【017】告白
アキラは食堂から飛び出した。
自分のやったことの後悔が頭を走る。
「な、なんで、俺はあんなムチャのことを……」
自分のやったことではあるが、そんな行動を取った自分が信じられなかった。
「イシュタット家のことは詳しくは知らないが、少なくとも三人(モコ、サヤ、キーマ)の話では歯向かうことはかなりやばいと言っていた。俺もその自覚はあった……なのに、俺は無意識で相手に手を出していた。何だったんだ、あれは……」
アキラはガルアの『便所虫』と言う言葉が『トリガー』だったことは覚えていた。体育館でも不良たちにこの言葉を言われたときにカチンときたのも覚えている。
「何だったんだろう、あの感覚……自分が自分でないような……」
アキラは自分のやったことではあるが、その時の記憶ははっきりとは覚えていなかった。
まるで自分以外な『何か』に動かされたような……。
アキラは校舎内を無我夢中、思いのままに走っていたため、自分がいる場所がわかっていなかったがそこは三年棟の屋上だった。
「あ、あれ? ここはどこだ?」
アキラは我に返って周囲を見渡した。
「屋上……か。まあ、とりあえず誰もいなくてよかった。少し落ち着きたい」
アキラはとりあえず頭を整理して落ち着こうとした。すると、
「アキラっ!!」
「!?……ル、ルビア!!」
ルビアはあの後、アキラの全力疾走に何とか食らいつき後を追っていた。
「アキラ……あの力は何なの?」
「……」
「それにさっきガルアが言っていた『兵隊をやっつけた』って何?」
「……」
俺はルビアの質問への返答に迷っていた。そりゃあそうだろう……これまでの自分の知っている弟『アキラ・ファドライド・ビクトリアス』とは全然違うのだから。
しかし、どう言えば……。
『自分はこことは違う別の世界から転生してきた』と真実を言うべきなのか……それとも……。
「……あなたは何者なの?」
「!?」
その言葉で俺はルビアにごまかすのは無理だと判断した。
これ以上、ごまかそうとしてもルビアにはもう通用せずただ不信感を与えるだけだろうし、そもそも、そのごまかす為の『言い訳』も用意していない。そんな状態で付け焼き刃の言い訳をしても事態を悪化させるだけだろう。
「俺は……新堂アキラ。この世界とは別の世界、『異世界』からアキラ・ファドライド・ビクトリアスとして転生した転生者だ」
「て、転生者? 異世界?」
ルビアは俺の言葉にただただキョトンとしていたが、俺は構わずこれまでのことをすべて話した。
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「つ、つまり、あなたはこことは別の世界……異世界から私の弟に乗り移ったってこと?」
「ま、まあ、そんな感じかな?」
「それって、つまり幽霊みたいなものってこと?」
「う、う~ん、どうだろう……そう言われたら幽霊っぽい気はするけど、どっちかと言うと生まれ変わった感じに近い……かな?」
とは言ったもの、本当にそうなのだろうか?
よくよく考えてみると自分の存在はどういう位置にあるのだろうか?
はっきりした答えはないのでモヤっとする。
まあ、それはまた後で『神様』か『能力向上能力』に聞いてみよう。
「じゃあ、私の弟はやっぱり自殺してそれで……」
「……ああ。神様が言うには『同級生や上級生からのイジメが原因で自殺して命を落とした』と言っていた」
「アキラ……」
ルビアは顔をふせ、肩を震わせていた。おそらく泣いているのだろう。
ルビアはこれまで弟は自殺をしたが運よく助かったと思っていたはず……だから、今の俺の告白は相当なショックを受けているだろう。
こうなることは予想していた。しかし、もうこれ以上ごまかすのは俺にはできなかった。
そして、こうやって真実を告げた今、俺は覚悟をしていた。もはやこれ以上『アキラ・ファドライド・ビクトリアス』としてルビアやモレーさんたち家族とは一緒に居るべきではないということを……。
「すまなかった、ルビア。本当は最初に言うべきだったかもしれないが………………騙して悪かった」
そう言って、俺はそこから立ち去ろうとした。
そしてその足でそのまま学校も辞め、どこか別の町へ行こうと……………………すると、
「……どこ行くのよ」
ルビアが俺の服の裾を掴んでいた。
「どこって…………真実を告げた以上、君たちと一緒には居られないし……」
「なんでよ?」
「なんでよって……だって君はもう知ったじゃないか、俺が君の弟じゃないってことを。それに俺は『ある目的』の為にこの異世界にやってきた。だから、その目的を果たすためにこれからは動くつもり……」
「……弟よ」
「えっ?」
「あなたは正真正銘、私の弟、アキラ・ファドライド・ビクトリアスよ!」
「い、いや、だって、言ったじゃないか……俺は弟じゃないって」
「弟よ。外見だってそのまま弟じゃない。中身なんて誰もわからないわよ。だからあなたはこれからも私の弟でいいの!」
「い、いや、でも……」
「あーーうるさいっ!!!!!!」
ガンッ!!
