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【番外編】夏 「ちょっと流れ星でも観に行きませんか?」(6)ちょっと試しただけ

 立秋を過ぎたとは言え、まだまだ残暑が厳しい夏の夜は青山高原がいい。ちょっと遠出をして流れ星でも見に行こか……。

 あと5分で2つ。これやったら余裕やと思てたのに、なかなか流れてけえへん。


 1分過ぎて、あと4分。


「流れてくれー」


 と声に出して応援する。何を応援? もちろん宇宙を漂うチリ。


 あと3分。


「いやー、まだ3分あるし余裕やな」


 ちょっと焦ってるけど。


「そうなん。さっきから全然流れへんよー」

「うーん。宇宙にはいっぱいチリがあるはずなんやけど」

「そのチリが流れ星になるの?」

「そう。スイフト・タットルっていう彗星から放たれたチリが地球の大気圏に突入すると燃えて光るんよ。それがペルセウス座流星群やねん」

「へー。よう分からへんけど、そのチリが降ってきたらええねんね」

「そう。そのチリのたった2個でええし地球に落ちてきてくれへんかなぁ」

「そうやね……」


 そのまま流星は流れず、あと2分になった。


「不味いなぁ。あと2分やんか」

「大丈夫? あと2個やけど流れるかなぁ」


 ふむっ。ひとみは何を心配してるんかな?


「大丈夫や、なんとか僕の気合で流れさせてみる」

「うん。和くん、頑張ってー」


 って、なんで応援してくれるんやろう。


 刻々と時間は過ぎていくのに夜空には星が綺麗に光ってるだけで流星はさっぱり流れん。


「あと1分かぁ。これはやばいなぁ」

「大丈夫。まだまだこれからよ」

「よーし。最後に気合を入れてー。なー、がー、れー、てー、くー、れー!」

「お願い。流れてー!」


 手を組んで祈る様に天空を見つめた。ひとみも胸の前で手を組んで空を眺めてる。


 ピッ!


 全身に気合を入れて力んでみたものの、虚しくもタイムアップの1時の時報が僕の腕時計から流れてきた。


「あかん! 終わってしもた」

「あーん。もう少しやったのにねー」

「くそー……」


 むっちゃ悔しくて芝生をげんこつで殴ってた。


「和くん、ほら」

「うん?」

「ほら見てぇ」


 空を見上げた。


「あっ!」


 今までの沈黙が嘘のみたいに、2つ、3つと、まるでカウントダウンの失敗をあざ笑うかの様に流星が流れる。。


「もうちょっと早く来てくれたらねー」

「ほんまやな……。くそー、めっちゃ悔しいわ。あかんかったなぁ」


 ちょっと不貞腐れた感じで遠くの夜景を見てたら、ひとみがクスクスと笑いだした。


「ふふふ……」

「何がおかしいのん?」

「ごめんなさい」

「えっ」

「うーうん。ちょっと試しただけなんよ」

「えー……」


 どういう事なんやろ……。試されてたん、僕。


「和くんの気持ちがどんなもんかなぁって……」

「そ、そうなん?」

「うん、和くんの気持ちがどれだけほんまか知りたかってんよ」

「……」

「そんなん流れ星100個なんて、初めから無理やと思ててんよ」

「そうなん」

「だってそんな数、今まで見たことないもん。そやから、和くんがどうするかなぁって興味があってん」

「まじかぁ」

「でも、もう少して100個やったし、なんかいける気がしたんやけどなぁ」

「そりゃ僕もや。何としてでも100個は来て欲しかったし、そしたらひとみと付き合えるかなぁって思てたから……」

「うん、よう分かったよ。和くんの気持ちがホンマもんやって」

「ほんでも98個やったやん」


 どうしても100個で決めたかった僕は変に拘ってしもた。


「ええんよ、それが分かっただけで」

「あと2個が……」

「もうっ! ほんなら今度は私から言うわよ」

「えっ」


 ひとみがこっちへ向き直した。


「和くん。私と付き合って下さい」

「えっ! ええのん?」

「うん。お願いします」


 まじかぁ。そんなこと言わせてええんか、僕。どうしよう? いやどうしようやないやろ。これは自分が望んだ事や。

 そやけど、さっきは98個で願いはかなわんかったし、僕としても何となく後味が悪い。


「そ、それ、やったら……。3時までに100個見れたら付き合おかぁ」

「えぇー、また100個?」

「うん。一晩で200個も流れ星を見られたら、それはきっと何かいい事が起こるかも知れんやん」


 めちゃくちゃな論理やけど、僕はなんとかケジメがつけたかった。


「そうやね。分かった。じゃー今直ぐ数えるね」


 ひとみはまたシュラフに寝て夜空を眺め始める。


「あー、1個。わっ、2個目」


 それからまた流れ星の数を二人で数えた。なんの因果か3時を待たずして100個の流星が流れた。


「やったー。100個目よー」

「おお、100個やなぁ……。ほんなら僕ら付き合おかぁ」

「うん。お願いします」

「いえ、こちらこそお願います」

「でもなぁ、私はもう付き合ってる思てたんよ」

「ええっ!」

「だってなぁ、流れ星を見に行こうって誘ってくれたやんかぁ」

「うん」

「もうその時に『付き合って』って言われてたと思ててんよ」

「えーーー、そうなん」

「うん」

「まじかぁー」

「えへへ。だから後輩さんに『彼女さん』って言われて嬉しかったんよ」

「そうーなんかぁ。いや、否定せえへんしおかしいなとは思ててん」

「うふふ」

「ちょっと、叫んでもええかぁ」

「えっ!」


 僕は立ち上がって叫ぼうととしたけど、被ってたシュラフに足を取られて転けそうになった。


「わー、大丈夫?」

「だ、だいじょーぶ」


 1、2の、3っ。


「やっーたー! ありがとうーひとみ!!!」


 声が山に反射して少しやけどこだました。



 つづく


※走行データ

 またしても0km。すいません。方向性を見失ってるかも……。


※青山高原の公衆トイレ

 三角点駐車場、第1、第3、第4駐車場にあります。


※気温データ(ある日の実際のデータ)

 青山高原三角点(三重県津市)       22度


※ペルセウス座流星群のデータ

 ペルセウス座流星群は毎年8月13日前後に出現してますが、ここ数年で「好条件」にて観測できそうな日を以下に示します。


(1)2018年は8月13日の10時が極大ですが日の出後なので、12日の深夜から13日の空が明るくなるまでがお薦めです。月齢も1.73と月明かりもなく比較的良い条件で観られるでしょう。


(2)2021年は8月13日の4時が極大です。月齢は4.56ですが22時頃には沈みますので、12日の深夜から13日の空が明るくなるまでが、かなり良い条件で観られるでしょう。


(3)2024年は8月12日の23時が極大です。月齢は7.62ですが23時頃には沈みますので、12日の夜半から13日の未明に掛けてが、かなりの良い条件で観られるでしょう。



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