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にじり寄る影 2

結局、ジュリアスをアッシャルダを仇なすものとして、最重要指名手配犯として、広く告知することにはしたが、人相に関してはノインに比較的に化けている回数の多い"姿"で描いてもらったものを採用した。


これで効果が出るかは怪しい、というのがアイズやノインの意見だ。


「アッシャルダには他に悪魔族はいないのですか?」


「あぁ、彼らだけだ。」


アイズは肩をすくめた。


「他国にもいるとは思うが、まずヴァーレデルドは異種族差別が酷い方だから、おそらくいないだろう。後は砂の大国、か───。」


「新しく出来た国、ですね。」


「あぁ。先程、その国との国交に関する報告書を読んだが、今までにないケースの建国のせいか、やはりヴァーレデルドや砂の大国も戸惑っているようだな。」


そう言ってアイズは簡単にその新しく出来た国について話してくれた。


アッシャルダから南、私が初めてファレンジアに降り立ったあの"神山の端"から、さらに大河と森を進んで3日。


南方の大森林と言われる、大陸の1/4を占める規模の森林で覆われた地域に、その新しく出来た国が建国された。


「国の名を"ネーヴィアン"、というらしい。」


ヴァーレデルドと同じく君主制度で、初代の国王はなんと森人(エルフ)族。

国名の由来が、その初代の国王の生まれた地域の名前から取ったものらしい。


「国民はまだ数百程度らしいが、人間族が数える程度しかいないそうだ。」


「アッシャルダやヴァーレデルドとはまるで真逆ですね。」


「あぁ、人間族を除く多種族が寄せ集まって出来た国のようだ。」


すでに騎士団や魔法士団が設立してあり、冒険者ギルドや魔法士ギルド、商業ギルドも近々創立する予定らしく、アッシャルダの各ギルドには提携を求める書面が届けられているらしい。


