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若君は吸血鬼  作者: 関川二尋
第一章 若君のお目覚め
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女のサガ

 この時の若君の言葉が何を意味していたのか、母さんにはもちろん、あたしにも分かるはずがなかった。

 その意味に気づくのは、しばらくたってからのことになる。


  だから母さんと二人

 「まぁいったいなにかしらね」

 「わかりません、おかあさま」

  などと二人でホホホと笑っていた。


   †


 ああ、あたしはバカでした。

 あたしは甘かったのです。


 若君の顔の良さにすっかり判断力を曇らされていたのです。


 これがあの有名な『女のサガ』というやつなのかもしれない。


   †


 やがてあたしたちは家に着いた。


 両開きの扉を引きあけると、三人の老人たちが勢ぞろいして待っていた。

 みんなちゃんとキモノに着替えて、板の間に並んで正座している。


「ただいま帰りました」と母さん。


 だが老人たちは母さんの言葉など聞こえなかったように、ただ若君の姿をびっくりした様子で見上げていた。みんな明らかにたじろいでいた。


「どうした、主君の顔を忘れたか?」

 若君がそう言うと呪縛が解けたらしい。へへーっと一斉に頭を下げた。


「若君様、お待ち申し上げておりましたです」

 ボタンばあちゃんが言った。


「お、お待ちしておりましたっ!」

 ジイちゃんは床に額をこすりつけんばかりにお辞儀した。


「ようこそいらっしゃいました」

 芳子ばあちゃんだけはすぐにいつもの様子に戻り、優雅に頭を下げた。

 

   †


「うむ。出迎えごくろう」

 若君は短くそう答えただけだった。


 それから若君は玄関に父さんの体を降ろした。父さんはぐんにゃりと床に転がったが、まだ目覚めなかった。というかすでにただの荷物みたいだった。

 だから誰もあえて父さんを起こそうとはしなかった。


「みなの者、かわりはなかったか?」


「ははーっ、もったいないお言葉、ありがとうごぜえます」

 じいちゃんが答えた。


 ボタンばあちゃんはハッと口に手を当て、感動の涙を流していた。


   †


(なんだやっぱり面識があるんだ)


 じいちゃんたちの話している言葉からそれがわかった。

 それにしてもこんなに若いのに年寄りに土下座させてるって、いったいどういう人なんだろう?


 あたしはチラッと若君の横顔を見た。


 う、やっぱりカッコいい……


 あまりカッコいい男の人には興味がなかったつもりだったけど、間近で見ると魔力のように引き寄せられてしまう。つい見とれてしまうのだ。


 あたしも普通の女の子ってコトだったのだ。


   †


「さて。さっそくじゃが、部屋の用意をたのむ」

 若君は帯から日本刀を抜き、じいちゃんに預けた。

 じいちゃんはありがたそうに、刀を両手でささげもち、そそそと下がった。


「奥にお部屋を用意してございます」

 芳子ばあちゃんの言葉に若君は短くうなずいた。

「うむ。案内せい」


「ささっ、どーぞ。どーぞ、こちらに」

 ボタンばあちゃんはまだ四つんばいのままだった。四つんばいのままで、サササッと廊下を進みだした。


 若君はわらじのような履物を脱ぎ、ボタンばあちゃんの後に続いてズンズンと廊下の奥へと歩いていった。そして廊下の角を曲がって、その姿は見えなくなった。


   †


「ふぅー」

 若君の姿が消えると同時に、あたしは大きくため息をついた。

 なんだか異様に疲れてしまった。


「さて、これで終わったわね」と母さん。

「あの人、誰なんだろうね?」とあたし。


 なぜかサムライ姿で、時代劇コトバ、うちのおじいちゃんたちを土下座させている不思議な立場、なんとも謎だらけの人だった。


「さぁ、たぶん本家の御曹司とか、そういう人なんでしょう」

「とにかく変わった人だね」


   †


 と、そのとき、ようやく父さんが目覚めた。

 「うーん」と、うなりながら体を起こし、それから辺りをきょろきょろと見回して、あたしと母さんを見上げた。


「あれ、なんでここで寝てるんだ?」


「若君さんが運んでくだすったのよ」

「若君さん、って誰?」


 父さんはなまじ豪華な着物を着ていただけに、その姿がよりいっそう悲惨にみえた。

 哀愁を誘うような姿と言えばいいのだろうか。


 あたしと母さんは同時に肩をすくめ、目を合わせて、お互いに微笑んだ。


   †


 この時、あたしはこれですべて終わったと思っていた。


 でもそうじゃなかった。


 むしろ、これは始まり。

 第一章の終わりでしかなかったのだ。 

目覚めた若君とはいったい何者か?

どう考えても『吸血鬼』と予想しているとは思います。

が、物語はとにかく第二章『内羽一族の秘密』へと続きます。


ストーリーは徐々にテンションを上げていきます。

楽しんでいただけると嬉しいです。

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