【003】異世界
目を開けると、そこは………………………………水の中だった!!
「ぐっ?!…………も、もがっ!!」
俺はいきなり、パニックとなった。
「ぐ、むぐぅ…………!?」
何とか冷静さを取り戻し、急いで水上へと身体を移動させた。
「ぶはっ?! げほっ! げぼっ!…………い、いきなり、死ぬとこだった!!!」
水面に顔を上げた新堂アキラはグッタリとしていたが、岸が目の前ということもあり、何とか泳いで岸へ辿りついた。
「な、なんだ?! 何が起こった? 冷静になれ、俺! えーと……えーと…………俺は確かN駅のビルから飛び降り自殺をしたはずだ。でも、生きている…………もしかして、やっぱり川に落ちてしまって死ねなかったのか?!」
しかし、周囲を見るとそこは川ではあったが、飛び降りる前にビルの上で見た『黒い川』ではなく、青く透き通った綺麗な川がそこにあった。しかも、それだけでなく、岸にはビルや建物があるわけでもなく、むしろ、木が生い茂っていた。どうやら深い森の中のようだ。
「おかしい。こんな森の中に入った記憶なんて無いぞ、どういうことだ? それに何だか身体の勝手が違う……なんだ、この違和感は?」
そう言うと、水面を通して自分の顔を覗いてみた。
「わ、若っ! まるで十代のような顔じゃないかっ?! て言うか君、誰?!」
40歳のおっさんは水面に映る自分の顔や風体が、これまでの自分であろう『身体』と全く違うことに愕然とした。
すると、ちょうど、あの『すごく偉い人っぽい声』が聞こえてきた。
≪どうやら無事転生できたようじゃな、新堂アキラよ≫
「そ、その声は神様!?…………なのか?」
≪いかにも。ワシじゃ≫
その声を聞いて、アキラはすべてを思い出した。
「おい、神様! あんた転生先が水の中ってどういうことよ?! 危うく、転生した瞬間、死ぬとこだったぞ!!!」
≪そうか。それはすまない。しかし生きてて良かったよ。もし死んでいたら、ちょっと大変なことになっていたからの≫
「えっ? 大変な……こと?」
すごく、すごーく気になる言葉を言い放った神様。
「な、何が大変なことになるのか、よかったら教えてもらえますか?」
俺は、おそるおそる聞いてみた。
≪うむ。もし、このリハビリ先の異世界で死ぬことになるとだな、君の魂は『無の世界』へと行くことになる≫
「む、無の世界?」
何それ、美味しくなさそう。
≪うむ。その世界では『生』も『死』も存在せず、ましてや『魂』すらも存在が許されない世界。その世界では『苦痛』もないが『幸福』もない。そもそもそういった『感情』を感じることすらできない。なんせ、その感情を感知する器がないのじゃからな。それが『無の世界』じゃ。故に、くれぐれも…………『いのちだいじに』≫
「ど、ど…………」
ドラ○エの『さくせん』みたいに言ってんじゃねーーーーーーー!!!!!!!!!
あと、『水の中』なんて転生先に指定してんじゃねーーーーーー!!!!!!!!!
「そ、そういうことははやく言ってくださいよ! それだったら異世界なんて行かずに天国のリハビリコースにいったのに~~~!!」
≪そんなこと言われてももう遅い。君は『異世界でのリハビリ』を選んだのだ。これが覆ることは……ない≫
「そ、そんな~…………」
ガクッとうなだれるアキラ。
≪まあ、そこまで悲観せんでも良い。死ぬことは確かに怖いことじゃが、死ななければいいのじゃ。そうじゃろ?≫
「いやいやいやいや……だって、ここでのリハビリの課題って『世界を平和にする英雄になること』でしょ? そんなの無理に決まって……」
≪力の付与……もう忘れたか?≫
「あっ?!…………チート能力!!!」
≪うむ。そうじゃ。思い出したか。お前には特殊能力を与えておる。それがあれば問題ない≫
「なに、なに? どんな能力がもらえるの?」
≪すでに『力』は付与してある。まずは試してみると良い。力の名前は…………『能力向上能力』≫
「能力向上能力…………………雰囲気あるスキル名じゃない! わかってるじゃないか、神様!」
アキラは天を仰ぎ、神を称えた。
≪う、うむ。君が気に入るような名前を付けておいた。気に入ってくれてよかったよ≫
「で、これ、どういう能力なんですか?」
≪うむ。能力向上能力はシンプルかつ強力な能力じゃ。なんせ、『君が欲しい能力をイメージして唱えれば、その力が顕現される』というものじゃからな≫
「欲しい能力を! 何でも!?」
≪まあ、そうじゃな。何でも、というわけにはいかないが、たいていのものは問題なく顕現できるじゃろう。顕現できるものとできないものの考え方としては『世界平和を実現せよ』や『英雄になれ』というような『リハビリ目標がすぐ達成する力』は顕現されない。もっと言えば、『自分の力や能力の向上』は顕現できても『望む理想の実現』といった力の顕現はできないということじゃ≫
