そのさん
「ウィル、どう思う?」
「どうもこうもないでしょう。そもそも、この国、いやこの世界に魔法なんて存在しないのだから彼女が、本当は16歳だなんて信じれませんよ。」
その言葉を聞いて驚愕する。
「え?魔法がない?私が住んでいた国はもちろん、他国にも魔法は必ずありました!」
「うーん。ごめんなさいね。ウィルの言う通り今まで生きてきて魔法なんてお伽噺でしか聞いたことがないの。」
三人して難しい顔をしていると、女性は思い付いたように手を叩いた。
「そうよ、見たことも聞いたことも無いから信じられないのならば、見せてもらえば良いのよ!ねぇ、貴女の魔法見せてもらえるかしら?」
それに小さいころ夢みた魔法を実際に見ることが出来るなんて素敵なことじゃない?とウインクしながら付け加える。
「まぁ、そうですね。まずその話が本当かどうか確認するのが先ですしね。」
「…申し訳ないのですが、今は魔力が…。」
そう。と残念そうに女性は呟く。
その姿に何か案は無いかと頭を傾げる。
「あ!あります!魔法を使う方法。」
思い付いた案に自分でも頷く。
首元に下がっている石を取り出し目の前で揺らす。キラキラと輝く石のなかには少なからず魔力が残っているはずだ。
「それは、なんですか?見たことのない石ですね。」
ウィルと呼ばれた男性は興味深そうに石を観察している。
「これは、私の師匠に頂いたもので魔石といいます。魔法使いが自分の魔力を石の形に具現化しているのです。中に残っている魔力を使えば小さい魔法ですが一回ぐらいは出来ると思います。」
こんな状態で魔法を使うのは初めてだ。大丈夫。集中すれば大丈夫。
「では、いきます。」
そう呟いて魔石の中の魔法を体内に流す。そして、座標はベットに座っている私の目の前に魔方陣を展開する。すると、魔方陣からは重力に逆らうように水が滲み出て、1つの球体へと形を変える。
その様子を二人は目を見開いて見ていた。
あ、水を出したのは良いけど、この水どうしよう。なにか、入れ物とか。少しの油断が集中を途切れさせる。その瞬間、水の球体は凄い勢いで男性目掛けて飛んでいく。あ。
水が弾ける音に思わず目を閉じた。
「あはははは!いい様ねウィル。その姿は素敵よ!」
女性の笑い声に恐る恐る目をあける。
予想通り上半身水に濡れた男性の姿が。溜め息をつきながら髪を掻き上げている。水も滴るいい男とはこの事。髪を掻き上げているだけなのに無駄な色気。ご馳走さまです。
そう、現実逃避である。だって、初対面からにこりともしないこの男性に水を浴びせたのである。恐いに決まっている、
「……貴女。」
「へ、へい!」
声をかけられ白目を剥きそうになる。どうせなら、気絶したい。
声が引っくり返ったのは許してほしい。恐いのだ。
「今のはわざとですか?言い訳があるのであれば聞きますが。」
その言葉に勢いよく首を振る。
「い、いえ、決してわざとではなく。自身に魔力が無い状態での魔法は初めてで、えっと、集中力が途切れたといいますか…。申し訳ございません。」
「いいのよ、謝らなくても。たかだか水に濡れたぐらいだもの。ウィルも怒ってないわよ。そんなことよりも、凄いのね貴女本当に魔法が使えるなんて。」
楽しそうに言ってくれるが、隣の男性の黒いオーラが滲み出ている。
「ウィルもいつまでその姿で居るつもり?風邪引くわよ。この場は任せてちょうだい。」
「任せるには不安なので、執事のスティーブを呼びましょう。」
溜息を吐きながら、男性は部屋から出ていく。