生まれ変わるなら 2
「よし、まずは。」
テーブルの上にあるお気に入りのマカロンを一つ、口に放り込む。
紅茶を飲み、一息ついた後、私はノインに話しかける。
「ノインさん、私の見た目を変えたいのですが出来ますか?」
「問題ございません。こちらへどうぞ。」
ノインはパチンと指をならすと、周囲は一変した。
数々の服、アクセサリーからキレイに整列していて、まるでウェディングドレスの試着室のような大きな多面鏡がある。
そこには、紫色の髪の女性のメイドと、桃色の髪の大胆な胸開きドレスを着た女性が立っていた。
──どちらもかなりの美女だった。うはぁ、美女もイイッ!心のカメラ、シャッター連打するわぁ!
「いらっしゃいませ、花子様。」
「待ってたわよぉ、花子ちゃん。」
最初に喋ったのがメイドさん、後から話したのはドレスの美女。
「では、私は先程の場所でお待ちしてます。」
ノインはすっと頭を下げ、瞬く間に姿が消えてった。
それを見送ると、私はメイドさんたちに近づいた。
「はじめまして。えっとー。」
「私はエレノア、彼女はシュリアよ。」
メイドさん──シュリアは頭を下げ、ドレスの美女──エレノアは大胆な胸元を見せつけるように屈む。
わぁーい、ビッグサイズの桃が揺れたよぉ!
「貴女が異世界から来た、我らが偉大なる主神様の客人ね。」
「あ、はい。よろしくお願いします。」
「ふふっ、ノインから聞いてるわ。確かにその顔じゃ、この世界では珍しいかもねぇ。」
ふわっといい香りを感じて、私の顔に手で触るエレノア。
──はふー、いい香りでふー。
「日本人的な人は少ないんですか?」
「そうね。貴女に分かりやすくいったら、イギリスやアフリカの人の顔つきが多いかしら?貴女みたいな日本人もいたりするけど、日本同様に島国にいて、あまり島から出たがらないのよね。」
「あはは、本当に日本みたいですね。」
ひとしきりエレノアが私を眺めたり、触ったりを繰り返して、何かを確かめてるようだった。
「ん、問題なく出来そうだわ。で、花子ちゃんのご希望は?」
「美少女を所望します。」
「あらあら、今でも可愛いのに。」
エレノアはクスッと笑っているが、私は鏡に写る自分の顔をみる。
細い目、潰れた丸鼻、歯並びが悪く、顎が少しとがってる。
この顔に生まれなかったら、もう少しマトモな高校生活を送れたに違いない。
「お世辞でも嬉しくないです。それに生まれ変わるなら、こんな顔よりもっと可愛い顔に変えたいです。」
「そう?なら、可愛くなりましょう。」
ニコッと笑ってエレノアが案内したのは、多面鏡の近くにあった鏡台だ。
この鏡台も多面鏡で、正面と左右に鏡がある。
鏡台には顔のパーツが写真として収められたファイルが複数置いてあった。
────まるで、ゲームのキャラクター作成画面を見ているようだ。
「ふふっ、さてまずは何から始めましょうか?」
結論から言おう────本当にゲームのキャラクター作成している気分だった。
目をつぶっていたから、触る感覚以外はわからなかったが、鏡の前に顔のパーツを張り付けたりして選んだパーツを、エレノアがそれを見ながら私の顔を触って変えていった。
再び目を開いたら、そこには私ではなく、顔のパーツを並べて作ったあの美少女が写っていた。
瞬きしたり触ったりして、ようやくこれが自分の顔なんだとわかった。
「すごい。整形なんてレベルじゃないですよ。」
「そうでしょう?気に入ったかしら?」
「勿論です!やっと、あんなブス顔から卒業ですよ!」
細かった目をぱっちりとした二重瞼で、瞳の色を金色にした。
潰れた丸鼻は、すっと鼻筋が通った小鼻に。
キレイで真っ白に光る歯並び、ぷっくりとした唇は全体的には小さめに。
頬骨も少しへこませて目立たさせず、顎を丸く小顔にした。
他にも眉毛を細めに、睫毛を長めに、顔全体の産毛を取って全体的には童顔っぽく仕上がったかな。
