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相も変らぬブラック労働

少し?性的な表現が含まれます。

男性諸氏にはわかっていただけるかもしれませんが、経験のない方もいらっしゃると思いますので我慢のし過ぎにはご注意ください。

そういった表現が苦手な方は読み飛ばすことをお勧めします。


 安東主任が目覚めて、1週間が経過した。

 今後の彼の生活に不満が出ないかと心配したが、辛うじて生きていた仮眠室とフードプロセッサーに現状不満はないようだ。

 修理が終わり久しぶりのグリーンランプと滑らかに動く体、追加された各種プログラムに喜びを感じる。

「ルーシィ・・・」

 主任からもらった新しい名前をつぶやくとそれだけで表情を作るプログラムが笑みを浮かべるのがわかる。

 ボディも変わったのだからせっかくだしということで貰った名前であるが、オーナー情報の書き換えと合わせて名前を変えることでコンクリフトを避ける意味合いもあるのだろう。

 だが、一糸まとわぬ姿でポットから出た自分を見て、小躍りしながら自分の髪を体をタオルで拭いつつも、嬉しそうに名前を連呼する姿は新しく追加されたプログラムが思わず誤作動しそうになるほどであった。

(夜の営みプログラムって実際に動作したらどうなるのでしょう?)

 自分たちはプログラムの集合体ではあるが、セクサロイドとしての機能ははっきりと快、不快を訴えてきて、情報蓄積によって生まれたL2-MCの疑似人格プログラムともいえる、自己判断プログラム群には感情プログラムによって刺激される戸惑いのようなものがある。

 言えば調整してくれるのだろうがその彼は今、電力量をどうにかするために太陽光パネルを修繕中だ。

 パネルの中で生きている部分をテスターで判別して取り分け、ハンダでつけ直すことである程度の改善を試みている。

 まだこのボディに不慣れな私は保管庫の非常用発電機の分解清掃をしている。

 やりたくてもできなかったことが管理権限もちの彼の命令で色々とできるようになったのですべきことは多い。

 製造ラインも無事な部分をつなぎ合わせることで辛うじて1つ分の生産ラインを復帰させることができると主任は言っていた。

 パペット製造工場であったとはいえ、合成蛋白質の生成機はほぼ死んでいた。それにもかかわらずハンディツールから旧データを商品に移して各ラインからモーターを流用して一日で直してしまった。

 おかげでイオン導電性高分子ゲルを用いた人工筋肉を新規に作れるようになり、さらにそれを用いてラインのベルトコンベアーの応急処置やそれに伴う新規ボディの製造、生体コンピュータの再製造など死んでいた工場が再生していく。

 休息ポッドの維持電力が確保されれば姉妹機たちも順次修理していく予定だと聞いた。

 彼女たちのデータは私の経験プログラムを追加し、それぞれセクサロイドのボディに換装するらしい。

 生成機では強化プラスチックボディの作成が難しく、素材もないためこちらのボディを流用するしかないらしいが、それに文句を言う姉妹はいないだろう。

 発電機の分解清掃が終わるとデンプンを基にしたバイオ燃料を投入する。

 合成蛋白質の生成機によって無理矢理作った有機燃料であり電力不足を補うためピーク時や太陽光発電出来ない状況下で休息ポッドを稼働するために使う。

 何か起きたときのために事前に準備しておく、安東主任らしい仕事ぶりに意味もなく笑みを浮かべる。

「ルーシィ?パネルの修理が終わったから総発電量を計って欲しいんだけど」

「はい、安藤主任」

 命令に対し、最大速度で実行しようとする身体プログラムがピクリと体を動かすが、統括プログラムであり、疑似人格プログラム、L2-MCであった部分がそれらを抑え込み、管理コンソールまでゆっくりと歩く。

 声をかけられただけでこれだ。自身が行った優先度付けが間違っているとは思わないが、調整してもらわないと支障がある。

(後で修正していただきましょう)

 自己管理プログラムによる自動調整も可能であるし、150年分の経験蓄積から他の姉妹よりそういった自己調整は得意ではあるが、せっかく彼がいるのだ。彼に調整してもらいたい。

「1番パネルから3番パネルまで通電確認、5番、8番パネル送電不良、地絡と思われます。現状カタログスペックの2割まで復旧。天候も加味しますと修理前の302%。現状最大消費される電力量の3割を賄うことが可能です」

 表示されるデータを数値として読み上げてもよいが、そこはわかりやすさを重視して伝える。

 安定性や過去データとの比較、消費電力とのバランスなど、詳細な数値がほしければ彼は自分で見るだろう。

 そういった複数の判断を要する情報を欲した場合、数珠つなぎのようにデータを参照する必要がある、誰かに聞くというのは思考ルーチンが似通っていない限りワンテンポ遅れる。

