01 現世にて
とりあえず出してみたので、後で改稿とかあるかもしれません。あと最初なので結構短くしました。
そこは炎の海といって差し支えない場所であった。あらゆる家具、機材、書類に火が燃え移り、建物が倒壊する音と火が燃え広がっていく音が聞こえて来る。
「う、うぅぅ……」
それらの音に紛れ今にも意識が絶たれそうな声が聞こえてくる。
その声の持ち主の男は彼と同じように倒れている女、そして目の前の巨大カプセルに入っている赤子に向かって、
「鈴音……聖斗……お前たちだけは……」
と言って、彼は必死にその二人に懸命に手を伸ばす。
その瞬間彼の目の前は白い光に包まれた。
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2023年 8月11日
目覚めたら病室のベッドの上にいた。ベッドの側の机にちょっと高そうな日記があった。ちょっと開いてみると『自由に書いてよし』と書いてあった。それは、俺に許可を表しているはずなのに、何故か『書け』と、高圧的に要求しているようであった。だから今この日記に文字を連ねている。
ところで今俺には記憶がかなり欠如しているようだ。どうやら、父と母は研究者で、研究中に事故死したらしい。それが俺の記憶欠如に関係しているのかは不明だ。ちなみに、『ところで』からの文は、後に医師から聞いたことだ。
取り敢えずいまは眠いから寝よう。おやすみ。
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カツカツカツ......
理科教員の伊藤が板書をする音、周りからはシャーペンを走らせる音が聞こえてくる。その中で何もせずに頬杖をつくのは、前宮聖斗17才、高校2年生。
あの日から俺の記憶は未だ戻っていない。しかし、1つ気づいたことがある。今、伊藤の授業を受けているが、教えられることを全て知っているのだ。その他の教師の授業、他の人が言う事、流石に人の私情は全く分からないが、知識的な事は全て知っている。
「では、この公式の意味を正確に説明できる奴はいるか」
伊藤が発問しているが多分ほとんどの生徒は板所を書き写すことに夢中で返答を返すことができない。
勿論俺は全部知っているし、書く必要も無いので余裕で答えられるが、あまり目立つのは好きではないので返答は返さない。
「はい!」
そんな中、元気良い綺麗な返事が聞こえてきた。
この声の持ち主はこの前転校してきた玉川晴海という女子生徒だ。
転校シーズンでもない梅雨の季節に転校してきた生徒であまりの綺麗さに教室に入ってきた瞬間クラスの男子は玉川さんに釘付けになったという伝説も残している。
俺も魅力を感じなかったわけではないが、今後おそらく接触することは無いだろうと思い、興味は薄くなった。
「その公式は──」
玉川さんの声はかなり美しく、オペラ歌手を目指してもいいのでは無いかと思うくらいの声で、その声で発せられた声は聖女の魔法詠唱彷彿とさせる物だった。
「完璧だな」
普通はあの伊藤がそう簡単にokサインを出したりはしないのだが、それをなんの苦も無くこなすのが晴海だった。このごろは一緒に過ごしてきて彼女にまた興味が湧いてきた気がする。
キーンコーンカーンコーン
「ん、鳴ったな。続きは次回、お疲れ〜」
「ありがとうございました」
生徒一同の声が重なる。
「はぁ〜」
教えられること全て知っていると授業中物凄く暇なのは言うまでもない。
「お疲れのようだな」
男子生徒がからかうように言ってきた。奴の名前は桜坂匠。このクラスで1番打ち解けて話し合える人間だ。
「や〜、すごいよな〜」
「何がだよ」
「いや、だってお前いっつもあんなふうに怠けててもテストじゃ満点ぐらい余裕で取れるんだからよ〜」
「見てたのか……満点は言い過ぎだ。せめて9割だろ」
「でも9割取れてるんだろ?」
「まあ、そうだけど……」
こうやってよく羨ましがられることも俺にとっては少なくない。そうやって目立ちたくないなら手を抜け、と思う人も多いと思うが、本人曰く、それはちょっとなんて言うか俺の方針に逆らってるって言うか、手を抜くのが許せないって言うか……
「ほらー、その勉強法教えてくれよー。あっ、でも家で勉強とか言うなよ。めんどくせぇし」
「結構最低だな、お前」
「うっ……」
「ちょっとお話中申し訳無いんだけどいいかな?」
一瞬時が止まった。今聞いた声は確実に男子ではない。しかし自分達に声をかけようとするような物好き女子がいるとは思えない。
ゆっくりと声が聞こえた方へと顔を向けてみた。そこには……天使がいた。まさに天使のようなおっとりとした眼でこちらを見ていた。
「君が前宮聖斗君だよね? ちょっと放課後に校舎裏の3番倉庫に1人で来てくれないかな?」
「え?」
あまりにも間の抜けた声に普通恥じらいを覚え、赤面してもおかしくはないが、そんな事してる場合では無い。
待て待て、待つんだ俺。何故俺を呼び出すんだ?もしかしてこれって告は……って何考えてんだ!そういう系ってなんで決めつけるんだ! なんかちょっとした用事とかかもしれないじゃないか!
