは祭壇のことを思い出した。
「そうか……今回のすべては…………」
「気づいたんですかぁ……でも、死ぬからもう意味ないですね」
「さっき……なんか……ほざいてたの聞こえたんだよ……あの男の覚醒がどうとかな……」
「うん。いいですよ。冥土の土産に教えてあげます。彼は――」
カリンは真相を知って頭が混乱した。
もしも、そんな存在がいるとするのならば――
「私たち……最初から餌だった……わけか」
「いまさらわかっても遅いです。私は彼との子を授かる」
「地獄へ落ちな……」
カリンはすべての納得をすると徐々に力が失われていく。
桜は彼女の顔をぐしゃっと最後に踏み砕いた。
「ああ、もったいないことしました。力の源が一つ減りましたか。まぁ、保険もあるから大丈夫でしょう」
彼女はゆっくりと死体を運び出して異空間から出るとそこには数人の神楽坂イリエナの部下らしき集団が待ち構えていた。
「これはもったいない戦になります」
余裕に薄ら笑いを浮かべる桜。
対して神楽坂イリエナの部下たちは彼女の手にしている仲間の亡骸を目にして怒りを剥きだす。
「いいですよ。相手しましょう――子供のためにも」
向かい来る敵を前に桜はその背中から翼を広げて立ち向かった。