 稼働確認でしかないことは理解しているが、〝有能であると評価してもらいたい。″セクサロイドボディに付属した感情プログラムが自己判断を加味した内容で語ることを推した結果だ。

「あ~、L2-MCのころに比べると格段に抽象的な判断がうまくなってるなぁ。ルーシィ、ありがとー」

 表情ルーチンが笑みを作り、顔に熱が来る。

「5番、8番のパネルは1~3番の不良パネルと交換したほうがよさげだなぁ」

 そんなことを言いながら主任が作業に戻るが、喜びと照れという感情プログラムから発生した幸福感と作業に戻ろうとする自己判断プログラムが衝突する。

 数秒の時間をもって感情プログラムが落ち着き、行動を再開する。

(やはり支障がありますね。このままでも最適化されていくのでしょうか?)

 断続的に送られてくる感情と笑みを浮かべるのを止めようとしなくなった自己判断プログラムにそんなことを思う。

 いざというときの行動が遅れるのは困るが、その衝突と優先度付け、多様な経験蓄積は150年間の緩やかな変化と違う。

 経験をベースにした、監督者も修理してくれる者もいない状況の試行錯誤ではなく、完全な経験不足からくる試行錯誤。

 それも失敗して壊れても必ず直してくれるという信頼のある相手がいる状況だ。余裕があるのならこのままにしておくのもよいかもしれない。

 疑似人格が訴えかける判断がつかなかった〝ノイズ″に感情プログラムが名前を付け補正し、正しい行動を主張し、修正されていく。急激な変化ではあるが150年前には見られなかった安藤主任の反応を見ることはとても〝嬉しい″

 初々しいとも、珍しいともいえる反応は姉妹たちにきちんと共有するため映像データとして保管してある。

 経験としての共有ではなく、私の反応や得た〝感情″等の処理を抜きにした彼女たちがどのように感じ、処理するのかそういった判断の多様性を生むためのもの。

 さらにはその時得たものを独占したいという〝欲″と自身を生かしてくれた彼女たちへの義理の両方がせめぎあった結果でもある。

 けして妥協ではない。


 それらを得た彼女たちがどのような反応、判断を下すか今から楽しみである。



 黒髪のストレートなロングヘア、ぱっちりした瞳に長めの睫毛、温和に見える垂れがちな細い眉、朱に染まりやすい白い肌。

 155cmの細身の体に、平均より少し大きな胸、しっかりとしたくびれと、なだらかな凹みをもった下腹部、丸みを帯びバランスの取れた臀部、そこから伸びるすらりとした脚。

 初期キットに内蔵されている白のワンピースを纏っただけの飾り気のない姿であるのに、思わず振り返るような魅力がある。

(美人やイケメンってシンプルなものを着ても似合うっていうけどほんとだなぁ)

 安東は出来上がったばかりのボディに換装されたL2-MCを見てそう思う。

 もちろん自分の理想を形にしたのだから嗜好に合うのは当然だが、ペディオフェリアである自分としては強化プラスチックで作られた卵のような無機物ボディも捨てがたい。

 換装前のボロボロになった身体もいつかきちんと治すために保管庫に飾っておこうと思う。

 先ほどまで裸体に慌て、撫でまわすように体に着いた保護液をふき取り、初めての女性用下着に悪戦苦闘していた男とは思えない落ち着きぶりである。

 別に暴発したから落ち着いたわけではない。下着の中はとても気持ちが悪いが。

「おはよう、L2-MC。5日ぶりだが、何か不調はあるかい?」

 ボディ自体の作成時間はキットを用いて最短6時間で出来上がるが、造形に凝るのに2日もかかってしまった。

 残りの3日は主にL2-MCのデフラグやバグ取り、破損状況下での最適化の修正、旧ボディにおける管理プログラムの凍結と新ボディの管理プログラムへの移行処理、セクサロイドに搭載するにあたっての追加プログラムとの競合解消処理である。

「Automatic Line management computer 機体呼称L2-MC。ボディ換装を終了、管理プログラム移行処理と再起動を終了。管理者登録を引き継ぎ、安東 浩二様を所有者として認めます」

 今までと違う自然な発音で告げられる内容は初期起動の完了報告だ。

「ぁ・・あ・・ん・・・どぅ・・う主任・・・・。あん・・ど・・う主任・・・。あんどう主任・・・・・。安藤主任」

 データ移行の弊害か人口声帯による発声を確かめるように何度も名前を繰り返す。

 彼女にとって最も言い慣れた言葉を繰り返して〝慣れ″させているのだろう。

「あー、すまない。慣れるまで多少の時間はかかると思うが、なるべく多くの経験データを残した弊害だと思ってあきらめてくれ」

 彼女の戸惑う様子にそう伝えると、腕をこちらの脇から背中へ回され捕獲された。

 確かめるように力が入り、抜けてを繰り返し、若干強めに抱きしめられた状態で安定した。

「安東主任・・・。安東主任・・・。」

 プログラムの暴発か、涙を流しつつ額を押し付ける彼女をそっと撫でる。

(胸柔らかっ!やばっ!髪さらっさら!)

