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若君は吸血鬼  作者: 関川二尋
第三章 夕闇の訪問者
23/130

若君の狂宴

 そして……若君の狂宴が幕を開けた!


 ガキン!


 鋭い金属音とともに、若君が日本刀をテレビに突き立てた。

 画面の中央に日本刀が突き刺さり、ガラス面に蜘蛛の巣のような()()がパッと広がる。

 だがテレビは意外と丈夫だった。まだ映像を映し出している。


「くッ!」


 若君はテレビに足をかけて日本刀を引き抜くと、今度はやたらめったらにテレビを切りつけはじめた。


   †


「てえぃっ! でやっ!」

 いくら本物の刀でも漫画のようにスパッと切れるわけではない。

 テレビは切りつけられるたびに、ガラスとプラスチックの破片をまき散らした。


「小人め! 魔術師め!」

 若君はさらに切りつける。画面に何度も切っ先をたたきつける。

 そのたびに映っていた映像がノイズにまみれていく。


「くぬっ! こしゃくな!」

 若君は容赦なくテレビに攻撃を加え、そのたびに画面が歪み、音が歪んでゆく。


 それでもテレビは最後まで頑張って写っていたのだが……やがて完全に沈黙した。


   †


 あたしはあっけにとられた。

 頭からポカンという音が聞こえてきそうだった。


 テレビに驚く昔の人。


 これはベタなネタだと思っていたけど……やっぱりそういうものなんだなぁ。

 いや、かえって新鮮だなぁ。

 などと考えていた。


   †


 そしておじいちゃんたちもこの場に合流した。

 でもみんな若君を止められなかった。声すらかけられなかった。

 若君の鬼気迫る様子を見れば無理もない。


 だからみんなで居間の扉に固まって、若君が居間を破壊していくのをただただ黙って見守った。


「……これは止まらんな」とお父さん。

「まぁ気の済むようにしていただくしかないでしょうね」と母さん。


   †


 若君はようやくテレビを倒したと判断したらしい。

 次にエアコンの破壊に取りかかった。


 が、()()()()()()()()()()()()()()()


 若君は子犬のようにビクリと驚いたが、それも一瞬。

 すぐに刀を握り直し、今度は電話をガンガンと切りつけた。


 それから再びエアコンの破壊に戻り、途中で炊きあがりのアラームを鳴らした炊飯器を壊した。


   †


「まだ買ったばかりだったのにのぅ」とおじいちゃん。

「仕方ありませんよ」と芳子ばあちゃん。


「もうテレビは見られんな……リョン様ともしばらくお別れじゃ…」

 とボタンばあちゃん。


()()()()()()()()!」


 若君は最後に天井の蛍光灯を叩き割り、居間の破壊を終えた。


   †


「おう。みなのもの、無事だったか?」


 若君はゆっくりと青白い顔を上げた。

 ちょっと汗ばんで息を切らしているが、なんとも晴れやかな表情。


 あたしたちはこっくりとうなずいた。


 そして集まったあたしたちに、なんとも素敵な笑顔を浮かべて言った。

「そうか、それはなによりじゃ。魔術というのは巧妙に忍び寄って人をだますものじゃ。皆も気をつけるがよいぞ」

 スラリと長剣を鞘に納める。

 その様がまたなんともカッコよく決まっている。


 アタシたちはまた無言でこっくりとうなずく。


「なに、礼には及ばぬ。家臣を守るのはいつでも領主のつとめじゃ」


   †


 若君があたしたちを気遣ってくれるのはうれしいんだけど……


 居間の惨状を目の前にすると、あたしたちは心からの笑顔を浮かべられず、つい笑顔がひきつってしまうのだった。

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