いきなり襲撃?
あたしたちはまず学校の方に歩いていき、途中から東側にそれて住宅街へと向かった。
この辺りは町の中心部からは少しはずれているエリアだが、一軒家の建物が多く、ちょっとした高級住宅街になっている。
整然と並んでいるどの家にも、駐車場と庭があり、家の造りもヨーロッパ風で新しい。
ちなみに路面も砂利道からアスファルトに変わる。
†
「なんかこういう家っていいよねぇ」
とマーちゃん。
「……うちの教会はスゴい古いからさ、なんかこういうきれいな家にあこがれちゃうよ」
「あ、ソレわかる! うちの家も古いし、なんか広すぎるからさ、こういう家の方が住みやすそう」
とあたし。
和風と洋風の違いはあれ、あたしの家もマーちゃんの家も無駄に広いという共通点がある。
「それにしても、静かだねぇ」
そういえばやけに静かだ。
どの家もひっそりと沈みかえっている。
通りに出ている人も全くいない。
†
「まだ早いからじゃない? 土曜だし」
あたしはそうは言ってみたものの、やっぱり違和感はある。
散歩中の老人とか、ペットの散歩をしている人とか、庭の水まきをしている人とか、そういう人がぜんぜんいないのだ。
どの家も不気味に沈黙している。
まるでその腹に秘密を抱え、静かにあたしたちを見つめているみたいに……
なんて、思うのは考えすぎだろうか?
「ううん。これ、やっぱり変だよ」
マーちゃんがきっぱりと言った。
「うん。変だよね」
あたしも正直にうなずいた。
でも引き返すわけにはいかない。
二人ともその気持ちは同じだった。
あたしたちは二人とも胸に提げたロザリオをギュっと握りしめ、さらに歩みを進めていった。
†
「確か……あ。ここだ!」
やがてマーちゃんは一軒の家の前で立ち止まった。
表札には『真崎』と出ている。まだ新しい家だ。
二階建てで屋根は青い。
駐車スペースはあるけど車はなく、かなり広い庭がある。
庭は半分が花、半分は野菜が植えられている。
まぁ、このあたりでは普通の家だ。
「さてと、まずは……」
と言いかけたとき、いきなり玄関の扉が開き、ダッと人影が飛び出してきた!
†
殺される!
一瞬で全身に汗が噴き出した。
どうやって身を守っていいのかわからない。
それから恐怖が体を縛り付ける。
だめだ。動けない! なにも出来ない!
これじゃただ殺されるだけだ。
いきなりこんなことになるなんて。
人影は両手を開き、飛ぶようにして迫ってくる!
そして、あたしの横をさっとかすめて通り過ぎ……
「おねえちゃん!」
と、マーちゃんに抱きついた。
それは『菜々子ちゃん』だった。
ちょっと背の高い、あの小学生の女の子だ。
「ふぅ……」
なんか緊張しすぎたみたい。
すでに汗びっしょりだし、気づいたらロザリオをギュッと握りしめていた。
†
「お、おはよう、ナナちゃん」
とマーちゃん。
「おはよ! ほんとに来てくれたんだね!」
「だって約束したでしょ?」
「でも、ほんとに来てくれると思わなかったの」
それからナナちゃんはくるりとあたしの方をみた。
「あれ? シンちゃんのお姉ちゃん?」
「おはよう、ナナちゃん。あたしね、マーちゃんの友達なの」
「そっかぁ、おねえちゃんも来てくれたんだね。ありがと」
ナナちゃんはペコリと頭を下げた。
「で、お母さんは相変わらず?」
マーちゃんが聞くと、ナナちゃんの顔が急に寂しそうになった。
「今も部屋に閉じこもってる」
「わかったわ。さっそく行きましょう」
菜々子ちゃんは静かにうなづくと、先に立ち、玄関の扉を開けた。