ルビアがアキラの頭を殴った。
「私が決めたの! だからこれからもあなたは私の大切な弟……アキラ・ファドライド・ビクトリアスなの! わかった?!」
「……は、はい!!!」
ルビアの勢いに俺はつい『はい』と言ってしまった。
「だから、あなたはこれからもビクトリアス家のアキラ・ファドライド・ビクトリアスとして私たちの大切な家族なんだからね!」
ルビアが満面の笑顔で俺に告げる。
「あ、ありが……とう……」
追い出されるのが当たり前としか考えていなかった俺は不覚にも驚き感動し…………泣いた。
普通なら絶対に追い出されるだろうし、もっと言えば、ルビアにボコボコにされることも覚悟していた。理由はどうあれ騙していたのだから。
でも、ルビアは許してくれた。
それどころか、アキラ・ファドライド・ビクトリアスとしてこれからも家族として一緒だと言ってくれた。俺の中ではあまりの想定外な結果だった。
「とは言え……」
「んっ?」
ルビアが笑顔から一転、真顔になる。
「……あんた、中身は四十歳なのよね?」
「あ、ああ……?」
「そんな中身おっさんがこれまでアキラ・ファドライド・ビクトリアスという私のかわいい弟に転生して私と『すきんしっぷ』してたってことよね?」
「…………はい。今朝の抱擁、ありがとうございます」
「この変態ヤローーーーー!!!!!!!!!」
「あべしっ!!!!??」
ルビアが全力で顔にパンチを入れた。
昨夜のモレーさんのパンチよりも痛かった。
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
「ところでさー、アキラ……」
「ん?」
「あんたさっき『ある目的』でここに来た、て言ってたけど、その目的って何なの?」
「え、あ、ああ……」
うーん、これも言っていいのだろうか? まあ、でも、神様には特に『他言無用』とは言われてないので『自分の判断で言いたいときは言ってもいい』と判断した。
「神様が言うには『この世界を平和にすること』と……」
「『この世界を平和』? それだけ?」
「あ、ああ」
「なによ、その漠然感……目的があるようで無いようなものじゃない」
「…………あっ!」
た、確かに。
よーーーく考えてみると、俺は『異世界に行ける』ということに舞い上がって肝心な目的の詳細は聞いていないことに今、初めて気づいた。
「あんた、もしかして………………バカなの?」
「な、なにを~~~!!!」
「なによ? 姉さんに向かって……殴るわよ?」
と、言った瞬間殴られた。
「な、殴ってんじゃねーか!!」
「お前? さっきも言ったよね? あなたは私の弟なんだからね? いくら中身が他人と言っても私はもうあなたを弟と認めた。だから、これからは生意気な口の聞き方には気をつけなさい、いいわね?」
ルビアが般若フェイスでプレッシャーをかけてくる。
「は、はい……以後、気をつけます」
「ん、よろしい」
ルビアがニッコリと笑顔を返す。
そうか。
ルビアは本当に俺のことを家族の一員として、弟として、本気で俺を受け入れると伝えようとしているのか。ルビアのそんな気遣いに俺は声には出さないが改めて感謝をする。
とは言え……ウチの姉さん、こわい。
「まあ、とりあえずその『世界を救う』という話は置いといて、まずは目の前のことをどうにかしないとね……」
とルビアが改めて話を戻す。
「ルビア……俺が今やるべきこととして考えているのは『アキラ・ファドライド・ビクトリアスの無念を晴らしたい』ということなんだ。それはつまり、君の弟をイジメていたイシュタット家への反抗だ。そして、それは俺一人でやろうと思っている」
「えっ? あ、あなた、そんなこと考えていたの?」
「ああ……とは言え、さっきの食堂でのことは俺にも実は想定外で…………自分で言うのも何だがガルアや不良たちをやっつけるなんてことは当初は考えていなかったんだ。でも、ガルアや不良たちの『便所虫』という言葉で何だか我を忘れて暴れてしまった。でも、本当はそんなつもりはなかったし、あんな大勢の目の前で派手にやらかすなんて全く思っていなかった。だから、それについては本当にすまないと思っている。申し訳ない」
