【005】異世界リハビリライフのはじまり
俺と俺の姉という少女と一緒に先ほどの森から家に帰ってきた。すると、家に帰るやいなや、
「この…………大馬鹿者----!!!!!」
玄関で仁王立ちで立っていた大柄の男に俺は鉄拳をお見舞いされた。先ほど、川で姉に三メートルほど吹き飛ばされたが、今回はその倍の六メートル以上、家の敷居を跨いだ瞬間、敷居外に思いっきり吹き飛ばされた…………が、姉の時と同様、痛みはほとんど感じることはなかった(とは言え、姉の時よりも全然痛かったけどね……)。
「ご、ごめんなさい……」
俺は、とにかく謝った。なぜならその男はこの少年……アキラ・ファドライド・ビクトリアスの父親のようだったからだ。
「この…………馬鹿者が」
そう言うと、男は俺の元に全力で走って近づき、そして……思いっきり抱きしめた。
「もう、二度と、自殺なんてするんじゃないぞ…………アキラ!」
男は、その巨体を小刻みに震わせながら、しかし、やさしく俺を抱きしめ…………泣いていた。
「は、はい……もう、自殺なんて二度と……もう二度とやりません。ごめんなさい」
俺はまた、自分の両親に対しての申し訳なさを改めて実感した。
地球では、俺が死んだ後、両親も同じように泣いてくれてただろうか……。もちろん、そんなことは知る由もないができればそうだったらいいな、と思いつつ、申し訳ないと強く感じた。本当に自殺は悲しみしか生まないんだな…………いまさらだが。
三人の間をしばらく沈黙が包んだ。
「お、お父さん、実はね、アキラ…………記憶がないみたいなの」
「な、なに?! 本当か、それは?!」
「は、はい。姉さんのことや、たぶん、父さんであるだろうあなたのことも…………覚えていません」
「そ、そうか…………いや、いい。まだいいじゃないか。死んだわけじゃないんだから!」
「そ、そうよね。お父さんの言うとおりよ、アキラ! 別に記憶なんか無くたって生きてさえいれば大丈夫だからね!」
姉とその男は、俺を元気付けるように明るく振舞いながら言った。この子……アキラ・ファドライド・ビクトリアスの家族は皆、この子が好きなんだな、と実感した。
「よ、よし! では、私から自己紹介しよう。私はモレー・ファドライド・ビクトリアス。君の父親だよ、アキラ。よろしく」
「そして、私があなたの姉のルビア・ファドライド・ビクトリアスよ。そして、あなたの名前は……」
「そ、それは知ってる。俺の名はアキラ・ファドライド・ビクトリアスだろ?」
「お、俺? ルビア、アキラのこの言葉遣いは…………」
「うん。なんか以前と違って妙に『男の子』っぽくなったみたいなの」
「うむ、そのようだな。いや、いいじゃないか! 私はアキラが無事であればそんなことは気にならないぞ。むしろ、以前よりも少し逞しくなっているようにも見える。良いことだ。」
「もう、お父さんったら…………でも、そうね。以前のアキラも素敵だったけど、今のアキラも素敵よ」
「ル、ルビア……」
「ちょっと!? いくらなんでもお姉さんに向かって『タメ口』?!」
と、ルビアが森の時のような『般若フェイス』を覗かせた。
「はっはっは……いいじゃないかルビア、そのくらい。むしろ、アキラに男の子らしさが生まれたんだ。タメ口くらい許してやりなさい」
「そ、そんな、いくらなんでも……」
「ということで、これからはタメ口でよろしく…………ルビア」
「調子に乗るんじゃ……ないっ!?」
頭を思いっきりどつかれた。
「痛てっ! ご、ごめんなさい」
「はっはっは、まあまあルビア……その辺で許してあげなさい。アキラが思ってたよりも元気そうでよかったじゃないか」
「わ、わかってるわよ。もう、お父さんはアキラに甘いんだから!? それじゃあ、アキラ……とりあえず、何かご飯食べる? お姉ちゃんがアキラの好きなやつ何でも作ってあげるわよ」
むんっ! と、腕まくりをするルビア。
「ううん、今日はいいよ、ルビア。今日はこのまま…………寝るよ」
息巻いた勢いが空を切り、ガクッとうな垂れるルビア。
「えっ? そ、そう? おなか空いてないの?」
「あ、ああ。今日は疲れたからもう寝るよ」
「わかったわ…………ゆっくり休みなさい、アキラ」
「う、うん。ありがとう……」
「おやすみ、アキラ」
「おやすみなさい、アキラ」
父のモレーと姉のルビアが、優しい眼差しと口調で囁いた。
「おやすみなさい、父さん、姉さん」
俺はそう言うと自分の部屋だと案内された部屋に行き、そこにあるベッドにそのままダイブした。
ああ……疲れた。とにかく疲れた。俺は死んだ後、異世界でのリハビリ生活を選んでこの異世界に転生したのだが、しかし、改めて、どうして俺は、異世界リハビリライフ(こっち)を選んでしまったのだろう。今さらだがちょいと前の自分を殴り飛ばしたい気分だ。しかし、そうは言っても…………『賽は投げられた』のである。
「やるしかないんだよな、この世界に平和をもたらす…………英雄に」
チート能力を使って異世界で『俺つえー』で楽しく生活する…………生前はそんなラノベやアニメが好きだった自分にとってはまさに『夢にまでみた憧れた世界』のはず…………なのに『力を求めると寿命が削られる』なんて。この先、俺は寿命を残し死なずに『英雄』になんて果たしてなれるのだろうか。憧れの対象だったはずの『ラノベ主人公』…………しかし、実際、その『当事者』となった今、ただただ不安でしかない。
マンガやアニメは『読む側・観る側に限る』ってことを心底思い知らされた俺は、散々愚痴をこぼしながらそのまま睡魔に飲み込まれていった。
更新なうっ!
……まー、ツイッターほとんどやったことない『にわか』ですけどね。