愛され系のアイドル顔を狙ったけど、後はメイクしたらバッチリだな。
「この世界、メイク道具は普及してないですよねぇ。」
「そうね。そもそもメイク自体概念がないわね。」
あー、残念。
でもメイクしなくてもこの仕上がりなら、十分だなぁ。
ふと、無駄に長いだけの黒髪を触り、荒れてひどいこんな髪ともおさらばしたいな。
「あ、あと髪色ですが、真っ白に薄く青色を乗せてキラキラ光る感じがいいです。」
「わかったわ。」
エレノアが私の頭を両手でおさえると、まるで手ぐしで流すように撫でると、それを追いかけるように髪色が変わっていった。
キラキラ光る、白に青が乗ったキレイなストレートロングヘアーに変わっていった。
「花子ちゃんはセンスがいいわね。お顔にピッタリだし、まるで花のように可憐だわ!」
「えへへ、異世界版愛され系アイドルを狙ってみました。」
「確かに、これなら誰もが振り返る美少女だわ。」
エレノアに誉められて、すっかり気分が上がってきた私は、立ち上がって全体が見れる鏡に移動する。
そこで気づいた───アイドルのコンサート用のお洒落を装った、異世界には似合わない服だったことに。
そして、周囲を見れば、たくさんの服やアクセサリーが並んでいる。
勿論、これは着せ替えタイムだね!
「後は服ですかねぇ。」
「服装等に関しては、シュリアが担当するわ。」
「よろしくお願いいたします、花子様。」
─────この見た目でそう呼ばれるのは、なんかイヤだな。
「この見た目に変わったのに、前の名前のままだとちぐはぐな感じですね。」
「そうね。こちらには日本独特な名前はないから、変えた方がいいかもしれないわね。」
「───よし、決めた。」
エレノアの言葉を聞きつつも、今の見た目をじぃっと鏡で見つめる私は、ある言葉を思い付いた。
「新しい名前は、"アネモネ"にします。」
「花の名前ね。この世界には確かに存在する花だけど、花言葉がちょっと、ね。」
「それは、"見捨てられた"とか"見放された"とかですか?」
エレノアは少し驚いた顔で私を見た。
「あら、花言葉知ってたの?」
「今度行く予定だった大学は植物専攻の学部もありまして、ちょっと調べた程度ですけど。花言葉も一緒なんですね。」
「え?ええ、私達は地球の知識を参考してる部分があるからね。」
エレノアが少し焦った感じに答える。別にそれをとやかく言うつもりはないから、無視する。
「花言葉って、花全体だけで決まってるんじゃないんです。花の色ごとでも違った言葉になるんですよ。」
鏡を振り返り、私は改めて自分の顔を見ながら、ニコッと笑ってみせる。
「白いアネモネの花言葉は───"真実"、"期待"、そして、"希望"です。」
今の私には、この言葉を込めたいから。
私がここにいる"真実"、生まれ変わった"期待"、そして───新しい世界の"希望"をもたらすんだ。
「───ステキ!すごいわ!はな──アネモネちゃんはすごいわ!」
「ありがとうございます。」
「見た目も華やかで、名前を体現してる。ステキだわ!」
エレノアの物凄い勢いの持ち上げ方に、私は苦笑して誤魔化した。
めちゃくちゃ期待されてるんだろうけど、上手く行く保証なんてないし、為せばなる程度で構えてないと、何かあったら立ち直れないよぉ。
「ふふっ、本当にすごいわ、異世界人は。何を変えてくれるか、楽しみだわ。」
エレノアは本当に楽しみらしく、クスクスと笑っている。
────ゴキタイニ、コタエラレルヨウニ、ガンバリマァス。
「それでは、アネモネ様。服の方の説明させて頂きます。」
シュリアがエレノアを押し退けるように、私に近づいてきた。
「あ、はい。」
見た目はノインのように無表情だが、どうやら中身は違うようで、私を捕まえてずいずいと押しながら、服の説明を始め出した。