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04 メゼルの武具商人 パート2

 天職を見たところ俺と匠はどちらも隠密よりの職業らしい。戦闘士は特化した職業と違い武器、魔法両方を駆使するオールマイティな職業らしい。そのため、他の職業で隠密と弓術士があったためそう判断された。


「では、こちらなどどうでしょう」


 そう言って渡されたのは最初に渡されたような黒い服だったが、それよりも動きやすくなんの刺繍もないものだった。


「こちらは服の中には軽く丈夫なガル鉱石で作られたチェインシャツが入っております。日常生活で着ていてもほとんど重みを感じることなく支障をきたすこともありません」

 「なるほど……」


 着てみると本当に軽かった。確かに金属の触感はするが物凄く軽いためあまり気にならない。


「匠様もどうぞ」

「ありがとうございまーす、うお!軽!!」

「はい、鉱石も軽いですが、より軽くする加工を施しておりますので」

「サイルさんのお店はうちの直属の服屋をずっと続けてもらってもう10年は超えているわ。仕立ても完璧よ」

「ほえー」

「ありがとうございます」


 ミーナの家である4大貴族が雇っているのだから物凄い腕を持っているのだろう。


「ではその上にこちらの鉄製のチェストプレートをつけて頂きます」

「なるほど」

「そして後はマントですね。マントはお好きなものをお選び頂けます。ただ、選ぶ際はあまり目立たない色をお勧め致します。隠密にとって重要なのは闇に潜むこと、目立ち過ぎれば相手に察知されかねません」


 それはもっともだ。


「分かりました」


 しかし、目立たないものを選べと言われても徹底的に目立たなくしてもそれはある一定の状況下のみにしか対応してない場合だってあるわけだ。

 例えば真っ黒のマントを選んだとしてそれは夜の時にはかなり目立たないだろうが昼にそんなものを着ていればある意味目立ってしまうだろう。

 どのような点で目立たないかで今サイルさんに言われた意味は変わって来る。

 どうしたものか……


「おお、そういえば。申し訳ないです、ご自分で選んで頂きたいと先刻申していましたのに、お勧めしたいものがあったことを忘れておりました」


 サイルさんが何か思い出したのか店の奥から1枚のマントを取ってきた。


「こちらのマントを是非と思いまして」


 そのマントは藍色のマントだった。


「こちらのマントは表面に光の反射を抑える薬品が塗ってあり、夜に着ていても認識されにくいマントとなっています。同じ服屋を営む友人に頼み込んで手に入れた品です。いやはや、交渉には少し手こずりました」

「そうなんですか……でも、そんな手に入れにくいようなものをいいんですか?」

「何を仰っているのです貴方様方は我らが仕えるご貴族のお連れになったお客様です。そんな方々に手に入れにくいから売らないなどの考えに至るはずもございません」

「そ、そうですか……ありがとうございます」

「いえいえ、それにちょうど今2着の同じマントがございます。同じ職業系統のタクミ様もおられるのですからお2人にお買い上げ頂けます」

「お、そうなんすか!やったぜ聖斗!オソロってやつだぜ!」 「お、おう……完全に言ってることが女子高生のそれだぞ」

「ん?そうか?まあ、いいじゃねえか!買おうぜ!」

「あ、ああ。ミーナがいいなら」


 そう言ってミーナの方に顔を向けるとにっこりとこちらに向けて微笑んだ。


「問題ないわよ。聖斗くん達が気に入ったなら」

「……ありがとう」

「しかし申し訳ございません。この服の生地ですと、通常の付与が出来ないのです」

「あ、そうなんですね……」

「ミーナさ……付与って?」

「ああ、この世界では服に魔法とは少し違う付与(エンチャント)をすることで服などの装備に強化効果を付けることが出来るんだけど、その強化が可能なものとそうでないものがあるの」

「そうなんですか……」


 ミーナの優しさに感動しているとあまり芳しくない情報が言い渡された。

 ミーナたちの反応を見るにエンチャント出来ないのはあまり好ましくないらしい。


「そこでなのですが、パール家の皆様にはいつもご贔屓(ごひいき)にして下さっているので、特別に耳寄りな情報をお教えしましょう」

「耳寄りな情報……ですか?」


 ミーナは真剣な表情で店主の話を聞く。


「はい、ちょうど1年前ですかな。勇者様が代替わりした時にございます」

「えっ!?ちょっと待ちなさい、勇者が代替わり!?じゃあ前の勇者……帝人さんはどうしたの!?」

「み、ミカド?ああ、カシマ様の事ですか。すいませぬ、私はパール家直属の服屋ですが、本質はただの商人でございます。詳しい事まではなんとも……というか、ミーナ様の方が良く知っておられるのでは?」