「うーん、なるほど。つまり、『自分自身の力の強化』や『能力を付与すること』は可能でも『リハビリ目標』がすぐに達成してしまうような力の顕現はできない、ということ?」
≪うむ。そういうことじゃ。要は、この能力向上能力は『世界平和を実現するため』『英雄になるため』のツールという程度で考えておけば良い≫
「いやあー充分でしょ?! こんなチート能力ならすぐにでも世界平和なんていけるでしょ?!」
≪ふふ……さっきも言ったが、天国でのリハビリライフと違って、ここ、異世界でのリハビリライフは難易度が高いといったじゃろ? だから、新堂アキラ、君が思っているほどそう甘くはないぞ。なんせ、この能力向上能力は…………お前のその身体の寿命と連動しておる≫
「えっ?………………『寿命』と連動?」
≪うむ。この能力を発動し力が付与される時、同時にお前の寿命が削られるということじゃ≫
「ええええ~~~!!! そんな~~~!!!」
本当に甘くはなかった。
≪向上したい能力の大きさや種類によって寿命の削り方は変わってくる。まあ、その能力向上の種類と大きさをどう寿命と折り合いをつけつつ、伸ばしていくかが難しいところじゃろうな≫
「た、確かに。ちなみになんですけど……これって、もし大きな力を使ったとき、寿命が一気に一生分のレベルで引かれてすぐに死ぬこともあるんですか?」
≪すぐには死なん。だが、寿命が尽きるとものすごいスピードで生命力が削がれていく。故に、魂がそこに居られるのはせいぜい十分程度じゃろうな……≫
「……やっぱ十分経ったら死ぬんですか?」
≪うむ。死ぬ。そして『無の世界』へと旅立つことになる≫
そ、そんなの嫌~~~~~~~~!!!!!!!!
≪まあ、その為にも力はなるべく使わず、自分自身の力で筋力や脚力、剣術などを鍛えれば良い。それならば能力を使っていないので、寿命も減ることはない≫
「えっ?! そうなの?」
≪うむ。『能力を使って力を手に入れる』というのは言ってみれば『ルール破り』『飛び級能力』みたいなもんじゃからな。本来はそんな力は無いのじゃから。まあ、『どうしても力を使わざるを得ない時』に使うというのが基本的な使い方じゃ≫
「な、なるほど。わかりました。ちなみに寿命が削られる量とかはわかるんでしょうか?」
≪うむ。能力を使うと頭の中で『寿命の残量』を教えてくれる仕組みになっておる。どれ、サービスとしてわしがお前に基本的能力の底上げをしてやろう。あくまで『リハビリライフ』じゃからな。これで『寿命の残量』も聞こえるはずじゃ≫
「えっ?」
そう言うと、俺の身体の周囲に光の粒子が広がり、そして、その光が身体の内部に入っていった。
「お、おおおおお~~~!!」
何と言うか、その…………すごく身体が軽くなった。それと同時に、
{能力向上能力発動。基本的な身体能力が向上しました。寿命は残り百パーセントです}
と、神様の言ったとおり頭の中で機械のような無機質な声が響き渡った。
≪今、お前の身体能力は一般の人間の数倍の能力が備わった。これにより、しばらくは力を使わなくとも生きていけるじゃろ。ちなみに今、頭の中でちゃんと『能力の名称』『向上内容』『寿命の残量』を示すアラートが聞こえたじゃろ? まあ、今回はワシからの力の付与じゃから寿命の残量は百パーセントのままだがな≫
「は、はい。聞こえました。あ、ありがとうございます!」
≪うむ。寿命は力を使わなくとも、この世界で生きている以上、時間が経つにつれ、どんどん削り取られていく。そこも考えながらうまく利用して見事リハビリ目標を達成してみなさい≫
「わ、わかりました。やってみます」
≪うむ。何か疑問や質問があったら頭の中でいいし、声に出してでもいいからワシを呼ぶがいい、いつでも答えてやるぞ…………ワシが必要だと思ったらな≫
「それって……気分次第ってことですか?」
≪まあ、そうとも言うな。わっはっは……≫
「はは……」
全然笑えねーよ。
≪さて、君に授ける能力の話はこれでひと段落ついたな。次は、君が転生している少年の話をしよう……≫
「あ……」
そう。今までチート能力の話でつい舞い上がっていたが、今の身体はこの世界の『誰か』の身体に転生していることになる。それが、さっきの『違和感』ということなのだろう。この『少年』はいったい……?
更新しました~。
まずまずの更新進捗具合ですが、実は話自体は数話ストックしているのですが、イラストが追いついていない状況ですのでしばしお待ちを。