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曲者揃いの会議室 1

その後の話し合いで、ブラックエルフ族とヴァーレデルド王国との間には対等な関係である、と声明が出されることになった。


これでヴァーレデルド王国内でのブラックエルフ族の奴隷は違法となり、現在も奴隷となってるブラックエルフ達の隷属契約は破棄となり、一般国民として扱われることになった。


と言っても、隷属契約のままでいたブラックエルフは数える程度で、しかも本人達が受け入れていたこともあり、単純に奴隷としての立場から国民として扱われるだけで、あまり変わらなかったらしい。


さらにブラックエルフ族の集落と王都ヴァレンタの間に街道が作られ、安全な物流と人の往来が確立されることになった。


めでたしめでたし。






と、こっちはこれで良かったんだが。


「次の会議なんだが、アネモネも参加してくれないか?」


フリージアとの対話が終わり、彼女は兵士達に私達の屋敷に送り届けてもらう話をした後に、ムデルガルドが困った様子で私に話しかけた。


「え?この後って、神山トンネルの?」


私が内容を確認すると、ムデルガルドは頷いた。


「どうやら相手は君がここにいることを知ってたみたいだ。会わせないなら会議に参加しないとうるさくてさ。」


「え?あー、神託下りてるからかな。でも、私がここにいるってのはなんでバレたんだろ。」


地底(ドワーフ)族には独特の情報網があるって言うしなー。」


初耳の内容に私はノインをチラッと見ると、彼は頷いていた。


「まぁ、私は構わないよ。どちらにしろ会うつもりだったし。」


「助かるよ。じゃ、行こうか。」


ムデルガルドの後についていきながら、私はいつもの御使いドレスに早着替えする。光を纏うように歩きながら、光の翼は広げずに杖を腕輪から出すと、カツカツとムデルガルドの横に並び歩く。


「───いつ見ても、その格好だと雰囲気変わるな。」


「一応ね。此れくらいの箔がなきゃ、小娘ってなめられるのだけは避けたいし。」


「はは、俺もそれくらいの迫力ありゃなぁ。」


パンパン、と両手で頬を叩き、気合いを入れ直すムデルガルド。


やがて、会議室の前に着いた私達は互いを見合った後にドアを開けた。


円卓があるの会議室には、すでに何人かの人物が座っている。

一人はまるで武具の属神ダンガのようなずんぐりむっくり体型だが、髭と髪はキレイに整えられている男性。着ている服もきちんとしたスーツのようなもので、すぐに地底族のお偉いさんとわかった。

もう一人は豪華な刺繍や金細工のアクセサリーをふんだんに使った、インドの王族のような民族衣装を身に纏った美青年だ。

他は見覚えがあるヴァーレデルド王国の関係者らしき人達だった。


「待たせてすまなかった。」


先程の気さくな雰囲気から、厳かな印象に変わったムデルガルドが円卓の方へ声をかける。


「会議を始める前に、先にこの御方を紹介せねばならないな。」


とムデルガルドから促された私は、杖を持ち直してやや恭しく円卓の方へお辞儀をする。


「初めまして、私は御使いのアネモネ。世界が危機を迎えた時、我らが偉大なる主神の命を受け、人々に救済と破滅をもたらすものです。」


一旦言葉を切ってから、地底族の男性をチラリと見る。


「今は御使いであることは明かしたくないのですが、わざわざ私をここに呼んだ理由をお聞かせいただけますか?」


とやや怒りを滲ませて睨むと、地底族の男性は一気に真っ青な顔に変わり、ガバッと机に擦りつけるように頭を下げた。


「失礼致しました!わ、我々としては、ヴァーレデルド王国が拘束しているものかと、」


「今までのムデルガルド殿下の態度ならば、そう考えるのは致し方ないと思いますが、些か不敬ではないですか?」


私が畳み掛けるように言うと、地底族の男性はバッとムデルガルドの顔を見て、また再び頭を下げる。


「っ!し、失礼致しました!ムデルガルド殿下!」


「良い。それより、時間がおしい。会議を始めよう。」


ドサッとわざとらしく乱暴な態度で座ると、地底族の男性はハンカチで汗まみれのその顔をぬぐった。


「私も同席した方が良いですか?」


「ああ、それが彼らの願いらしいからな。」


ムデルガルドが不敵に笑って言ったので、三度地底族の男性は震え上がった様子だった。


「ハッ、何をそう恐れてるのだ?ガルツ殿。」


ようやくもう一人の男性が机に肘をついたまま、ガルツと呼んだ地底族の男性を鼻で笑う。


「何を、とは何だ!?御使い様の御前で恥ずべきことを申し訳なく思ってだな───。」


「会議に呼びつけといて、それかい?だから、地底族は頭が固い。」


挑発的な言葉をぶつける男性に、ガルツは沸騰したように怒りを露にする。


「何だと貴様ァ!貴様らのような塵しかない国の人間族が─────。」


「ムデルガルド殿下。話し合いにならないようなので、私は退室して良いでしょうか?」


下らない言い争いが始まりそうだったので、思わず私は隣にいるムデルガルドに問いかけた。ムデルガルドが答える前に、ガルツが申し訳ありません!と即座に謝ったので、私は座っていた椅子に座り直した。


