教会へ
あたしとマーちゃんはそのまま【教会】へと向かった。
平坦な農道を途中で曲がり、丘の上へとつづくなだらかな道を登ってゆく。
雨はとりあえずあがったけれど、濡れたジャージが体にへばりついて、なんともいえない嫌な感触だった。それに靴も靴下もぐっしょりと濡れてて、それがなんか蒸してて、これもまた気持ち悪かった。
でも復活したあたしたちはへっちゃらだった。
もう手もつないでいない。
二人並んでぐんぐんと坂を上っていった。
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片側が崖になった坂道をしばらく登ると、道の両脇に白いペンキが塗られた木の柵が現れた。つまりこのあたりから教会の敷地が始まっているらしい。
さらに坂を登っていき、最後に右に折れる急カーブを抜けると、目の前に巨大な教会が現れた。
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「うわ。すごいね……」
実はあたし、教会に来たのは初めてだった。とくに理由があった訳じゃなくて、たまたまその機会がなかったせいだ。この町は昔からキリスト教の人が多かったけれど、家はずっと神社の方だったのだ。
「そうでしょ。とにかく古いのよ」
マーちゃんはそう言ったけど、あたしが驚いたのはその大きさだった。
教会全体の大きさは大きな体育館位。その四隅には中世のお城みたいに、先の尖った塔がそそりたっている。そしてそれぞれの塔の先端には、真っ黒い鉄製の巨大な十字架が立っていた。
メインの建物は平屋の石造りだが、その天井の高さはたっぷり二階分はあった。正面には巨大な木製の扉が一つあるだけ。でも馬に乗ったまま、二列で入れるくらいの大きさがある。
さらに教会の屋根には『ガーゴイル』っていうの? 不気味な悪魔みたいなのが膝を抱えていっぱい座っていた。
はっきり言って、この教会こそ、吸血鬼が住むのにふさわしいように見えた。
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「パパぁー、帰ってきたよぉ!」
マーちゃんは敷地に入るなり、空に向かって大声でそう言った。がらーんとした敷地でその声がかすかにこだまを返した。
「お帰りぃー! 裏にイルよー!」
姿は見えないが、かすかに英語なまりの日本語が聞こえてきた。
「裏だわ。行こ」
マーちゃんに手を引かれるままに、ぐるりと教会の裏手に回ってゆく。
†
教会のまわりにはぐるりと花壇が作られており、今はクチナシの白い花が咲いて、香水のような強い芳香をふりまいている。
ちなみにこの花がクチナシとわかったのは、若君のおかげである。
若君が一番好きな花だそうだ。
ぐるりと壁沿いに回り、教会の真後ろに出たところにマーちゃんのパパがいた。
これがまたかなり濃い人物だった。




