【014】クラスメート
体育館から教室に戻った俺は放送ですぐに担任から呼び出しを受ける。
「アキラ・ファドライド・ビクトリアス。急いで職員室に来いっ!……以上」
職員室に行くと、入口近くにいた先生に自分の名前とクラス『1年A組』を告げ、担任の机を教えてもらおうとした…………が、気づくとすでに俺の後ろにウチの担任が仁王立ちしていた。
「うおっ……!」
「貴様……私のホームルームをバックれるとは良い度胸じゃないか」
と、言われるやいなやゲンコツを食らわされた。
ウチの担任、女性なのにおっかない。
「ふん。まあ、今回は事情をクラスの奴らから聞いているからこのくらいで勘弁してやる」
「は、はい。すみません……」
「それにしてもお前、以外とやるじゃないか。以前はもっとおどおどしていた感じだったのに……」
「あ、いや、まあ…………はい」
「ふんっ、まあいい。あと、お前の記憶の話も聞いている。一応、私も自己紹介しておこう。私の名はイザベラ・ファドライド・メンフィアスだ」
そんな感じで担任からお咎めと自己紹介を受けた後、教室に戻り授業を受けた。ちなみに先ほどのチンピラ集団は教室に戻ってくることはなかった。
そして――――お昼休み。
俺は教室を出て食堂へと足を運ぼうとした。すると、
「ストーーーーップ! アっくん、今度は逃がさないわよっ!」
「うおっ?!」
ガシッ! と赤髪でショートボブのかわいらしい美少女が俺に……………………タックルを決めてきた。
「えっ? き、君、誰?」
「がーーーーーん!?」
少女はガクッとその場で膝を落とした。
「そ、そんな…………自分の彼女のことさえも……忘れてしまったって言うの?! やっぱり記憶喪失って言うのは本当だったのね…………アっくん」
「誰が彼女だ、誰が! ウソもたいがいにしろ、モコ!」
「そんなことないもん! あたしの中ではアっくんとあたしは深い恋仲だもん。すでにBまで行ってる仲だもんっ!?」
「それは、ただのお前の妄想だろうがっ!」
ビシッ! と茶髪の男がその赤髪の女の子の頭にツッコミを入れ、俺から引き剥がした。
それにしても、この赤髪の女の子の発言を聞く限り異世界でも『恋のABC』は同じ意味で使われているのにはビックリである。まあ、地球では現在ほとんど使われない『絶滅危惧ワード』ではあるが…………しかし、いやはや『恋のABC』はワールドワイドで使われているなんてすごいな…………ていうかワールド越えて異世界いっちゃってますやん! と一人ツッコミを入れていた。
そんな一人ツッコミをしている俺の眼前では一通りコントが終わったようで、そのタイミングでもう一人横にいた黒髪ロングの美少女が話しかけてきた。
「アキラ、お前やはり記憶が…………ないのか?」
「え、あ、う、うん……」
目に鋭さを宿すこの少女は腰に刀を携えている。さっきの赤毛の子は美少女っていう感じだが、この黒髪の女性は切れ味鋭い目つきもあり少し妖艶さを持った美人という感じだ。
「そうか…………やはり、その、言いにくいのだが、お前は、本当に自殺を…………」
「う、うん…………ま、まあ、いろいろあったけど、でも、今は何ともないから大丈夫だよ。ありがとう」
そう言うと黒髪ロングの美少女は少し下を俯きながら、
「す、すまない、アキラ。本当なら友達である私たちが身を挺して守らなければいけないものなのだが、しかし、どうしても、あいつらに手出しや口ごたえはできないんだ……」
「ご、ごめん、アっくん……」
「すまない……アキラ」
少女は拳とその腰に付帯している『刀』を握り、ワナワナと震えていた。そして、その横にいる茶髪の男や赤髪の少女も下を俯き、申し訳なそうな顔で俺に謝ってきた。
「そ、そんな……気にしないでくれよ。俺はもう大丈夫だからさ。もう、前みたいにイジメてくる奴らには負けないから。だから、顔を上げてくれよ」
「ア、アキラ……すまない」
そうして三人は再び顔を上げて普通に話をしてくれた。
「そ、それにしてもお前、なんか変わったよな…………前に比べると、何と言うか……」
「男の子っぽくなった!!!」