「さて、始めよう。」


まるで何事もなかったかのようにムデルガルドが会議の始まりを告げたことで、ようやく会議が始まった。












うん、甘かったわ。


「ですが、今のトンネルの位置では土砂崩れが起きる可能性が!」


「ならば、そこを避ければよいであろう?」


「費用はどうされるんですか!?まさか、我々が負担しろと!?」


会議早々、それぞれがそれぞれの事情が絡み、怒声で専門用語が飛び交うような内容になった。

これが国が行う事業の会議なのか、と思わず頭に手を当ててため息をついてしまう。


簡単に言えば、ムデルガルド(ディオルド)が推し進めたこの"神山トンネル計画"は、少し強引に進めていたようで、費用やトンネルの位置、やり方は二の次で始まっていたらしい。


まぁ、そんなのに乗る方も乗る方だと思う。


会議に参加してるメンバーで、先程ガルツと呼ばれた地底族の男性は、この神山トンネルの工事責任者で、ヴァーレデルド王国から南へ向かった神山の麓に住む地底族らしい。

工事に携わっている地底族は皆、そこの人達らしい。

そして、ヴェゼルシリーズの一つ、"鼓動する闇像"を守護するのも、彼ららしい。


「我々としては一時的に工事を中止し、再度トンネルの掘削位置や工事工程を見直ししたいのです。」


ガルツは今のまま無理やり工事を進めれば、神山の自然形態を崩しかねず、ひいては自分達の集落に影響を及ぼしかねない、と訴える。


「なるほど、神山への影響は避けたいところだな。」


ムデルガルドは手元の資料を見つつも、顎に手を当て、考えこんでいる。

それを私は横目で見ながら、ノインと念話を続ける。


『そんなに崩れそうなの?』


私の背後で立ったままのノインはしばし黙った後にうん、とやや強めに返答した。


『ああ、そっかぁ。なら、ちょっと止めるのはしか────。』


「ムデルガルド殿下、今さらすぎだ。」


私の念話とガルツの言葉を遮るように、男性はバッサリと切り捨てた。


「工事の工程はもう最終段階だ。すでに両方の出入口付近には街の建設が始まっている。」


今雄弁を続けている男性は、今回欠席予定だったはずの、砂の大国のトンネル計画の責任者───と本人は言っているが、


『身代わり。』


属神であるノインは見逃さない。私はすぐにムデルガルドに見えるように机の下からメモで知らせたが、一瞥だけしてムデルガルドは会議を続けている。


「誤解があるようだが、あくまで危険を回避するための中止だ。取り止めるわけじゃない。」


「今までとは随分と態度が変わりましたな。我々が散々、神山トンネル計画は危険だとお伝えしていたはずなのに、強硬していたのはムデルガルド殿下ではありませんか。」


男性の言葉に私はチラッとムデルガルドの顔色を伺ってみるが、その表情にドキンッと心臓が跳ねた。


「そうだったな。はっ!ならば、余が中止だと強硬しても問題あるまい?」


瞳をギラギラと輝かせ、不敵に笑っているムデルガルドが、あのディオルドに重なって見えたからだ。

一気にざわつくガルツや男性だが、ムデルガルドはガタン、と椅子から立ち上がった。


「騒ぐな、矮小どもめ。神山を汚してまで推し進めるだけの価値があるからやるのだ。ガルツ、さっさと調査しろ。なんなら、御使い様でも引っ張っていけ。」


「何と無礼な!ムデルガルド殿下でも、御使い様への侮辱は────。」


「良いですよ、ムデルガルド殿下。私もガルツ殿、地底族達には話したいこともありますし。」


ガルツの言葉を遮って、私はムデルガルドを見上げて答えた。


「我らが偉大なる主神様に近しい神聖な神山を汚してまで、と言いますが、全てを知りうる主神様がこの程度で神罰を下すまでもありませんよ。」


私はムデルガルドに、不敵な笑みを向けた。


「あれだけのことをした割には、随分と丸くなりましたね。その調子ですよ、我らが偉大なる主神様はいつでも見ておりますよ。」


「はっ、好きにいえ。会議は以上だ。」


ムデルガルドがマントを翻して出入口にむかう。


「それから、砂の大国の皇子に伝えろ。」


ビクッと男性は震え上がった様子でムデルガルドを見上げている。


「使いを出すならマシな奴連れてこいとな。」


バレてますよーってことが伝わったのか、男性は今までにない真っ青な表情に変わった。


豪快にドアを開けて出ていったムデルガルドが、最後に私をチラッと見て、さりげなくウィンクしたのは見逃さなかった。

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