そのに
うん。ここまでが私の記憶。
それからどうなったのだろう。身に覚えのない部屋と足枷。そして、先程からある違和感。その違和感には気が付きたくなかった。
足枷を確認したときに、明らかに近すぎる足先。小さすぎる手のひら。鏡がないため確認出来ないがどうやら幼くなってしまっているようだ。推定三歳ぐらいか。そして、魔力がすっからかんである。
最悪に違いないこの状況を少しでも把握しておきたい。ちょうど右側にテラスへ繋がる扉がある。
ベッドから少し離れているため、鎖の長さ的に外に出られないだろうが外の景色を見て確認したい。
慣れないからだに手間取りながら、ベッドから足を下ろすも思っていたよりもベッドは高かったらしい。
ドサッと大きな音を立てて床に顔をぶつける。
毛足の長い絨毯が敷いてあるため、痛いわけではないのだが涙が出てくる。
いや、決して勘違いしてほしくないのだが普段の私はこんなことでは泣かない。
それでも、涙がドンドン出てくる。なんだこれ、身体(三歳)の精神年齢に感情が引っ張られているみたいだな。と冷静に分析してみるが涙は止まらない。ごしごしと眼を擦っていると。扉をノックする音がした。
まじか!このタイミングでか!慌ててベッドの柱の影に隠れる。
現れたのは、金髪碧眼の美女。
私の姿を確認すると足早に近寄ってくる。
「大丈夫?どこか打ったのかしら?」
気遣わしげな態度に眼をぱちくらさせる。
「こんなに眼を赤くして、怖かったわよね。だから、足枷なんて必要ないと言ったのに。小さい子に足枷なんて、そんなだからウィルは未だに結婚、ましてや婚約者もいないのよ。」
「よく、本人の目の前でそんなこと言えますね。姉上。それに、今その話は関係ないのでは?」
どうやら入ってきたのは一人ではないらしい、女性とよく似た顔をしている、ウィルと呼ばれた男性も近づいてきた。
「あら、敢えて今言っているのよ。用心深いのは褒めるべきでしょうけど、小さい女の子にこんな仕打ち。それにこの間なんて折角私が見つけてきてあげた婚約者をたった数日で破棄してしまうし、その前にも」
「姉上。話が逸れています。今はその話ではないでしょう。」
「あ、そうだったわね、ごめんなさいね。置いてきぼりにしちゃって。」
そう言いながら私を抱き上げて優しくベッドへ座らせてくらる。
「さあ、ウィル。足枷を外してあげて、貴方が鍵を持っているのでしょう?」
「持っていますけど、身元確認が先でしょう。なんのための足枷ですか。」
「はあ、この石頭はしょうがないわね。貴女お名前は?この家の庭にびしょ濡れで倒れていたのよ、どこから来たのか分かる?」
そう、目線を合わせ優しく問われると不覚ながらまた泣きそうになる。
「私の名前は、ビビアンと言います。タンダドール地区に住んでいます。」ずびずびと鼻を啜りながら答えた。
その言葉に二人とも眼を瞬く。
「ウィル。タンダドール地区なんて聞いたことあるかしら?」
「いえ。この辺りの知名ではないようです。」
うーん。と唸りながら二人は話している
この辺りにはない?そんなはずはない、魔法で跳んだのだって高さはあっても距離はそれほどなかったはず。
「ここは何処なのでしょう。私がいたのは田舎のほうでしたのでもしかしたら、ご存知ないのかも。」
「ここはね、ディスティアよ。王都の外れにあるわ。」
「…残念ながら聞いたことのない地名です。」
ふるふると頭を振り下を向く。どこよ、ここ。聞いたことのない地名。さらに、私が住んでいた地区も知らないという。私は何処に来てしまったのだろう。
「住所はともかく、どうしてあの場所にいたのですか?貴女のように幼い子供が忍び込める場所ではないのですが。」
「そうよね、一人で来たの?ご両親はどこ?」
あ、見た目三歳児だった。当然の疑問だと思う。
「あの、とても話しにくいのですが」
私は、禁忌の魔法であったため魔法を失敗したことだけを伝えた。