冷静に考えろ、俺!
「あっ、う、うん。分かった」
「じゃあよろしくね!」
そのままスタスタと玉川さんは教室を後にした。そこで授業が終わった後にした溜息とは違う溜息をつく。
「前宮〜!?」
「え?」
周りを見ると男子生徒全員がこちらを思いっきり睨んでいる。どうやら晴海と喋っている間ずっと睨まれていたようだ。
「どーいうことだ前宮〜!?」
「お前、玉川さんとどういう関係だ!?」
周りから非難と呼べる声が飛んでくる。
「確かに俺もそれは気になるな〜」
隣でも匠がニヤニヤとしながらこちらを見ている。
「おいっ!匠まで!」
って言うか、あいつらも俺と考えること同じかよ!
「前宮!答えろ!」
「いや、知らねぇよ!」
「知らばっくれるんじゃねえよ!」
「だから、知らねぇんだって!うるせぇな!」
そう言って俺も玉川さんと同じように教室を去っていく。
*
なんだかんだでその後周りからの視線を感じつつも何も無く時が過ぎ、いつの間にか放課後になっていた。そして、言われるべきして言われるかのように、
「頑張れよ、彼氏!」
「やめろ!その呼び方!ていうか、まだそう決まった訳じゃねえし!ていうか、仮にそうだったとしてもまだ返事もしてねぇんだからな!」
「お〜、冷静なご指摘感服いたしました〜」
確実にからかっているがツッコミを入れる余裕は無いのでやめておく。そのまま匠を無視してせっせと3番倉庫に向かった。
*
3番倉庫の前。俺は必死に自分を抑え込んでいた。
落ち着け。平然だ。平然を装うんだ。装っている時点でやばい気がしなくは無いが……とにかく玉川さんに焦りを感じさせないようにしないと……
覚悟を決めて扉を開ける。倉庫の入り口から見て玉川さんは見えない。おそらく奥にいるようだ。
この学校の倉庫は比較的大きい。しかし入り口からまっすぐに道が伸びてその脇に一本道の通路が多数通っているだけだからまず迷わないだろう。
「玉川さーーーん」
返事がない。
まだ来ていないのかな?
「前宮君!」
「おわっ!」
いきなりの声に思わず立ち退いた。
「あっ、ごめん、驚かせちゃったね」
「あ、いや、大丈夫」
「じゃあちょっと奥に来てくれる?」
「わ、分かった」
倉庫に来てということは何か運んでほしいものでもあるのか? でもそれだったら他の生徒でもいいわけだから俺じゃなくてもいいよな。
そんなことを考えていたらいつの間にか1番奥に着いていた。そこで、俺は単刀直入に問うてみる。
「玉川さんは結局なんのために俺をここに呼んだの?」
「それは……」
少し間が空いた気がした。
実際、玉川さんも返答をすべきか迷っているのが見て取れた。
「あなたにはこことは違う世界に来てもらいたいの」
またもや間が空いた。しかしそれは先程の間の数倍の時間であった。
「へ?」
よし、まず整理をしよう。今玉川さんはなんと言った? こことは違う世界? それはどういう意味だ?それは比喩的な意味での違う世界なのか? それとも実際に違う世界と言いたいのか……いやいや、それは流石にないだろ。異世界に行くとかファンタジー小説のテンプレでしかないし……
「ごめん、上手く聞き取れなかったんだけどもう1回言ってくれない?」
「そうだよね、いきなりそう言われても困っちゃうよね。でもこれは決定事項なの。ごめんね」
「へ?」
え?何?ワッツ?この状況全く飲み込めてないんだけど?何?もしかしてこの後異世界へ転送するねとか言われるの?
「とにかく、今日しかあっちに行くことが出来ないの」
「ちょっと待って、玉川さん! 違う世界って何? もっと詳しく説明してくれないとこちらも返答に困るんだけど」
「あっ! ごめんね! そうだよね、何やってんだか私は今説明するね」
「そろそろ私の出番のようですね」
その時いきなり玉川さんの後方から声が聞こてきた。それは聞き慣れない口調ではあったが、確かに聞き慣れた声ではあった。
「やあ、聖斗兄さん。慌てているようですね」
は? おい、匠なんだその口調。それに聖斗『兄さん』って……
「あー、そのうちの前者の問いであれば今答えられますよ」
「えっ!?」
こいつ何言って……
「私はいつも兄さんが接している匠さんとは違う存在です」
「は? おい、匠。何言ってんだ……?」
「だーかーら、聖斗君の前にいるのは匠君じゃないんだって」
玉川さんが横から声をかけてきた。
「え…? それはどういう…?」
「端的に言うと、私は匠君に乗り移った何かということですね」
「何かって…」
「その答えはあちらに着いてからにしましょう」
「よし! 一旦この話終わり!」
「ちょっと待て! 話はまだ終わって…」
「《転移》、並びに専用ルートへの接続!」
そう玉川さんが唱えた瞬間、目の前が真っ白になった。
書くの遅いので読んでくれた方は気長に待って頂けると嬉しいです