新たな旅路は 3
「アネモネ!」
背後から声がかかり、私は振り返る。マルスとノイン、ライガが心配そうに近づいてきた。
「みんな、ごめん。」
「いきなり走り出したから驚いたぞ。」
マルスが声をかけ、ノインとライガが私の体を触ったりする状態に、私は頭に手をおいた。
「咄嗟に動いちゃったんだよね。」
「勝手に動いちゃダメ。」
「はい、すみませんでしたー。」
とやり取りしてる間に、先程の少女は我慢しきれないのか、隣にいる美形の服を掴む。
「ミーくん、ミーくん!早く買いに行こうよ!無くなっちゃうよ!」
「いや待ってよ、サラちゃん!彼女がお仲間さんに怒られてるの、君のせいだからね!ちゃんと最後までいなきゃダメ!」
サラと呼ばれた少女の頭をこん、とたたく美形の男性。痛いーっとうずくまるサラを無視して、美形は私にペコペコ頭を下げ始める。
「すみません、ご迷惑をおかげしました。本当にお怪我はありませんか?」
「はい。サラちゃんは大丈夫だったかな?あ、サラちゃんって呼んでいいかな?」
うずくまったサラに近づいて、頭を撫でながら話しかける。すっと立ち上がる彼女の顔は嬉しそうににんまりと笑っていた。
「お姉さん!とても優しい甘い匂いがする!」
「えっ?あ、そ、そう?別に香水は使ってないけどなぁ。」
サラはキラキラした目で私を見上げる。
「ねぇ、お姉さん!名前は?」
「私はアネモネよ。」
「アネモネ?お花の名前と同じなんだね!可愛い!!」
嬉しそうにぎゅっと私の両手を掴んで上下にブンブン振り回すサラ。
かなりの力で振り回すので、ちょっとバランスを崩しかける。
「こら、サラちゃん!そんなに振り回しちゃダメだよ!彼女は人間族なんだから、怪我しちゃうよ!」
「えー?痛そうにしてないよ?」
「ああ!離して離して!すみません、この子は最近"人化"を覚えたばかりで、加減がわからなくて。」
私はあぁ、と納得した。角がまだ隠せてないのを見ると、サラはむぅと頬を膨らませた。
「大丈夫です。サラちゃん、ごめんね。引き止めちゃって。今度は周りをよく見てね。」
と言うと、話は終わったとばかりにサラは再び駆け出していった。美形の男性は走り出したサラを呼び止められず、空を切る手を空しく下げた。
「はぁ、もう少し"らしく"してほしいんだけどな。」
「大変ですね、貴方も。」
「ええ、もう慣れましたよ。あぁ、自己紹介が遅れました。僕はミーゲルと申します、魔の森に住む龍人族の騎士です。」
騎士、と名乗ったミーゲルは見た感じ、武具を所持していない。が、龍人族ならば自身の爪や牙、魔法で十分なんだろう。
「本当はゆっくりお礼したいですが、サラちゃんを放っておけないので。」
とミーゲルが差し出したのは、一枚の鱗だった。キラキラと光る黒紫の鱗は、受け取った瞬間から魔力を感じるほど神秘的な雰囲気を持っていた。
「ぜひ、魔の森に来た際は龍人族の集落に来て下さい。あちらでお礼をさせてください。」
「いいんですか?良かった、立ち寄るつもりだったので助かります。」
「ん?何か龍人族の集落に用事ですか?」
ミーゲルは私の言葉が気になって問いかける。私は魔の森のブラックトレントのことで、と告げた。隣でマルスがすっと魔法士ギルドの身分を証明するエンブレムをミーゲルに見せた。
ナイスフォロー、マルス!
「あぁ、魔法士ギルドの方ですか。だったら、ツェルクが詳しいはずです。お礼も兼ねて紹介しますよ。」
「ありがとうございます!」
「ではこれで。本当にありがとうございました!」
ミーゲルは慌ててサラを追いかけて人波に消えていった。私が目でそれを追う途中でノインの顔を見ると、ややしかめた顔で私を見ていたのに気づいた。
────あ、これはおこかな?
「ごめんね、ノイン。勝手な行動しちゃって。」
「次から気をつけて。」
「うん。マルスも、驚かせてごめんね。」
私はマルスにも謝ると、彼は逆にニヤッと笑っていた。
「いや、逆に助かった。龍人族の集落はツテがないと中々入れなくてな。獣人族の知り合いに頼むつもりだったが、手間が省けた。」
あ、いわゆる"棚ぼた"でしたか。
「しっかし、ビックリしたな。全力でタックルしちゃったから、怪我させたかと思ったよ。」
私が頬をかいてサラとミーゲルが消えた先を見つめながら呟くと、
「──神龍の一族だからそれじゃ怪我しない。」
ノインが特に気にすることでもないように、あっさりと答えた。
「なっ!?神龍の一族だと?!」
その言葉に反応したのは、マルスだった。
あ、わかるこのパターン。やっばいやつや。
「有名人?」
「有名も何も、魔王の亡骸を封印してる龍人族の長の一族だ。その立場からあまり出歩かないはずなんだが、まさかこんなところまで来てるとは。」
出たッ!!!"魔王"という悪い意味のパワーワード!
「また引き継いでない。」
「だろうな、引き継いでいたらこんなところにはいないはずだ。」
ノインとマルスで会話が進み、私は何となく蚊帳の外な感じだった。
「何かあったのか?」
「多分、気晴らし。」
「まぁ、それなら良いが。もしも何かあったら、俺はアッシャルダに戻らないといけなくなるからな。」
マルスはノインの言葉に少し悩んだあと、はぁとため息をついた。
「じゃ、じゃあ。宿探しに戻ろうか?」
と何とか話題をそらすために、宿の話を持ち出す私。いや、なんか仲間外れ感は嫌だったし。
「ん?そうだな、宿が埋まったら大変だ。」
「大丈夫、空いてる。」
「────万能すぎないか?ノイン。」
大通りからやや外れ、たどり着いた宿は空いていて、大部屋が確保できた。
案内されて入った部屋は、共同広間を中心に三つの個室があり、洗面所兼風呂場がある豪華な作りだった。
「へぇ、いい感じの部屋だね。」
個室も狭いがベットと机があり、窓からは大通りの賑やかな灯りが見える。
早速、腕輪からタンスを出すと、寝間着や下着をベットに放り投げる。
コンコン、と個室のドアがなり、顔を出すとマルスがフードを外した姿で立っていた。
「アネモネ、夕飯はどうするか聞かれてるんだが。」
「あぁ、ノインは何だって?」
「目はキラキラしてたな。」
マルスはクスッと笑っているので、ノインは何かを考えているようだ。
「ノインの好きにしていいよ、って伝えて。」
「わかった。」
個室のドアが再び閉められた後に、ちらりと窓を見て賑やかな雰囲気に、少しホッとした。




