【010】力の抑え方
俺は………………校内をさ迷っていた。
「な、なんなんだよ、この学校は?! 高校の広さじゃねーぞ」
≪はっはっは……地球と比べてどうする? ここは異世界じゃぞ≫
まったくそのとおりである。
さて、校内をさ迷っていたところ、俺は体育館のような施設をみつけた。
「あっ! ここ体育館かな? ここならまだ朝だし誰もいないはず…………」
ということで体育館のような施設(めんどくさいので以降、体育館とする)の中に入った。予想通り体育館の中には誰もいなかった。
「ここならいいんじゃないか?」
≪うむ、そうじゃな。では、早速、話をするとしよう。先ほども言ったが今後……というより思ったよりも早く力を使う可能性が出てくるとワシが感じたので先にお前に教えておこうと思う。最初に教えたのはお前に付与した力…………『能力向上能力』のことだったが今回はワシがサービスで授けた『基本的身体能力の向上』についての話じゃ≫
「『基本的身体能力の向上』の話って……別に身体のいろんな能力が向上されたってだけの話でしょ?」
俺は何を当たり前のことを……という感じで返答する。
≪うむ、そのとおりじゃ。で、アキラよ…………お前はちゃんと気づいているか?≫
「えっ? なにを?」
≪基本的身体能力の向上がどういう意味を持つかということを、じゃ≫
「えっ? それって、どういう…………」
≪さっきお前、不良連中に絡まれていたじゃろ? その時どうじゃった?≫
「あ、ああ……あいつらのパンチやキックが『ものすごーーくゆっくり』に見えた」
≪そして、その後はどうした?≫
「えっ? ええ……と、その後はそいつらの攻撃をかわしただけだけど……」
≪ふむ、そうじゃな。で、だ…………お前の基本的身体能力が向上した為、このような現象が起きているということをお前はちゃんとわかっているか?≫
「?? あ、ああ……」
そりゃ、そうだろう。身体能力が向上してないとあんなパンチやキックがゆっくり見えるなんてないからな。そんな当たり前のことを何をわざわざ……。
≪そうか。では、あのように相手の動きや攻撃が『ものすごーくゆっくり』見えるほど身体能力が向上しているということは、同時にお前のパンチやキックといった攻撃力も向上しているということを理解しているか?≫
「あ……?!」
≪さっき……お前は自分から手を出さなかったのでわからないじゃろうが、もし、思いっきり相手を殴っていたらな…………≫
「は、はい…………」
≪まず間違いなく相手の『首』が吹っ飛んでいたはずじゃ……≫
「は、はあっ!?」
首が…………『吹っ飛んでいた』?
「い、いやいや神様、表現間違ってません? 首が吹っ飛ぶだなんて……人間の首が吹っ飛ぶなんて普通ありえないでしょう? 本当は『身体が吹っ飛ぶ』の間違いでしょ…………」
≪いや、別にワシの表現は間違ってなどおらん。あの程度の相手に対しお前がフルパワーで殴っていたら相手の首が簡単に吹き飛ぶぞ≫
「…………?!」
ど、ど、ど、どっぴお?!
あ、いや、でも、なんというか、ちょっと混乱してきた。
≪しかも、あの程度の連中程度ではお前の動きは当然ついていけないし目で追うことさえ無理じゃろ…………というより気づいたら殴られているレベルじゃろうな。まあ、そのくらい一瞬の出来事じゃからお前が本気を出して殴ったら本人は痛みを感じずに死ねるじゃろうな。そういう観点から言えばある意味、そいつにとっては幸せな死に方じゃな……うん≫
「…………」
そ、それってちょっとやばくない? 使い方を間違えたり、我を忘れてめちゃくちゃやろうとしたら…………、
≪そう。お前が今、心で思っているとおり、確実に相手を殺すじゃろうな……≫
「そ、そんな…………」
つまり、元・自殺者が殺人者にクラスチェンジしたってこと? それ何ゲーよ?!…………などと冗談を言ってみたものの笑えないジョークだった。神様が与えてくれた『基本的身体能力の向上』ということの本質を俺はまったく理解していなかったことを今、痛感した。確かに神様が力を付与するとき『一般の人間の数倍の能力が備わった』と言っていた。でも、その時はただ『役に立つもの』という程度でしか理解していなかったが実際に使った今ならわかる…………人より『大きな力』を持つということがどういうことなのかということを。
≪さーーーて! ようやく理解したかな、アキラきゅん?≫
「ア、アキラきゅん、言うなっ!?!!」
神様がふいに声のトーンを上げ冗談を飛ばした。こっちは深刻なのですが……。
≪ということで、今、お主が学ぶべきものは力の出し方ではなく力の…………抑え方じゃ≫
「力の抑え方……」
≪うむ。基本的身体能力の向上ということはそれはお前の身体能力『すべてにおいて』ということじゃ。相手のパンチがゆっくりと見える動体視力、そのパンチを頭で描いたとおりにかわせる筋力、柔軟性、瞬発力、反射速度…………そして、腕力。この腕力はイコール攻撃力とも言えるがそれをそのまま全力で発揮すると先ほど言ったように相手を殺めてしまうことになりかねん。その為、今のお前に必要なのはまず…………『自分の全力』を知ることじゃ≫
「自分の全力?」
≪うむ。全力を知れば自ずと自身で加減ができるもの。まして、お前は意外と『力のコントロール』に関してはセンスがあるようじゃしの≫
「い、意外とか言うなよ」
と言いつつも、ぶっちゃけ自分でもそんなことを感じていたので強くは否定しませんが。
≪ということで、こういうものを用意してみました♪≫