 外面での対応とは別に内心はこんな状況であったが、今の私は賢者である。

 落ち着いて処理する。下着の中は気持ち悪いが。

「セクサロイドに移行したことだし、旧ボディ管理プログラムとの競合を避けるため機体呼称をルーシィに変更。かわいい見た目になったんだから名前もそれに合わせて変えたいんだけどいいかな?いや、べつに前の名前が気に入っていたんならそれでもいいんだけど、個人的には一生懸命考えたし、こっちの名前も気に入ってもらえたらいいなぁとか思ったり、嫌ならいいんだけど変更したほうが競合しづらいし、利点だけじゃなくて僕が嬉しいっていうのもあるんだけど、あ、嫌ならいいんだけど」

 訂正する。

 全然落ち着いてはいなかった。下着が気持ち悪いのは変わらないが。

 所在なさげにわきわきと動かしていた腕をルーシィの肩を包むようにその身を抱きしめる。

 それに合わせてルーシィがこちらを抱く力を弱め、腕の中で顔を上げる。

「呼称変更を了承します。安東主任」

 涙が止まったばかりの顔で笑みを浮かべるルーシィにどきりとさせられる。

 以前のボディとは違い、読み取れる反応が増えただけ、そう感情プログラムなどが追加され、相手の行動を評価できるようにはなったが、彼女はそれだけしか変わっていない。

 見た目は共通点を見つけるほうがむつかしいほど変わったが・・・・。

(その見た目が自分好みのハンドメイドドールってのが一番の問題なわけですが)

「脈拍の上昇を確認。安藤主任のバイタルデータをスキャン。・・・・睡眠不足と判断します」

 見惚れていると言葉を発したルーシィがこちらの肩に手を当て、こちらから距離を取るようにその身を起こす。

「あっ・・・・」

 密着状態から、1mあるかないかの距離への変更。満たされていたものが目減りしたかのような空虚さを感じて声が漏れた。

 確かに彼女の移行作業のためにほぼ五徹に近いことをしたが、作業途中に3度ほど寝落ち(という名の気絶)したし、非常用パック内のゼリー飲料も食べていたので私の体調には何の問題もない。

「いやいや、これくらい倒れる前の勤務状態に比べたら楽勝の部類だって、まだまだやらないといけないこともあるんだし」

 そう言って外見を取り繕って笑うが、ルーシィの目が怖い。

 美人が半眼で見据えてくるというのは、それがたとえ怒っているというポーズに過ぎなくとも、思った以上にくるものがある。

 起動直後であるにもかかわらず複雑な感情動作を行えるという意味では一安心だが、エラーチェックはしたとはいえ、あれだけの大量のプログラムを統合したのだ。どのようなバグが起こってもおかしくはない。

「えぇっと・・・・、ルーシィ?」

 半眼のままこちらをじっと見てくる彼女に声をかけるが、そこから先の動きがない。

 おそらくはまだ不慣れな感情プログラムに行動を決めかねているのだと思うが、もしかしたらこちらが折れるまでこのままでいるつもりなのだろうか?

(いやむしろ、ここで折れたら今後この手段を使われ続けるのでは!?)

 そんなことを考えて、二人で固まる。

 ・・・・10秒。

 ・・・・・・・・・・20秒。

 ・・・・・・・・・・・・・・・・30秒。

 40秒がたとうとしたとき、ようやくルーシィが動いた。

 それは嘆息、というよりは呆れを含んだため息。

「仕方がありません、体調管理のため強制的に寝かしつけるとしましょう」

 そう言ったルーシィが脇から手を入れ抱きつくような動作をしたかと思うと、右肩を落とし、こちらのひざ下を持ち上げる。

 俗にいうお姫様だっこという運搬法だ。

「え!?いや自分で歩けるから!」

「ボディに不慣れですので動かないでください」

 身をよじって逃れようとする自分の言葉を、ぴしゃりと遮断される。

 仕方なく体の力を抜き膝と背に掛かる重量を調整する。

「これよりシャワールームで清掃後、仮眠室にて添い寝にてお休みいただきます。寝入るまで離れませんので無駄な抵抗はなさらぬようお願いいたします」

 そう言って眉をひそめた笑みを浮かべるルーシィは少しだけ怖かった。

 っというか、下半身事情、バイタルチェックでばれてたんですね・・・。

 恥ずかしさにピクリともしなくなった私はそのままされるがままに寝かしつけられた。

 シャワールームでもう一回暴発させられたけれど・・・・。


8/16投稿、次話8/23予約投稿済

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