【001】人生空回り男の自殺
何をやってもダメ。
何を選んでもうまくいかない。
まさに『空回り人生』だったな。
はあ……俺、人生、もういいわ。
どうやって死のうかな~。
ビルから飛び降り?
電車に飛び込む?
どれも痛そうだな…………痛いのは嫌だな。
あとは~………………手首切るとか?
それも痛そう……て言うか、そんな勇気ありません~~。
…………
…………
…………はあ。
『死に方』ひとつでもこんな選べない俺って。選ぶのが怖いというこんな臆病な俺って。
…………
…………
…………はあ。
やっぱ『飛び降り』が一番迷惑かからないか。
そうだな。『飛び降り』にしよう。
『飛び降り』に決めた。
『N駅 駅ビル 一階』
「よし、このN駅の屋上ならちょうどいいな。前に小さい頃、このビルで迷子になった時、偶然、屋上まで上がっていったから、おぼろげながら屋上までの道のりは覚えている、と思う。まあ、大丈夫だろう」
「それにしてもなつかしいな~…………三十年前くらいか。まさか、四十になってこの駅ビルで『自殺』することになるなんて、あの頃は夢にも思わなかったな。まあ、あの頃はまだどんな未来がこれから待っているのか、なんて考えてて楽しかったな。まあ、中学に入ったらイジメられたから、本当、小学校五・六年がこれまでの四十年の人生の中で楽しさのピークだったかも…………はは、自分で言ってて我ながら酷い人生だったわ」
そういうと男は、休日でカップルや友達、家族などがごった返すN駅ビル内で独り下を向き、自分に誰も感心が向かないよう、気配を消しつつ、こっそりと『非常口<関係者用>』という扉を開け、中に入っていった。
男は、その階段を一人ゆっくりと歩き屋上を目指していた。
「ふ……死刑囚が死刑台に向かうときの気分とはこんな感じなのかな?」
そう考えながら、男は少し微笑を漏らしながら一歩、一歩踏みしめ上を目指す。そして……、
ガチャリ……ギギギ……ギギ……。
少し、錆付いているであろう扉の音を出来るだけ殺すようにして開けた。扉を開けると同時に外気が室内へ入り込み、風圧で扉が重くなったが男はかまわず扉を押し切り外に出た。
「へえ……意外と変わらないもんだな、人目のつかないこういう場所は」
屋上にて男が視線を送るすべてのものが三十年前とほぼ変わらないままだった。
「まあ、少し塗装して新しくなっているけどその程度か。人目につかない場所だしな。まあ、そんなとこに金なんて使えないということだろう……効率的だよ、まったく」
そういうと男は半ば、呆れ気味に笑った。
「さて、と………………あそこか」
そういうと男はある方向へと歩き出す。
男の進むその先には、人が通れるギリギリの隙間があり、そこを抜けるとすぐに『ビルの端』……つまり、手すりさえもない建物の先端部分が露出している場所へと繋がっていた。
「ここな。ここは、ちょうど表通りとは正反対で川沿い側のビルの隙間に位置すんだよな」
その先端部分の下には、賑やかに駅前を行きかう人々の群れとは対照的な誰もいない、ただのコンクリートの壁と地面、そして、壁の向こうには黒い川面が見えた。
その川面は外海とつながっている川であるが、その外海自体が生活排水や船の行き来する港の近くとあって重油なども流出しているため、黒く重い色をしていた。その外海が汚れる原因のひとつである生活排水がまさにこのビルのある土地からのものであった。
「ここなら人にも迷惑をかけることなく、安心して死ねるな…………安心して死ねるってなんだよ、それ!」
一人、ボケツッコむ。
男の足は半分すでに外に剥き出していた。
「不思議だな……こんな高いところで足を半分も出しているのに震えないなんて。やっぱ、死ぬつもりでここに立っているからかな。はは……普段からこんだけ度胸があったなら、もう少しマシな人生送れていたかもな」
男は、そう言うと笑った。
「四十歳まで生きてきたが本当に何もかもが空回りだった気がするよ……」
男は誰かに言うでもなくポツリと呟く。
「良いこともあったけど、でも、人生の大事な部分での選択がすべて『空回り』だったな……今思えば。まあ、それが俺らしいというか、『俺らしさ』ということなんだろ……」
男は苦笑しながら、自嘲気味に少し声を張って言った。
「……まったく、『自殺』なんてやっちゃダメっていうことは老若男女、誰がも理解していることなんだけどな、誰もが怖いことなんだけどな。でも、もう…………疲れたよ、俺」
男は、涙を流しながら、笑いながら、ぐちゃぐちゃな顔で呟いた。
「お、お父さん、お母さん、ごめんなさい……こんな何も決められない、仕事してもすぐにやめてしまう、何をやっても続かない、こんな中途半端な息子でごめんなさい。最後まで二人に迷惑をかけてしまう親不孝をお許しください!!!!」
男の顔は涙や鼻水、汗といったあらゆる体液が混ざりあい、びしょびしょに濡れていた。その濡れた男の顔は………………笑顔だった。
「やっと……やっと解放されるんだ、この苦しみだけの世界から…………」
男は身体をゆっくりと前に、建物と反対の方向へと傾ける。
(ああ、落ちる、落ちる、本当に落ちる!!!! 死ぬ……僕はこれから本当に死ぬ!! ああ、怖い! 怖い! 怖い! 怖い! でも安堵感もある! どんだけ俺、この世界が嫌いなんだよ!!!)
男は心でそう一人ツッコミをしつつ、自殺は…………決行された。
男の身体は地球の物理法則に従い、どんどん下へと近づく。地上二百メートルもあるビルの頂上から落ちる男の身体は、下へ、下へと近づくにつれスピードはさらに増していった。
落下の途中、男はある事に気づき、チラッと目を開ける。
(!? あれ? 風で、川にちょっと身体が移動……してる? いや、確かに移動してる! これじゃあ、川に突っ込んでしまう! あれ? 大丈夫か? 大丈夫なのか? 川に落ちてもちゃんと死ねるのか? おいおい、下手に生きてしまったらもっと辛い人生になるぞ!)
男は、身体が地面に近づくにつれ、さらに混乱していく。
(ちょ?! おいおい!! どんどん川に近づいていってるぞ!! なんでだよ、何で何だよ!? 死ぬときでさえ、俺は自分の思い通りにできない『空回り男』なのかよ~~~~~~~~~~~~~~~~~~!!!!!)
……
……
……
……
男の身体はそのまま、川に沈んでいった。
久しぶりに小説を書き始めました。
今回からイラストも加えていますが、イラストも自分で描いています(まあヘタなりにw)。
更新頻度はイラストも加えていくので遅いと思いますが、週1~2のペースで上げられるよう頑張ります。