「ま、まあ、あれにははっきり言ってビックリしたわ。だって、これまでの弟だと考えられないもの。でも、暴れたことについては別に謝らなくていいわよ」
「えっ?」
「だって、あなたがガルアや不良たちを殴っていなかったら私がやっていたもの」
「ルビア……」
「まあ実際はあなたがやったわけだけど、どの道、あいつらはあそこで私かあなたにぶっ飛ばされる運命であったことに変わりはないわ」
ルビアがあっけらかんと言う。
「だ、大丈夫なのかよ? イシュタット家ってやばいんだろ?」
「やった本人が何言ってんのよ? それに朝も言ったでしょ? ウチの家族はもうすでに臨戦態勢を整えているって……」
「あ、ああ……」
「というわけでやるわよ……私も」
「えっ? 何を?」
「VSイシュタット家!! 全・面・戦・争……よ」
「い、いやいやいやいや……俺が言うのも何だけどそこまで大事になるのはやばいんじゃ?」
「はあ? あんた何言ってんの? あのイシュタット家の御曹司のガルアを大勢の前でやった時点でもう手遅れなのよ」
「ま、まさか~、子供のケンカとしてどうにか処理することは……」
「不可能です。あなたがいた前の世界ではどうかわからないけど、この世界で貴族に……しかもイシュタット家という高名貴族の一人息子に手を出した時点でもうアウトなのよ。学校の教師だって止められないわ」
「マ、マジで? そんなにイシュタット家ってすごいの?」
「当たり前よ。それどころか恐らく……というか確実に私たち家族は何らかの刑を受けるだろうしね」
「そ、そんな……」
「高名貴族ってのは王族とのパイプを持っている貴族のことを言うのよ? そんな高名貴族に楯突くことはこの国の権力者層に楯突くのとほぼ同義みたいなもんなの」
「バ、バカなっ! そもそもあっちがアキラにひどいイジメをしたのが原因なんじゃないか! そんな理不尽が通るわけ……」
「あるのよ。それが高名貴族という貴族に誰も歯向かわない理由。そして、これがこの世界の仕組みよ。だから、私や父さんはそこまで覚悟してこれからイシュタット家に挑むってことなの」
「そ、そんな……それじゃあ、ルビアやモレーさんは……」
「いいのよ。それだけあなた…………弟は私や父さんにとって大切な家族なんだから。そういうもんでしょ、家族って」
ルビアが優しい笑顔で俺の顔を見てそう答える。
俺は生前のアキラ・ファドライド・ビクトリアスに嫉妬した。こんな大きな愛に包まれた家族を持っていたことに。
俺は生前のアキラ・ファドライド・ビクトリアスに叱咤したかった。こんな素敵な家族がいたのになぜ自殺という選択をしたのかと。
俺はルビアに言う。
そんな弟想いの、すぐに手が出る勝ち気で美しい少女に。
「ルビア。俺がこの世界に来た目的は『この世界を救うこと』て言ったよな?」
「う、うん……」
「でも、俺には『世界を救う』ということがどういうことか具体的なことはわからない。でも、今、どうしても救いたいものが見つかった。だから、俺はそれを『世界を救う目的』として果たそうと思う……」
「!? あ、あんた、そ、それってまさか……」
「こんな理不尽な世界どう考えたっておかしいだろっ! 俺がこの世界の『貴族のシステム』をぶっ壊す!」
俺は頭に来ていた。
異世界に来てまでこんな理不尽な道理が通るような『権力者層』の現実をマザマザと突きつけられて。
生前は何も力がなかった……けど今は違う。
どこまでできるかわからないが、もう、こんな不平等が存在する世界はうんざりだ。
どうせ、『世界を救う』という目的があるんだ。
それなら俺が思う『世界を救う』をとことんやってやる。
こんな理不尽な世界、俺が変えてやる!
そう覚悟を決めた俺の中では、今まで生きていた中では考えられなかった不安と高揚感がぐちゃまぜとなっていたが、しかし、『生きている』という実感を物凄く感じていた。
いろいろとあり更新ができませんでしたが、これからはまた随時更新していく所存です。
よろしくお願いします。




