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生まれ変わるなら 6

リクエストした通りの、カルボナーラやコンポタージュ、肉料理としてビッグサイズの肉のステーキが切り分けられたものが、キレイな皿に盛り付けられていた。


他にもフルーツ盛り合わせや、飲み物が入ったボトルがいくつか台車に載ったままだ。


「では、アネモネ様。ごゆっくり。」


ノインは頭を下げて、立ち去ろうとしていた。


「えっ?待って、一緒に食べないんですか?」


私の言葉に、ノインが固まったまま立ち尽くした。


こちらを向いた彼の顔は、まさに予想外な言葉を聞いた、驚きに呆然とした表情だった。


「私のことが嫌いじゃなきゃ、だけど。」


「そんなこと、ありえません。我らが偉大なる主神の客人にそんな失礼なことはするつもりはありません。」


「その、客人ってのが好きじゃないです。」


私がそういうと、ノインはうっと詰まったかのような困惑顔に変わった。


客人扱いが嫌なのは事実だけど、正直なことを言えば───一人の食卓が嫌いなだけ。


小さい頃から、夕食は一人で過ごすことが多かった。


仕事を言い訳に両親が揃うことはなく、中学の頃には、両親の存在は生活ができるだけのただの同居人となっていた。


だからか、出来れば誰かと食事をしたい。


「主神さんから、私のことを聞いてくれてるなら知ってると思いますけど。私、一人の食事は好きじゃなくて、出来れば一緒に食べて欲しいんです。」


私の言葉に、ノインはしばらく黙ったまま考えこんでいた。


やがて、少し困った顔をしながら話し始める。


「実はまだ存在として確立してから間がなく、我らが偉大なる主神により失礼のないようにと言われておりますので、出来る限りの配慮はしていたつもりでした───ですが、申し訳ないですが、その。」


一旦、言葉を切ってから微かに微笑んで、


「どのように接して良いか、わかりません。」


ノインは正直に話してくれた。


──────これは、イケメン育成計画発動だな。


「そうだったんですね。じゃ、こうしましょうか。私も喋り方を変えます────だから、ノインも話しやすい喋り方にしてね。」


私が笑ってそう言うと、


「───わかった、努力する。」


気の張った喋り方なら、単語だけのような喋り方に変えた。


それが素なのね。なんかロボットっぽい。


「アネモネ、もうひとつ。」


ノインがいきなり呼び捨てしてきたのに内心驚きつつも、なに?と聞き返す。


すると少し顔をそらしながら、


「食事の知識はあるが、食べたことがない。上手く出来なかったら、ごめん。」


そう言い出した。私はキョトンとしてしまった。


────あ、生まれ間もないんだっけ。


「属神さんって、食事しないの?」


「いや、食べる属神様もいる。自分はまだ。」


「じゃ、初めての食事だね。でも、私の好きなものばっかだから、何か悪い気がする。」


私が頭をかきながらそういうと、ノインは首を横にふった。


「いや、嬉しい。」


物凄く簡潔にノインが自身の気持ちを言う。


「作りながら思った、食べてみたいって。」


ノインはそう言いながら私の正面に座った。


すっと手をかざすと、テーブルには私と同じ料理がお皿にのったまま現れた。


マジシャンが廃業するな。いや、ノインは属神だからこれくらいは余裕か。


「じゃ、食べよっか。」


「──いただきます。」


ノインは少し嬉しそうに呟いた。やっぱりしてみたかったのだろう、目がキラキラしている。


ぐへへ、心のカメラに永久保存だわー!


コンポタージュを一口飲んだ時の嬉しそうな顔は、先程まで感じていたノインの印象をガラッと変えた。


こうしてみると、確かに生まれ間もないのもうなずけた。







その後の食事は、時々会話がある位に和やかだった。


ただ、料理は少し味気ない感じだった。


これは作った本人が食事の後半ごろに、


「ん、次は味見。」


と呟いたのですぐ改善されるだろう。



「ごちそうさまでした。」


二人で食事の終了を告げると、ノインは立ち上がり片付け始めた。


「アネモネ、自分はこれで。何かあったら呼んで。」


「うん、ありがとう。」


ノインと会話している内に、あの独特な喋り方が可愛く思える。


「お風呂はあっち、タオルあるから使って。」


「ああ、あっちにあったんだ。ありがとう。」


ノインがあっち、と言ったのは洗面台が見えるドアの方だった。


あの部屋の中にどうやらお風呂があるらしい。


「じゃ、アネモネ───おやすみ。」


「うん、おやすみ。また明日。」


手をふってノインに言うと、少し笑ったように見えたが、すぐ姿は見えなくなった。


「ふー。」


椅子にもたれ掛かり、天井を見上げる。そこまで食べてなかったが、色んな意味で満腹です。


────だって、イケメンと食事なんて、妄想以外ではなかったんで。


しかも、食事のマナーばっちりで、見ていて気持ちよかったくらい。


「さって、おっふろー。」


左手首につけた腕輪からタンスを出して、シュリアと選んだ寝間着や下着、明日着る服を出す。


「明日は動きやすいのにしようかな。」


最後にブーツを出してから、タンスを腕輪に戻した。


「便利だなぁ。」


そう呟きながら、洗面台が見えた部屋に移動する。


中へ入りながらドアを閉める。


洗面台の左側にすぐに浴槽とシャワーがあり、さらに奥には大きな窓があり、外の風景が絵画のように広がって見えた。


「うわぁぁ。」


その風景は───下に雲海、上に満天の星空。

天空の眺めはこうもすごいのか、贅沢すぎるわ!


「着てる服は、後で浴槽で洗うか。」


実はシュリアと服を選んだ時に、着替えずにそのまま着ていた服を取っておくことにした。


アイドルのコンサートに行く予定で、精一杯お洒落した服は、お気に入りのワンピースにフリルのカーディガン、丸爪先の靴だ。


「こういうお洒落な服も流行らせたいな。」


と野望を呟きながら、靴と靴下を脱いで脱衣場の側に置いた。


浴槽に近づくと、壁に設置されたシャワーの下に蛇口と切り替えバーらしきものがあった。


蛇口を捻ると、浴槽に向かって湯気が立つお湯が流れ出ていた。


「貯まるまで眺めて待つかな。」


窓の外の星空を見るために窓に近づくと、ちょうど透明な椅子があったので座る。


キラキラと星空を見ながら、


「────なんか、現実感ないな。」


そう呟く。


周りにはお湯が浴槽へ流れる音しか聞こえない。


「こうも現実離れしすぎると、違和感がなぁ。」


流れる水の音を聞きながら、星空を見上げる。


────まさか、自分が異世界転生をするとは

思わなかった。


予想外なことが立て続けに起きると、落ち着かない。


────そして、好きなことをしていいから、世界を変えてくれ、と言われた。


「こんなにたくさんもらったんだから、ちゃんとやらなきゃなぁ。」


愛らしい見た目、旅人が持ち得ない程の服、魔法や戦う術、緩やかな老い、そして、万能すぎる属神と呼ばれる存在。


「はぁぁ。」


きゅっと蛇口をしめて、お湯を止める。


貯まった湯船がキラキラと光って見える。


「どちらにしろ、今はゆっくり休もう。」


明日から、下界に向かうんだ。


せっかくなんだから、異世界を満喫しながら、やれることをやろう。


「さぁて、入るかな。」


着ていた服を脱いで、キラキラする湯船にざぶりと浸かると、私は明日からの楽しみに期待した。


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