鉄のごとく
もっと強く振れ!もっと踏み込んで!と叱咤を受ける。
100人は入れる程度のグラウンドの真ん中で出来の悪い俺は今日も怒られていた。
ひと通り怒られたあと、今日はここまでと言い残して、グラウンドから去って行く講師の後ろ姿を見つめながら、安堵のため息をつく。
緊張が緩んだと同時に、今日もひどく怒られてたなと背後から声をかけられ振り向いた。
「なんで俺ばっかり怒られなきゃいけないんだ!もうむしゃくしゃする!強く振れたら最初から振ってるわ!」
湧き水のように愚痴が溢れた。
「ジョゼ、先月の講義でも同じことで怒られてたやん、そりゃ、怒られるって」
マルクに窘められても納得がいかない。
「あいつの教え方が悪いんだ!抽象的すぎる!」
理解ができないのだ。もっと踏み込むためには、早く振るためにはどうすればいいのかが全く分からない。
これでも毎日訓練してるし、何故こんなにも上手くいかないのは何故なんだ。
悩んでも答えが見つからない。
悶々としたまま、マルクを置いてグラウンドから出た。
出た先には簡易な受付があり、そこでお金を払う。
ここまで怒鳴り声が聞こえてきたわよ、大丈夫?と胸元に黄色くスタッフと書かれた服を着ているふくよかなおばちゃんに心配された。
なんだか心配されることが恥ずかしくなり、大丈夫と一言残して、その場をあとにした。
————
しばらく歩いていると、人だかりがあるのが見えた。
何があったんですか?と通りすがりの人に訊くとケンカだと分かった。
興味が湧き、近づいて見てみると、想像していたケンカではなかった。
ボディービルダーのようながっしりとした体つきの男性が何度も細身の男性に殴りかかるが、当らない。
あれだけ避けていたら、態勢が崩れてもおかしくないのに、一切崩れない。
細身の男性が何かを口にした思ったら、ハイキックで顎を撃ち抜いていた。
倒れた男性を介抱をする人とその場から立ち去る人で人だかりを作っていた人たちが解散し始め、その流れに流されてその細身の男性を見失う。
ノックダウンさせたあの姿をみてから高揚が治らなかった。
高揚を抱えたまま、辺りを見渡したが結局、あの細身の男性は見つけることはできず、トボトボと帰路につく。
あの人凄かったな…
あんな風になりたい…
と恋をしたようにあの人の動きがその日一日を終えるまで永遠とリピートされていた。