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06 メゼルの武具商人 パート4

「それで俺はお主達2人の服にに付与(エンチャント)すれば良いんだな?」

「はい、お願いします」

「おねしゃす、ジェスタさん」


 聖斗と匠が返事を返す。


「分かったぞい。それじゃそこで少し待って……いや、お前さん達はこの世界に来たばっかりだろ?」

「え?あ、はい、そうですね」

「では、付与を見せてやろう。こっちに着いてきな」

「イエーイ!ヤッター!」


 匠が子供みたい(注:元々匠の精神年齢は高校生未満)にジェスタのあとをついて行った。


 *


 そこは8畳程のそのままの鍛冶部屋だった。金属を溶かすための炉に溶かした金属の形を変える金床と槌。その他もろもろの鍛治道具が揃っていた。

 部屋に入ってクローゼットから少し着古されてる居るような服を取り出し、こちらにいる聖斗と匠に投げた。


「ほれ、そこの部屋に入って渡した服に着替えて来い。脱いだその服に付与してやるからな」


 聖斗と匠はジェスタさんの言われるままに着替えて各々の装備を渡した。


「さて、始めるかの」


 服が置かれた机に向かったジェスタさんがこちらを向き、


「ミーナ様、取り敢えず防御系統と魔力増幅系統の付与を掛けとこうと思いますがいいですかね?」

「ええ、それでいいですよ。帝人さんなら後で重ねがけも出来ますよね?」

「そりゃもちろん!元勇者を舐めてもらっては困りますからな。あと、ミーナ様一応この場ではいいですが、私はジェスタと名乗っておりますので人前ではジェスタとお呼び下され。あと、お前達もおそらく大丈夫だとは思うが頼むぞ」

「うぃーっす」

「はい、分かりました」

「うーん、お前はいいがお前は本当に大丈夫か?」


 ジェスタは匠に向かって疑いの目を向けた。それに対し匠は


「根は良い奴なんで大丈夫です!」

「自分で言うな!そういうのはとなりのそいつが言うセルフだろ!」


 まあ、そうなりますよね。


 心の中で苦笑している俺である。


「本当に本名で呼ぶんじゃないぞ!まったく……」


 そう言いながら服の方に向き直り、手をかざした。


「付与を開始する」


 その瞬間ジェスタさんの手元が輝き出し、聖斗と匠の服それぞれの上に魔法陣が出現した。


「《【防御力強化】【魔力増幅】【機動力強化】【才能強化】多重付与(マルチエンチャント)》」


 そうして、魔法陣は服に近づくにつれ小さくなり、服に刻みこまれたと思ったらそれは消えていった。


「魔法陣消えちゃっていいんすか?」


 匠がすぐさま尋ねた。


「いいんじゃよ。見た目で付与されていることを隠すためじゃ。あと、付与には施錠(ロック)をかけた。これで儂以外はこの付与に干渉出来なくなる。時々装備から目を離した隙に付与を書き換えられて殺されるケースがあるからの」

「うおー、怖っ。隠蔽工作って奴か」

「まあ、そんなところじゃ。」


 匠も、納得行ったところで付与(エンチャント)された服を着てみる。


「「うおっ!」」


 服を着た瞬間、体に力が流れ込んできたような感じがした。


「これ、なんて言うか……ヤバいっすね!」


 興奮により匠の語彙力が低下しているようだ(注:匠は元々語彙力がない)。


「そうだろ、やばいだろ?俺にはキャリアがあるからな」

「そう言えば、ジェスタさんは今おいくつなんですか?」


 聖斗がそう尋ねると、


「俺か?俺は今は……何歳だったか?忘れちまったな!」


 おいおい……


「ぬ!お前俺を今やっぱりジジィか、とか思ったじゃろ!」

「いやいや、そんなに失礼な事は思ってませんよ!」

「ぬぅ……大体仕方ない事なんだ!俺はこっちに来てから元の世界の時間と日にちも違ったんだ!まあ、同じ1日24時間1年365日は変わらんかったから良いがこっちに来てからはバタバタしておって時間感覚が混乱しておったから年が何年経ったかもあやふやなんだ!」


