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魔女の幸い  作者: こんぶ
8/8

そのはち

1週間後


あれから、建国物語が描かれている本を片っ端から読んだ。

読んだといっても、文字は読めないから恥をかき捨て手の空いているメイドに

頼んで読んでもらった。会話は出来るのに、文字が読めないのは不便極まりない。


まぁ、どれを読んでも描写が変われど大まかな流れは同じものだった。

召喚魔法を使って、聖女と異世界から来た魔法使いが魔物を退治する話。


今日の収穫祭で何もなければまた、振り出しだな。


朝起きてベッドの上で腕を組み唸っているとノックが聞こえる。

返事をすると、数人のメイドが入って来た。


「今日はウィリアム様とお出かけと聞きました。」


街歩きのために長めの花柄ワンピースに茶色のブーツ。

髪型もかわいらしく結い上げてくれる。


準備ができたころ、ウィリアム様が迎えに来てくれた。

馬子にも衣裳だなと抱き上げながら褒めてくれる。

うん。これは褒めてくれているのである。前向きに捉えよう。


王都へは馬車で向かうみたいだ。

こちらの世界に来て初めての外の世界に目を輝かせる。


ひとつひとつ質問する私に、ウィリアム様は丁寧に教えてくれる。

この国の名前はネフライト王国。周辺国との関係も今のところ大きな軋轢は無いらしい。

街の建物を見る限り文明の進み具合も同じように思える。

私の世界との大きな世界の違いはやはり魔法の有無であるようだ。

だが、魔物が居ないということで平和な日常を送っている。


しばらくすると、王都に到着する。

収穫祭ということもあって多くの人で賑わっている。

屋台もいっぱいあって、広場では音楽がなり人々が輪になって踊っている。


「凄い!凄いですね!」

興奮して鼻息荒く周りを見渡す。

「あ!あの食べ物は何ですか?!ちょっと行ってみましょう!」


走りだそうとすると後ろから抱きかかえられる。

「先に噴水に行くぞ。あとで回ればいいだろう。君のところでは、こういった祭りはなかったのか?」

「いえ、あったとは思いますが…。私は行ったことも見たこともなくて。」

「そうか。見たいところがあれば付き合ってやる。」

私の世界にも収穫祭といわれる祭りはあったように思う。

田舎から出られず、小さいころから憧れていた。

名残惜しそうにしている私をよそに噴水に向かって歩き出す。


噴水は街の中心部の広場にあり、ここでも人が溢れかえっていた。

遠目から見ても分かるほど大きな聖女と魔法使いの像が噴水の上部に鎮座しており、

その下から大量の水が噴き出ている。


噴水にたどり着いた私たちは淵に腰掛けた。


「どうだ?魔力はありそうなのか?」

ウィリアム様は人で賑わっているとはいえ、周りの人に聞かれないよう顔を近づけ小声で聞いてくる。

聞かれた私は水に触れ集中する。


「…そうですね。この前の薬草のように食べなくても分かるくらいの魔力はありますが、

全回復には時間がかなり掛かりそうですね。」

「どうやって、回復するんだ?この水を飲むのか?」

「いえ、流石に噴水の水は少し怖いですね。今回は、私を回復するのではなく魔石の方に

補充しようかと思います。」


ポケットから魔石を取り出し、魔石を水に浸す。

少しして取り出してみるとごくごく微量ながら溜まっているようだった。

元々師匠からもらった魔石の魔力量が凄かったから溜まりきるには相当な時間がかかる。

まあ、これで使える魔法は簡単な奴が2~3回といったところか。


「これ以上はやはり難しそうですね。ですが魔力があるのは確かなので少し噴水の水を拝借して帰ります。」


持ってきていた水筒に水を入れる。


「そうか。建国物語なんてただの御伽噺かと思っていたが、魔法使いは君の世界から来たのかもな。」


ウィリアム様は不思議そうに噴水の水を手で掬っている。

「魔力の性質も私が使うのに問題は無さそうですし、その可能性は高いですね。

ではでは、こちらの要件は終わりましたので、屋台を見に行きましょう!」


すでに祭りの方に興味が移っている私に苦笑を浮かべながら移動手段と化した抱っこをしてもらう。


「ウィリアム様は収穫祭に来たことはあるんですが?」

「幼いころは家族で来てはいたが、最近は忙しくて来ていなかったから久々だな。」

「そうだったんですね。じゃあ、お祭りの先輩としてお勧めを教えてください!