「この国のことは、かなり前から風の噂程度でしかなかったんだが、祭りの後から急に情報が入り出した。それに、人間族が少ない多種族混在国家は今までにない。」


「それが、戸惑いの原因ですか?」


「あぁ。だが、さすがにここまで来たら無視できない。つい先日ムデルガルドにこの件の相談を持ちかけたが、あちらは今、神山トンネルの方で手が回りそうにないからな。」


ムデルガルドがワタワタしながら会議の準備に慌ててる姿が脳裏をよぎり、それが可愛く見えてきて内心ニヤニヤしてしまった。


「ジュリアスの件もある。慎重に交渉することにするつもりだ。」


「何かあったら、私も手伝います。」


「君がそう言ってくれて頼もしい。」


この会話が一区切りしたのを見計らって、ジェルドが口を挟む。


「アイズ様、そろそろ昼食を挟んで午後の会議を進めませんと。」


「ああ、そうだな。」


「じゃあ、私達は夕食の頃、また来ますね。」


私がそう言って頭を下げると、寂しそうに瞳を揺らしてすまないな、とアイズが苦笑する。


似たように寂しく笑みを返してから、私達は玉座の間を後にする。


「さて、私達も町でご飯にしましょうか。」











以前立ち寄ったあのカレー屋が開いていたので、昼食をそこで済ませた後、冒険者ギルドに顔を出しにいくことにした私達。


やはり道中で声をかけられることはなく、ちょっとホッとしながらも、すぐ冒険者ギルドに到着した。


中に入ると前と変わらぬ光景にも見慣れて、流れるようにカウンターへ。


「はい、何かご────まぁ!アネモネさん!」


対応してくれたのは以前訪れた際に慌てて腕を引っ張って案内してくれた女性だった。


「お久しぶりです。」


「お久しぶりですね!ヴァーレデルドに行かれたと聞いてましたが。」


「ええ、ちょっと和国を経由してこちらに立ち寄りまして。あの、レティさんは?」


するとちょっと困った顔に変わった女性が、確認してきますね、と奥の階段にいってしまった。少し待ってると女性が階段を降りてきて、私達を手招きした。


「すみません。今、来客中なんですがその方もアネモネさんに会いたいとのことで、ギルマスの部屋に行ってもらえますか?」


「え?あー、はい。」


女性の言葉を聞いて、レティさんの客が誰なのか分からずに、階段を上がってギルドマスターの部屋に向かう。

ドアをノックするとレティの声が聞こえ、私はドアを開けて中へ入る。


「やぁ、久しぶりだね。」


そこには変わらぬ筋肉美女のレティと、見覚えのある中性的な見た目のイケメンがソファに座っていた。


「エルヴィ、さん?」


「覚えててくれたのかい?!」


イズリールの冒険者ギルドマスターであるエルヴィが、笑顔で手を差し出してきた。私はお久しぶりです、と握手を交わしながらエルヴィに向き直る。


「あの時から只者ではないと思っていたが、まさか祭りの最終戦参加者になっていたなんてね!」


あ、そういやイズリールではランク4の中級冒険者で通しちゃったもんな。


「たまたまですよ。」


「まぁ、他にも君達には深い事情(・・)があるのは知ってるよ。実は私の親友に、ヤーデルダンドの当主になった男がいてね。」


エルヴィの口から思わぬ名前が出てビックリする私に、彼はニヤニヤと笑みを浮かべる。


「あぁ、なるほど。だから、ソルドさんはあそこにいたんですね。」


ソルドと最初に会ったあの場所を思い出してから、エルヴィにそう言うと彼は頷いた。


「さぁ、それよりもレティに話があったんじゃないかい?」


「あっ、まぁそうですが。どちらにも話を聞きたいことがありまして。」


レティとエルヴィが同時に真剣な表情に変わり、私の話に耳を傾けてくれた。


「南方の大森林に出来たという国の話です。」


「───あぁ、なるほど。レティ、どうやら話し合いに彼女を巻き込んで良かったようだよ。」


エルヴィはレティにそう言うと、彼女は不敵な笑みを浮かべて頷いた。


「アタシ達も南方の例の国への対応に尻込みしちまっててね。こうして、ジメジメと話し合いしてたってワケさ。」


「ええ、伺ってます。ネーヴィアン、でしたよね。」


「さすがだね。で、魔帝王はどうすんだって?」


う、今さっきまでアイズに会ってたことまでお見通しだったのね。


「慎重に対応したい、とのことでした。」


「だろうね。ネーヴィアンに関してはちょっと不確定な情報ばかりが目立つ。商業ギルドは早々と行動に移してしまっているが。」


「アイツらはカネしか見てないのさ。そのうち、カネに目がくらんで、頭ン中にカネしか詰まらなくなっちまいそうだよ。」


レティの皮肉にクスッとなりつつも、やはりメリルから聞いた話が正しかったことを理解した。


「一週間前に行商人達がネーヴィアンに向かった、と聞きましたが、商業ギルドの?」


「アネモネ。アンタ、本当に耳が良いねぇ。あーあ、その"使命"ってヤツがなかったら私の部下にしたいよ。」


「こら、レティ。隠してるとはいえ、彼女は本来高貴な方なんだよ。部下なんて失礼だよ。」


エルヴィに小言を言われて、レティは構うもんかと言わんばかりに鼻で笑った。

ちゃんとノインがイラッとした様子があるが、私はそれに笑顔で返す。


「残念ですが私は旅を続ける身ですから、レティさんの部下は遠慮します。エルヴィさんもあまり気にしないで下さい。」


「そうかい?」


「それより、その時に行動を共にしていた男のことですが────。」


私はそれがあのヴェゼルディの部下で悪魔族のジュリアスであり、"災厄再現"を掲げる組織ヴェルヌールに関わりがあることを伝えた。


話を聞き終えた二人はそれぞれ警戒するように顔をしかめる。


「全く、なんつー話だい。まさか、70年も前の災厄を再現するだなんて、気が知れないよ。」


「同感だ。確かに噂で聞いてはいたが、根も葉もないバカげた噂だと信じていたよ。」


「ジュリアスは"変化"出来ます。一応、アイズ様には一番回数の多い"姿"で人相を作成して、手配書を回してもらうようにお願いしてあります。」


私の話を聞き終えた二人は一様に頷いた。


「承知したよ。レティ、周知を頼む。私のギルドにも念入りに伝えておく。特に私のギルドのがネーヴィアンから近いからね。」


「あいよ。」


「お手数おかけします。」


私が頭を下げるとエルヴィは苦笑いしながらもよしてくれよ、と頬をかく。


「確かに君のこともあるが、何よりこれは我々の問題でもある。君が頭を下げるまでもないさ。」


「むしろ、アタシらからしたら大助かりさ。感謝するよ、アネモネ。」


二人は私へ笑みを向けてくれた。


「よし、この話は終いだ。メシも食わねぇで話し合いなんてガラじゃないよ。」


「そういえば、もう昼は過ぎていたね。はは、すまなかったね、レティ。昼はご馳走するよ。」


「そうかい、ならあのカレー屋だ。アネモネからスパイスの匂いがしてて、ウズウズしてたんだよ。」


そんなに匂ってたのか、とつい私は服を嗅いだが、それを見て二人は楽しげに笑った。


「レティは鼻が良いからね。」


エルヴィが立ち上がってレティに手を差し出した。


「あぁ、勿論さ。アタシはこれで色々嗅ぎ分けてきたのさ。」


その手をぐっと掴んで立ち上がるレティ。


私はその二人の姿がカッコよくて素敵に見えた。

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