そのいち
体の痛みに呻きながら目を開ける。
部屋の明るさに眼が慣れたところで辺りを見渡した。
ここはどこだ?私室にあるはずの乱雑に置かれた本もなければ服もない。その代わり品の良い家具がある。ふかふかの寝心地の良いベッドから降りようと足を動かせばチャリチャリっと鉄の擦れる音がした。
音の正体を確かめようと布団を持ち上げた。
嘘でしょ。我が眼を疑いたくなる。足首に足枷がついており、ベットと鎖で繋がれていた。
なんで、こんなことになった。ぼんやりする頭を抱えながら記憶を遡る。
日も沈み、辺りが真っ暗になった森の中で胸元を揺れる石を掴む。
石に魔力を流すと指の間から光が漏れ、ブーツやマントに刺繍していたクレマチスの模様も同様に輝く。
「よし。」
ここまでは、順調な反応だ。
クレマチスは、魔女である私の象徴のようなものだ。
石を媒体に魔力を流すことでその対象に魔法を付加することができる。これで念願の夢を叶えることができるのである、…多分。
自信がないのも、もう幾度となく失敗しているからに他ならない。魔法の付加に失敗したための犠牲となった洋服は数知れず。
でも、なんとしても叶えたいのだ!空を飛ぶ夢を。
この国では、禁忌とされているが知ったことではない。私にとっては大きな夢だ。
茶色のブーツには、土属性と風の属性を付加。魔女らしい黒のマントには念のため水属性を。水のヴェールが体を守ってくれる。
視界の端に映る黒色の髪の毛を隠すようにフードを深く被り直し、地面を強く蹴り飛ばした。
すると、みるみるうちに景色が足元へ移動する。
やった!私飛んでる!
…飛んでる?
成功に喜んだ束の間、凄い速さで地面へ向かう。
あ、落ちてますね。これ、飛んでるのではなく跳んでるの間違い。うーん。これは危険な感じ、風魔法を体の下に展開…するも見事にすり抜ける。間に合わないな。
いや、本当にどうしてこうなった。二つの属性を初めて付加出来たというのに、バランスの問題だろうか。
念のために付加しておいたマントがあるので、大きな怪我にはならないだろうけど、強い衝撃は避けられない。
今度は水魔法を展開、間に合わなくても少しでも衝撃を減らしたい。いくつも展開させる、魔方陣を通る度にびしょ濡れになるのはもう仕方がない。最後の魔方陣を通ると眩しい光に包まれる。
眩しさにギュット眼を閉じた。ようやく木の高さまで落ちたらしい。体に当たる枝の感触に痛みは無いながらも衝撃はある。
ガサガサと凄い音を立てながら地面に向かう。そしてとうとう地面に背中から叩きつけられる。痛い。怪我は無いだろうけど痛い。背中を打った衝撃から息は出来ないし、最悪。
立ち上がろうとすると、目の前が真っ白になる。あ、魔力切れか。頭ぐらぐらする。真夜中だったはずなのに昼間のような明るさに少し疑問を持ちながら意識を手放した。