「うむ、確かに。昨日までは『ボク』と言っていたのに、今は『俺』なんて言い方をしているしな……」
「それだけじゃない! さっきの教室でのあの身こなし…………記憶が無いだけじゃなくまるで『人が変わった』くらい別人だよ~」
「い、いや~、どうかな~………はは」
とりあえず笑ってごまかした。
そんな談笑する中で、俺はさりげなく以前のアキラ・ファドライド・ビクトリアスのことを聞いてみた。
「ちなみにさ~、以前の俺ってどんな感じだったの?」
「うーんとねー、前はねー、すごく大人しい子だったんだよ、アっくんは。あと、すごい人見知りだった!」
「ふーん、そうなんだ」
モコの言うとおりの感じはしたがやっぱそうだったか。本当に中学の時の俺と似てるな~、こいつ(アキラ)……。
「イメージはまあ『優等生』という感じだな。実際、お前は筆記テストでは常にトップクラスの成績だったぞ」
「へー」
サヤが言うのを聞く限りでは『秀才タイプ』……といったところか。
「まあ、でも唯一、魔法の実技テストに関しては、知識・魔法体系は理解できているはずなのにそれを『魔法』に転換するのが苦手だったな。あと運動や格闘技も……」
「そうなんだ……」
キーマの話を聞く限りでは、アキラの魔法の実技や身体能力は平均、あるいはそれより下…………といったところか。
三人の話を総合すると、どうやら生前のアキラ・ファドライド・ビクトリアスは性格は大人しく人見知りタイプ……勉強では成績優秀だったらしいが魔法の実技や運動が苦手という……いわゆる『文系タイプ』だったようだ。話を聞くと、何というか、本当に自分の学生時代と似ている感じがしてすごく親近感が湧いた。
そんなわけで一通り、生前のアキラ・ファドライド・ビクトリアスの話を聞いた後、早速、今度はあのチンピラたちのことを聞こうとしたが、
「ちょ、ちょい待ち、アっくん!」
「え? 何?」
「何じゃないよ。アッくん、記憶喪失のせいであたしたちの名前も忘れちゃったんでしょ?」
「え、あ、う、うん」
「なら、まずはあたしたちの自己紹介が先でしょ!」
「あ、ご、ごめん」
俺はつい、生前のアキラをいじめていた奴らのことを聞きたいばっかりに三人のことを何も聞いていなかった。
「もうっ! ま、いいわ! じゃあ、あたしからいくね。あたしの名前はモコ。『モコ・マイヨール・イーデンベルグ』…………イーデンベルグ家という貴族出身よ。何か変な感じだけどこれからもまたよろしくね、アっくん!」
「うん、よろしく、モコ」
「ちなみに、あたしとアっくんは将来を誓い合った許婚同士だよっ!」
「えっ?! マ、マジでっ!!!」
「違います。ただのこのバカモコの妄想です。気にするな、アキラ」
と、黒髪ロングの美少女が刀の柄でモコの頭をコツンと叩いた。
「痛ったーーーーーい!! もうっ! ちょっと沙耶っ! 刀で小突くのはやめてよ!」
「うるさい。貴様がふざけたことばかり言うからだっ! おっと…………次は私の自己紹介だな。私の名は『サヤ』。サヤ・ベルダイト・カザキリ…………カザキリ家という貴族出身だ。これからも改めてよろしく頼む、アキラ」
「あ、ああ。よろしく、サヤ」
「俺はキーマ。キーマ・グランドレイス・オライオン…………オライオン家の貴族出身だ。これからもよろしく、アキラ!」
「ああ! よろしく、キーマ」
一通り、生前のアキラの友人という三人と挨拶を交わした後、ルビアに言われていたあのイジメ集団のことを聞いてみた。
「……ところで、俺をイジメていたあいつらは何者なんだ?」
「うむ。あいつらはな、イシュタット家という高名貴族の配下にある貴族の者たちだ」
と、サヤがブスッとした表情で答える。
「高名貴族?」
「ああ。高名貴族ってのは、貴族の中でも王族とのパイプを持っている貴族のことを言って、普通の貴族に比べて大きな権力を持つ貴族のことだ」
と、キーマもまたサヤと同じように『忌々しい』と言わんばかりの顔で答えた。
「だから、私たち一般の貴族が逆らうことなんて簡単にはできないのよ」
そう答えた後、モコは『ブー』とおもいっきりふてくされて答える。
どうやらよっぽどたちの悪い奴ららしい。しかしそうなると……、
