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若君は吸血鬼  作者: 関川二尋
第五章 マーガレット・メイ
39/130

マーちゃんの推理

 最後にマーちゃんはちょっと首を振った。

 そして『これで、おしまい』というようにちょっと両手を上げた。


 マーちゃんは、自分が信じられないような話をしている、それは分かってる、そんな風に言いたいのだと思う。まぁあたしもその気持ちはよく分かった。

 

「……わたしも自分の目で見たわけじゃないんだけど、菜々子ちゃんは嘘をつくような子じゃない。だから彼女の言葉は全て正しいと、わたしは信じられる」


 マーちゃんはそう言った。

 もちろんあたしはマーちゃんのことを信じていた。

 この話が嘘や冗談や作り話なんかじゃないことは分かっている。


   †


「そこから推理できることって、たぶん一つだと思う……」


 あたしはゴクリと唾を飲む。

 なんか急に喉がカラカラになってきた。


「――()()()()()()()()()()()()――」


 その言葉は鋭くあたしの心臓を貫いた。

 あたしはたぶんその言葉を予想していたから。

 でも、そうであってほしくなかった。


 だって……


   †


「――菜々子ちゃんのお母さんはたぶんその犠牲者。吸血鬼にかまれて、ゾンビみたいになってるのよ。しかもそれだけじゃない。()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()。たぶん犠牲者はまだまだいるはず――」


 あたしはもう、なんて言ったらいいか分からなかった。

 頭がしびれたように真っ白になっていた。


「――でも、みんなが生活をロボットのように繰り返しているから、誰も気づかない。そうしている間に犠牲者はどんどん増え続けて、やがて街は吸血鬼に支配されることに――」


 ()()がそんなことをするなんて信じられない。

 あたしの血だって吸ってるんだし。


(でも足りなかったのかもしれない……それで他の人を襲ったのかも?)


 いやいや。それでも若君がそんなことをするとはやっぱり思えない。

 でもそれが出来るのは若君以外にありえない。


 それでも……

 それでも、


   ✚


「……()()()()()()

 あたしはそうつぶやいていた。


「たしかに……わたしも最初は自分の推理が信じられなかった。だって吸血鬼なんてホラー映画じゃあるまいしさ。でも考えれば考えるほど、この答えにたどり着いちゃうのよ」


「……まぁ、そうだよね」

 あたしはボーっとした頭でそう返事した。

 あたしの様子がおかしいのにマーちゃんも気がついたのだろう、マーちゃんはあたしの手を握ってきて、あたしの顔をのぞき込んだ。


 そして大きくため息をついた。


「ふぅ。でも、まぁそうだよね。いきなりこんな話したって信じられないよね。吸血鬼が本当にいるなんてさ。ちょっとあり得ないし、現実的じゃないしね……」


 いえ、()()()()()()()()()()()()()()()

 なんせ家に一人いますから。

 もちろんそれだけは言えないけど。


   †


 とにかく確かめなくちゃいけない。本人に直接聞かなくちゃ。


 たぶん、それはあたしの役目だ。


 そしてそれが本当なら、

 若君が人を襲って血を吸ってるなら、

 あたしが若君を止めなくちゃ。


 ()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()……


   †


「ねぇ、さっちゃん大丈夫?」

「ん? うん、へーきへーき。いろいろ考えちゃってさ」


「やっぱり信じられない? 吸血鬼なんて無理があると思う?」

 マーちゃんは心配そうに、あたしにとって微妙な質問を投げかけてくる。


「ううん。マーちゃんの推理はいつだって信用してる。吸血鬼だっているかもしれない。まずはそこから始めなくちゃ、でしょ」


 あたしがそう言うと、マーちゃんはいきなり立ち上がり、あたしのことを抱きしめた。

 しがみつくようにがっしりと。


 マーちゃんの鼓動があたしの鼓動と重なる。

 マーちゃんもまた怯えていたのが分かった。こんなこと、誰にも話せることじゃないし、話したってバカにされるのがオチだ。


「ありがと、さっちゃん」

 マーちゃんは耳元でささやき、それからそっと体を離した。


   †


「ねぇ、マーちゃん。ところで、マザキくんはどうしてるの? 菜々子ちゃんを助けてないの?」

「それがね、マザキ君はここのところずっと帰ってないんだって。お母さんに変化がある前から、しばらく帰ってきてないみたい。携帯の連絡も取れないみたいなの」


「あいつやっぱりだめな奴だね」

 そういうと、マーちゃんはちょっと悲しそうな顔をした。


「そうでもないんだよ。信徒さんのプライバシーのことはあんまり話しちゃいけないんだけどさ」

 そう前置きしたが、それでもマーちゃんは話すのをためらった。


「うん、もちろん黙ってるよ」


   †


「マザキ君ってね、本当はすごくまじめな人なの。日曜礼拝にもよく来てたし」

「何か意外。全然そんなタイプに見えないもんね」


「剣道がすごく強くて、県大会とかにもよく出てたのよ。天才って言われててさ。でもね、試合の時になんか怪我したみたいで、握力が極端に落ちちゃって、それで剣道出来なくなっちゃったんだって」


 それも知らなかったな。なんか軽薄そうなただのバカな人かと思ってた。


「今はあんな風になってるけど、本当は家族思いの、すごくいい人なんだよ」

「そっか。あんまり見た目で判断しちゃだめってことだね」


「うん。今はあんなでも、きっといつか立ち直るよ。わたしはそう信じてる」


 マーちゃんはやっぱり優しい子だ。素直でかわいくて、まっすぐで。

 そしてこの話はこれで終わりだった。

 ということは、とにかく二人でこの事件を解決しなくちゃならない。


   †


「それで、あたしたち、これからどうする?」

 そう言ってあたしは立ち上がった。なんか妙な使命感があたしの胸で燃えていた。


「そう、それをお願いしに来たの!」

 マーちゃんも立ち上がった。マーちゃんの瞳もなんか燃えている。


 二人の間で得体のしれない火花がバチバチとはじける。


 この瞬間、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 隊長はマーちゃん、隊員はあたし。

 二人だけだが、二人とも吸血鬼の存在を確信していた。

 そしてあたしたちは互いにうなずきあった。


   †


「さっちゃん、用意してきたものがあるの」

 マーちゃんは胸から十字架のペンダントを引き出した。細い銀のチェーンに、見るからに手の込んだ十字架がついている。

 そのロザリオは二つあった。

 マーちゃんはそのうちの一つを首からはずすと、あたしの首にさげてくれた。


「いいの?」

「もちろん。うちの特製のロザリオよ。ヴァンパイア退治にはまずこれがないとね」

「うん。ありがと。借りとく」


 そうは言ってみたものの、効果は疑問だった。だって若君の場合はただの殿様だし、十字架をおそれるとは思えないもの。だがマーちゃんは自信たっぷりだ。ま、教会にいるんだから当たり前なのだろう。


「明日は土曜日。学校は休み」

 マーちゃんが力強く言って、あたしはうなずいた。


「朝のうちに菜々子ちゃんの家に行って、まずは様子を確かめてくる。どぉ?」

「あぶなくない?」


「今のところはね。菜々子ちゃん、そのお母さんと一緒だから平気だと思う」

「まぁそうだよね」


「そしてもし、お母さんが吸血鬼になっていることを確認したら、一度引き上げて、吸血鬼退治の作戦を考えて出直す。どお? まずはこんな感じで」

「うん。いいんじゃないかな」


「よし。じゃ、明日の朝八時、まずはわたしがさっちゃんを迎えにいく。それから……」


 その時だった。


 ()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()……

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