 1日12時間1年365日は同じなのか……でも月の呼び方とかは違うんだろうな……


「まあ、パッと見60は過ぎてそうっすよね」

「ぬぅ、まあそんな所だとは思ってはおるが……」

「じゃあ63歳ってことで!」

「お前な……何を根拠に言っとるのだ!」

「あ、こいつ実は結構凄くてですね、今まで年齢当ててって言って答えが間違ってた事ないんですよ」

「そ、そうなのか?まあ、そんなことはどうでも良い!」


 そう言ってジェスタさんはミーナに向き直った。


「ミーナ様はこれからどうする予定で?」

「これから父上達に帰って来たことを伝えて、王に謁見する予定です」

「左様ですか。ヴィシャス公爵様も奥様のシーナ様もミーナ様を大変愛されていましたから、とてもお喜びになると思いますよ。」

「ありがとう。私も早くお父様達に会いたいわ。それに弟達も大きくなってるわよね!」

「おお、そうでしたな!ミーナ様は生まれたばかりのお2人しか見られていませんでしたな。ええ、今頃お元気に育たれておられるでしょう」

「え!ミーナさん弟いたんすか?」

「ええ、生まれたばかりの頃見たきりだけど、もしかしたら成長した2人の姿を見ても変わりすぎて分からないかもしれないわ」

「いやはや、私もミーナ様を今日見てすぐ様気づけなかったとは……情けない限り」

「そんなことないわよ!!仕方ないわ!髪の色だって変えたし、容姿も昔と全然違ってるもの」

「ジェスタさんはともかく、ミーナさんは大丈夫ですよ。同じ血が流れているのですから、本能的に分かりますよ」

「そうよね、ありがとう愛士君」


 そうかぁ、何年も会ってない親達や弟に会えるっていうのは物凄く嬉しいことなんだよなぁ。ああ、俺は父さんや母さんに会える時にはどんな気持ちになるんだろうな……


 *


「キール待ってよ!!」

「遅いよシーフ!!」


 その場所は誰が見てもとてつもなく大きな庭。そしてその奥には恐らくそれ以上の広さがあると思われる大理石で出来た豪邸がある。

 その庭では元気よく走り回る2人の子供とそれを豪邸のデッキから眺め笑みを零す夫婦。

 ここは4大貴族パール公爵邸。4大貴族の中でも1位2位を争う財力を持つだけありパール邸がこれほどの大きさであることは誰もが納得する。


「おー!キール凄い!!」


 キールはシーフの前で逆立ちしたまま歩いてみせた。


「へっへ!こんなの朝飯前だぜ!」

「父上!母上!キール凄いよ!逆立ちしたまま歩いちゃうんだよ!」

「すごいわねぇキール!ねぇ、あなた!」

「ああ、キールは本当に運度神経がいいな!しかし、怪我だけはしないように気をつけるんだぞ?」

「へへ!分かってるよ!」

「そうよぉー、もし怪我したら私泣いちゃうわよ?」

「え!う、うん、気をつける!」

「はっはっ!シーナのことになると必死だなぁ!お父さんも泣いちゃうかもしれないぞぉ?」


 ヴィシャスは目に手を当てて泣くような素振りを見せる。それに対し、


「父上が泣くわけないじゃん!」


 と、キールから一言。


「はっはっ!よく分かっているじゃないか!」


 そう、言われたキールはからかわれたように感じ、頬を膨らませた。


「シーフも怪我なんかしちゃダメよ?」

「はい!母上!」


 そう言ったシーフをシーナは優しく撫でた。


「あー!シーフずるい!母上俺にも!!」

「そんなに撫でて欲しいなら撫でてやるぞ?」


 ヴィシャスはシーナと全く違い、キールの頭を鷲掴みにして乱暴気味に撫でた。


「父上のじゃなくて母上のがいいの!!」

「はっはっ!父上悲しいなあー!」


 そんな父の言葉などお構い無しに母シーナのもとまで走って行った。


「母上!」

「はいはい、キールも怪我しないでね」


 シーナは再び優しくキールの頭を撫でる。


「さぁ、キールもシーフも今日はミーナが帰って来るんだ。お前達の成長した姿をみせるんだぞ?」

「「はーい!!」」


 その時だった。


 ドゴォォォォォン!!!!


 その轟音は屋敷中にこだました。その音の発生源は屋敷を囲む壁。そこからは煙が上がっている。


「「「うぉぉぉぉぉ!!!!」」」


 轟音がして数十秒経たないうちにその声は聞こえて来た。


「な、なんだ!!?」

「キール、シーフこっちに来なさい!」


 突然の出来事に状況把握に必死のヴィシャス、キール、シーフを守ることを最優先にするシーナ達の目に映ったのは兵士。膨大な量の兵士達が煙の中から現れたのである。


「ぬ!あの旗は!!」


 ヴィシャスが見つけたのは兵士の1人が掲げる旗だった。


「あれはバスタビュート家の家紋!?」


 バスタビュート家は4大貴族の1つである。


「バスタビュート家……くそっ!」

「ハッハッハッ、これはこれはパール家の皆さんご機嫌麗しゅう」


 その声は若干甲高く、それだけであれば何も思うところは無いが、その声で不快な言葉を言われれば誰もが気を害するものとなる。かくいうヴィシャスも貴族集会の時などでは、いつも耳障りだと感じていた。ヴィシャスはかなり温厚で寛大、領民からは絶大な信頼を勝ち取っていた。そんなヴィシャスですらイライラするような相手こそが4大貴族の新参、バスタビュート家の当主、アーノルト・メリティアン・バスタビュート侯爵である。


「はっはっ、バスタビュート殿ではないですか。どうされた、私の家の壁を壊してでも伝えなくてはならない程の御用をお持ちかな?」


 しかしヴィシャスは4大貴族と謳われる貴族の当主、皮肉は混ぜれどいきなり激昴するほど幼くは無い。それに、ヴィシャスは先程来訪の理由を尋ねたものの既にその理由には検討がついている。


「いやはや、パール殿私がここに来た理由に心当たりがない?冗談も程々にして欲しいですなぁ」


 そう言ったアーノルトはおもむろに、自分の懐に手を入れた。

 その行為に対しヴィシャスは家族を守ろうと壁になろうとするがそれは徒労に終わる。

 アーノルトが懐から取り出したのは1枚の丸められた紙。


「ヴィシャス・バートル・パール、貴殿にメゼル王立裁判所から国家反逆罪で逮捕状が出ている。ご同行願おう」


 その紙はヴィシャス公爵の逮捕状であった。それもヴィシャスが最も信頼し、いつも傍に寄り添い支えてきたカルザ国王の調印が押印された……

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