「な、なんか、テンション上がった?!」
神様の掛け声と共に、目の前に光の粒子が集まりだし大きな光が放たれる。すると……、
「ま、まぶしっ……………………これはっ?!」
目を明けるとそこには俺と同じくらいの高さの『石の立方体』が出現した。
≪この石の塊に思いっきりパンチを入れてみろ≫
「ええっ?! これ石だしっ! しかもめっちゃ硬そうだしっ! 手の骨、折れるわっ?!」
≪大丈夫じゃ。お前は強化されているし、何よりこの石は硬くともお前の身体に傷や骨が折れることはできないようワシが施してある。そんなしょーもない心配などせずドーンといったらんかいっ!≫
「な、なんか、荒々しいな……!?」
というわけで、荒ぶる神を鎮めるべく、俺は素直に思いっきり『全力』で目の前の石に拳を叩きつけた。
「おおおおおおおおおおりゃあああああああーーーーーーーーー!!!!!!!!!!」
バコッ! と大きな音と共に石の上半分がごっそり無くなっていた。
「はっ……?! な、何これ、俺がやったの?」
≪お前しかおらんじゃろーが≫
「…………」
俺の放ったパンチで目の前の大きな石の上部分が粉々に粉砕されていた。俺は目の前のこの異様な光景にただただ呆れるしかなかった。
≪…………ま、ぶっちゃけ、人間やめてるよね≫
「おおおいいいいいいーーーー!? あんたがそれ言うなやっ!」
≪てへぺろっ≫
イラッ。
神様のそんな『かわいさゼロ』且つ『殴りたい衝動マックスオーバー』なリアクションに石をも砕く我が拳で抗議しようとしたが、今はそんなことをしている場合ではない。この力……確かに『人間やめてるレベル』だが、しかし、ここは異世界…………たまたま、あの不良たちが大したことないだけで、もっと強い奴らはバンバンいるんじゃないか? いや、むしろその可能性は高いだろう。そう考えればやはりこの力はありがたかった。
まあ、実際……、
「一度、人間やめた身なので今さら『人間やめてる状態』なんて何ら問題ないな」
と、半ば自重気味に無理やり納得した。
≪それでどうだ? 今、全力の力を出してみて……≫
「あ、ああ…………少しはわかったよ、たぶん」
≪まあ、今の威力を十と考えてたち回れば大丈夫だろ。一応、加減については事前に練習をするんじゃぞ。さすがにぶっつけ本番では難しいじゃろうからな……≫
「ああ、わかったよ…………でもさ」
≪んっ?≫
「この瓦礫…………どうすんの?」
石の塊の周囲には俺が砕いた残骸が散乱していた。
≪ふん。こんなもん、何ともないわ≫
そう言うと、目の前の石と瓦礫が輝き出し大きな光を放つ………………すると、石がすべて消えていた。
「おおーー」
≪ふふん。まーわし神様じゃし。これくらい余裕だしっ!≫
妙に自慢げである。品格を疑うほどに。
「あ、そうだ…………魔法!」
≪魔法?≫
「ああ、魔法だよ、魔法。俺の身体能力って向上してるんでしょ? であれば魔法も使えるってことでしょ? 俺、魔法めっちゃ試してみたいんだけど? 俺、どんな魔法が使えるの? ねえ、ねえ、ねえ、ねえってば~~!!!」
≪ああああ…………うざいっ!≫
そういうと、脳内での会話のはずなのに頭を叩かれたような衝撃が走る…………身体強化されているはずなのにしっかりと痛かった。
「い、いやいや、『てへぺろ』言ってたあんたが殴るって…………」
≪ええい、うるさい! そんなことはどうでもよいのじゃ、このバカチンがっ!≫
ところどころ古いな……言葉。
≪はっきり言おう。お前に魔法を使う力は………………ないっ!≫
「ガーーーーーーーン!!!!! マ、マジかっ?」
≪マジです≫
「さっきうざがったからって、それに対する嫌がらせとか……?」
≪うざいのはうざかったが、それとこれとは別。純粋にお前に魔法を使う力はない≫
「そ、そんな~~~それが唯一の楽しみだったというのに…………なんだよーーーもうーーー!! 異世界つったら魔法じゃん! それ使えないとかマジそのシステム意味わかんないんだけど。何、このくそシステム、神様に文句言ってやる………………て、いた神様!」
≪うむ。聞こえとるぞ…………くそシステムとな≫
「いやマジでちょっと何とかなりませんかーーーその辺ーーー…………願!!!」
俺はとりあえず強気な言葉とは裏腹に、恥も外聞もなく………………土下座を敢行した。
≪うむ、なんと言う潔さ。素晴らしい土下座じゃな≫
「マジでお願いします、神様。その辺、本当お願いしますってーーーーー!!!!!!!」
≪…………まったく。お前はなぜ最後まで話を聞けんのじゃ?≫
「えっ?」
≪魔法が使えんのはその通りじゃが、それは…………『一般的な魔法』のことを言っておる≫
「い、一般的な魔法?」
≪お前はこの世界で誰もが使っている『一般魔法』を使うスキルはない。しかし…………別の魔法みたいなものなら使える≫
「マ、マジでーーーーーーーー!!!!!!!!!!」
実年齢四十歳の俺、歓喜。むしろ踊るレベルで歓喜。ていうか踊るレベルというか……踊ってた。
≪ただし、そのお前が使える『魔法』に関してだが注意点がいくつかあるのじゃが…………≫
「わーい! わーい! 魔法が使えるぞいっ!!」
俺の踊りは更に激しさを増し、気づけば『踊り』から『乱舞』へと発展していく勢いだったが……、
≪あーーーーーーーーうざいっ!!≫
「あだっ!!」
脳内にて、さっきよりも重い一撃を神様から頂きました。
更新頻度が上がるよう、いろいろと頑張ってみます。