ちなみに、私はお腹が空いています!」

「君は花より団子だな。久々だから自身が無いが、たしかあちらの方に名物の串焼きがあったはずだ。」



お勧めしてもらった串焼きを手に、人気の少ない空いているベンチに座る。

「これが噂の串焼き!」

思いっきりかぶりつくと口の中にお肉の脂が広がり、絶妙なスパイス加減もまた美味である。

感動して目を輝かせている私の隣でウィリアム様は、同じ串焼きとは思えない優雅さで食べている。


「ふっ、口の周りについているぞ。」


取り出したハンカチで口の周りを拭ってくれる。


「これは、3歳の身体だから仕方無いです。元の姿ではこんなヘマはしません。」


勘違いされては困る。今だけ。元に戻ればこんなことにはならない。


「前から気になっていたんだが、何故体が小さくなっているんだ?」

「うぅ~ん。簡単に言ってしまえば、私の身体は元々特殊で、何もしていなくても

魔力を消費してしまうんですよね。それで、こちらの世界に転移してきたからか

魔力が底をついて、身体の形を保てなくなったんだと思います。

こんなこと初めてなので恐らくといったところですが。」

「なるほど。人間の消費カロリーみたいなものか。」

「そうです!大きな体だと消費する量が多いので、ある程度溜まるまではこちらの身体の方が

良さそうです。」


串焼きを食べ終わり、ついでに買ってもらった綿あめとやらを袋から取り出し食べる。

うん。甘くてふわふわしていて何とも言えない食感。美味。


「あら、ビビちゃんとウィルじゃない。早めに会えてよかったわ。」


顔を上げるとそこにはリコリス様が立っていた。

その隣には黒い長髪を後ろで結んでいる男性がいた。目の下の黒子が何とも言えない色気を放っている。


「こちらは、この国の王太子であるカイ・ネフライト様よ。

カイ様、こちらはお話していたビビちゃん。」


それを聞いて慌ててベンチから降り、カーテシーの姿勢をとる。私の国のものなので正しいかは分からない。

よくよく見ると周りに護衛騎士も何名かいるようだ。


「楽にしていいよ。話には聞いていたからね。小さな魔女さん。」


恐る恐る顔を上げる。声には優しさがあるが、眼が完全に疑っている。


「はぁ。カイ様疑うのは分かりますが、その変にしてあげてください。」


ウィリアム様が私を隠すように立ちはだかる。

その姿に驚いたようにカイは目を見張った。


「珍しいね。ウィルが肩入れするなんて。」

「もう!カイ様!ちゃんとお話ししたではないですか!」

「いや。でも、別の世界から来て、偶然、君たち、ヘッドフォート公爵家に落ちてきたなんて話

誰でも疑うんじゃないかな。」


ねぇ。と言いながら私の顔を覗き込む。

それはそうとしか言いようがない。怪しさ満点の私を保護してくれている皆さんに感謝である。

ウィリアム様の裾を掴みながらカイ様に目線を合わせる。


ん?ぅん?これは…。


「あの、もしかして…。」


そこまで言って、突然強くなった魔力反応がある方向を見た。


草むらからきらりと光る物が見えたが、場所の高さ的に今の身体だと届かない。

内心舌打ちしながらポケットの中の魔石を片手で握りしめる。

一瞬で体が元の大きさになり、せっかくの洋服が破れた。


「危ないっ!」


光ったものの正体はナイフのようだ。

目標は王太子であるカイ様だろう。

飛んできたナイフの軌道上に左手を差し出す。


「っつ!」


ナイフは私の左手のひらに突き刺さった。久しぶりの痛みに思わずうめき声が出る。


「何者だ!追え!」


私の声に我に返ったカイ様が護衛騎士に指示をする。

しかし、護衛騎士が草むらにたどり着くころには犯人は自身の影に沈み込むように

消えていった。


「大丈夫か!見せてみろ!」

「触らないでください、これにはどうやら呪いが組み込まれているようです。」


周りを警戒しながら心配するウィリアム様を反対の手で制しながら自身の手を観察する。

ナイフが刺さったところから、血が滴り黒いシミのようなものがじわじわと広がっている。

黒いシミのところから砂のようにさらさらと崩れ落ちる。

その様子に急いで風魔法を使い二の腕あたりから切り落とした。

耐えがたい痛みに唇を噛みしめ呻く。

切り口からは血がしたたり落ち、足元を汚した。


それを見たリコリスは口に手をやり短い悲鳴を上げ、ウィリアムとカイは悲鳴を上げはしないものの

驚愕の表情で目を見開いた。


そんな状況の中私は、この世界で過ごした短いながらも楽しかった日々に思いを馳せた。

今から起こる出来事で皆から軽蔑され、また一人に戻るのだろう。

痛みよりもそのことで涙が出そうになる。私は普通の人間では無いのだから。

その事実を改めて思い知らせるように、腕の切り口から時間を巻き戻すように

新しい腕が生えてくる。

指先まで綺麗に生えそろったところで、努めて冷静に口を開く。


「先ほどの犯人は明らかに魔法を使っていたので追うのは難しいでしょう。このナイフは直接触れないようお願いします。」


回復した魔力分使い果たしたからか、そこまで言って身体が縮むように3歳に戻ってしまう。

少し疲れた。酷い眠気が襲い目を開けていられない。


「詳しいことは、また、あとで…。」


眠気に耐えられず瞼を閉じた。


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