「……ということは、自分が楯突いたのってもしかして、ちょっと…………やばめ?」
「「「うん。やばめ」」」
「で、ですよね~……」
そこで三人がハモるくらい『やばめ』ってことか。
「高名貴族に目を付けられた場合、基本、やり過ごすか、適当に合わせて仲良くなるかというのがほとんどなんだが、アキラの場合はそういうのが通用しないくらい何故か執拗に突っかかってきてイジメられていたんだ。保身とは言え、本当に助けてあげられなくて申し訳ない」
キーマが再び、深く頭を下げる。
「や、やめろよ、キーマ……お前たちは貴族なんだし。そういう『家』とかの関係性とかって悪化でもしたら『家』自体が潰される可能性もあるんだろ?」
「あ、ああ……まあ、確かに」
まあ、階級制度なんてある国じゃそういうもんだろう。
「俺は以前の記憶がないからその辺の関係性とか詳しくは知らないけど、でも、自分のことは自分で何とかしてみるさ」
「いや、アキラ…………俺たちはもうお前のことを見捨てたりしない」
「えっ?」
キーマが真剣なまなざしを俺に向ける。
「そう…………私たちはもう君を見捨てたりせず、あいつらと徹底抗戦をしていくと三人で誓ったんだ」
「サ、サヤ……」
サヤもまた真剣なまなざしを向けた。
「あたしももう我慢の限界! だから三人とも親に『イシュタット家と事を構えます』って言って説得してきたのよ」
「そ、そんな……そんなことして大丈夫なのか? 俺はただの農奴民なんだぞ? そんな俺の為にそこまでやる必要は…………」
「ある! それだけ俺たちはお前に対してのあいつらの仕打ちにはもう我慢できないんだ! もし、責任問題になったときは俺は両親との縁を切る覚悟だ」
「無論だ」
「あたしもそのつもりだよん!」
「そ、そんな……」
なんだか俺が思っていた以上に話が大事になっていた。
「ま、待ってくれ、みんな! みんなの気持ちはありがたいけどそこまでしないでくれ!」
「気にするな、アキラ! 俺たちはもう決めたんだ」
「い、いや、気持ちはうれしいけどそこまでされるのは俺のほうがかえって心が痛いから。それに、今回の件は父さんやルビアもいろいろと考えててくれてるみたいだし、俺たち家族だけで解決するつもりだから」
「ル、ルビア…………さんっ!?」
「??」
『ルビア』のワードを出した途端、キーマの顔が紅潮した。
「コ、コホン…………それなら尚のこと、俺はお前やルビアさんをあいつらから守るっ!」
妙に鼻息が荒くなったキーマ。あれ? なんかルビアも追加された。
「しかし、アキラ……お前たち家族だけで何とかするって言っても、言い方が悪いかもしれんが『農奴民』出身である君たち家族があの高名貴族のイシュタット家に歯向かうとなればタダではすまないと思うぞ」
「そうだよ。下手したら処刑とかされるようなことにもなりかねないよ」
「そ、そうかもしれない…………でも、できれば自分たちで解決したいと思っている。だから、もう少し待って欲しい!」
俺は三人の想いがありがたかったが、しかし、彼らの『家』がどうにかなるなんて大事になるのはまずいと思う。詳しくはわからないが少なくとも彼らを巻き込むのは違うと感じた。だから俺は三人に頭を下げた。三人とも俺の必死な想いを感じ取ったのかしばらく無言となったが……、
「……わかったよ、アキラ。でも、もし、本当に困った時はいつでも言ってくれよ! 必ず力になるからな!!」
「キーマ……」
「そうだぞ! 私たちはお前の親友なんだからなっ!」
「サヤ……」
「アっくん! 無理無茶しちゃダメだからねっ!」
「モコ…………ありがとう、みんな」
アキラにはこんなにも仲間想いの良い友達がいたんだな。
俺はこいつらの為にもこの件は一気に解決してやると心に誓った。
「よし! 話も一段落ついたということでこれから急いで食堂に行こうっ! あたし、もうお腹ペコペコだよ~」
モコが腹を押さえて皆に激しく訴えてきた。
「そうだな……よし、では食堂に急ぐとしよう!」
サヤの掛け声と共に俺たちは食堂へと脚を運んだ。
こっから、いろんなキャラが出てきます。