「んっ……」


 1年前と言えばまだミーナは玉川晴海として元の世界にいた頃だ。


「ご、ごめんなさい。取り乱しました。さっきの話を続けて頂けますか?」

「承知致しました。勇者様が代替わりをなさった頃にジェスタ・ロードマンと名乗る老いた武具商人がやってきましてな。最初は新参だったこともあり客足がからっきしでしたが、ある時からその男は積極的に客を招き入れるようになりました。その瞬間からロードマンは一流の鍛冶師であり、付与師(エンチャンター)であったと判明したのです。そこからロードマンの武具は最上質だと噂になりまして、今はとても繁盛していると言う話です」

「それと今の話に何が関係しているの?」

「はい、今のは前置きで大事なのはここからです。基本、服を武具として使うには元々その服が特別な生地で作られてなくてはいけないというのが常識です。しかし、ロードマンはなんの変哲もない服にも武具としての性能を持たせる付与(エンチャント)が出来るというのです」


 その発言に対し、ミーナから驚愕の声が飛ぶ。


「えっ、ただの服に付与(エンチャント)!?それってかなり凄いことじゃない!?」

「はい、お察しの通りかなり凄いことでごさいます。話を戻しますが、そのロードマンに頼めばセイト様のお召し物も武具として使うことが出来るのです。しかしながら、やはり高度な技術なのでそれなりに値は張ると思われますが……」

「……良いじゃない、そうしましょ!それでそのロードマンさんの店はどこなのかしら?」

「それでは、お会計をなさっている間に私が住所を書いた紙を準備しましょう」

「ありがとう、それではよろしく頼むわね」

「かしこまりました」


 その後、店主に会計口に通された。その会計口に立っていたのは俺達のような若い青年だった。


「ミーナ様、会計はうちの息子が行いますのでよろしくお願いします」

「息子……ってことはもしかしてゲイル君!?」


 そのミーナの呼びかけに対しその青年は肯定の意を示した。


「は、はい。お久しぶりでございます。ゲイルにございます」


 少し緊張したようなゲイルにミーナは陽気に答える。


「ゲイル君!そんなに緊張しなくていいのよ。私達は幼なじみなんだからね!」


 そんな呼びかけにゲイルも少し落ち着きを取り戻したようだ。


「ありがとうございます、ミーナ様。すぐにお会計を済ませますね」


 そう言ってゲイルは慣れた手つきで領収書を書いていく。


「それにしてもゲイル君、大きくなったわね〜」

「それはミーナ様にも言えますよ。見ない間に大きくなられて」

「ふふ、ありがとう」


 そんなやり取りが続き、会計を終わらせた。しかし、匠の姿が見当たらない。


「ミーナ、匠は?」

「ん?ああ、匠君なら買った服を着てるわよ」


 匠は結局どんな服にしたんだろうか?


「おーい!聖斗!」

「うわ!」


 いきなり匠が背後から大声を出てきた。


「おい、いきなり後ろから大声で呼ぶな」

「すまんすまん」


 笑いながら言ったため説得力はないがそんなことより……


「お前俺と同じかよ」

「そうだぜ、オソロオソロ」

「被らせるなよ」

「いいじゃん、俺たち親友だろ?」

「匠……」


 匠はおしゃべりだし、チャラいけどめちゃくちゃ良い奴だからな……


「とにかく、そのジェスタとかいうおっちゃんに付与もオソロにして貰おうぜ!」

「お、おう!」

「あっ!」


 突然ミーナが声を上げた。


「どうしたんですか?ミーナさん」

「そうそう、聖斗君。あなたが勇者って事はまだ誰にも言っちゃダメよ」

「?。わ、分かりました」


 疑問に感じたがミーナの言うことなのだから素直に受け止めておこう。こうして俺達は武具商ジェスタ・ロードマンに会おうと歩き出した。

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