やりたいことを 1
朝の眩しさに目が覚めた。
目に入った天蓋にも少し慣れて、うーんと背伸びをする。
枕元にウィリアがくれた辞書が見えて、昨夜のことを思い出す。
「───あー、寝落ちしたか。」
あのあと、早速布団には入りながら辞書を読んでる内に、そのまま寝ちゃったらしい。
でも、言われてた通りに早く覚えそう。
なんせ、ウィリアが作ってくれた辞書は丁寧に解説されて読みやすかった。
「おはよう、アネモネ。」
先程まで姿がなかったノインが、朝ごはんと共にふっと姿を表した。
「おはよう、ノイン。今日は遅かったね。」
「ごめん。」
「ううん、いつもは起きる前にはいたからさ。」
ベッドから降りる前に辞書をしまい、立ち上がってから再度背伸びした。
「じゃ、またササッと着替えてくる。」
「うん。」
洗面所へ向かい、洗顔料や化粧水の手入れをした後、タンスから出してあった今日の服を着る。
白い花柄の刺繍がついた袖がふんわりとしたカットソーの下に、黒いピタッとした長袖を着てみた。
濃い青色のハーフパンツに、黒のニーハイソックス、パンツと同色の歩きやすいショートブーツ。
マントを腰に着けて、スカートみたいに広げた。
ベルト、長剣、短剣を身につけて、髪をハーフアップにしてから二つに分けた。
今日も動きやすさに気を付けてみた。
念のため、鎧をフルで装備すると、ヘルムが髪型に合わせて形状が変わっていた。
「わぁ、すごい。」
ハーフアップを崩さないようにして、後頭部をしっかり覆われていた。
「髪型を気にせず着られる鎧とか、ぐう有能。」
鎧を元に戻し、鏡に向かって気合いを入れる。
よし、いよいよ旅立ちだ!
そう心の中で言うと、洗面所と浴槽にお礼を言ってから立ち去った。
「アネモネ、出来たよ。」
朝食が並ぶテーブルにいるノインが声をかける。
席に座って二人の朝食を始める。
パン、ソーセージとベーコン、温野菜サラダ、スクランブルエッグに、わかめスープと、相変わらず豪華だった。
「アネモネ、今日は?」
「うん、下界にいこっか。」
ノインは頷き、スクランブルエッグを口にする。
「どこに降りる?」
行き先を聞かれて、私は悩みつつベーコンにフォークを刺す。
「人が少ない場所にいくか、敢えてどこかの国の首都を目指すか。」
「首都は司祭が騒ぐよ?」
ノインが私に嫌そうに呟いた。
「あれ?ノイン、神官は嫌い?」
「うざい。」
「うわぁ、神様がいっちゃダメな台詞だよ。」
私の突っ込みも渋い顔で黙りこむノイン。
────まぁ、神様からしたらうざいかもねぇ。
「その辺はやめとこうか。なら、大陸の隅っこから時計回りにいく?」
この寝室にも世界地図があり、それを指差しながら時計回りに指を回すと、ノインは頷いた。
「なら、"神山の端"から行こう。」
とノインが提案してくれたので、私は頷いた。
口にベーコンを入れ、パンと一緒に食べると止まらなくなる位、美味しくて困っちゃうな。
確実に太りそうだけど、太りづらくないようにエレノアが見た目を変えた際にしてくれた。
今思うと、あれ、エレノアの加護だったのかも。
見た目でわかるものじゃないから、何とも言えないんだよね。
その後、朝食を食べ終わり、ノインの片付けと出発準備が終わるまでに待つ話になった。
その間に腕輪にしまった中身を確認し、忘れ物がないかを確認していく。
中身を確認しようと腕輪に触れると、リストが幻影として出てきたのにはビックリした。
「ん、全部あるな。」
リストを見直してから消すと、やることがなくなって、腕輪からウィリアから貰った辞書を出して、文字の勉強をする。
黙々と文字とにらめっこしていると、ノインがお待たせ、と言いながらやってきた。
格好はやはり動きやすいTシャツ、ズボンとこの世界の平均的なスタイルだったが、腰の剣と短剣がベルトについていた。
「じゃ、行こう。」
ノインの言葉に、私はくるっとベッドの方を向いて、心の中でありがとう、と礼を言った。
「ん?」
「ああ、何でもない。いこっか。」
ノインに近づいた私は頷くと、ノインは指をならし、移動した。
────が、今回は周囲が歪み、1拍経ってから到着した。
"神山の端"と呼ばれる場所は、少しの木々と草原が広がっていた。背後には山がそびえ立ち、近くには看板があり、山への道が続いている。
「ふわぁ。」
都会育ちのため、自然が広がるこの場所になんとなく感動した。
「地図はもらった?」
ノインから言われて腕輪から地図は出すと、"神山の端"と書かれた場所を探す。
地図は大きな大陸を囲むように、小さな大陸が2つ、島が3つ、まばらに配置されていた。
ノインが大きな大陸の東、端っこを触ると文字が浮かんだ。
「ここ。近くに街がある。」
「なら、一旦はここに行きましょうか?」
近くにあった街に触れると、街の情報が出てきた。
───だが、まだ読めない。
「えっと、ノイン。」
「イズリール、街の規模は中。人口は一万程度。」
「ありがとう。じゃ、このイズリールに向かおう。」
草原の中の小さな街道らしきものを歩きながら、私はノインと会話が弾ませた。
「この街道は危なかったりする?」
「いや、動植物が多い。大陸の中でも平和な方。」
「だから、提案してくれたのね。」
そんな危険の少ない街道のせいか、こちらを襲おうとする魔物に遭遇するのも少ない。
だから会話も草原の空に鳥の影が見えれば、
「あれはウィンドバード。遠いから大丈夫。」
街道からかなり離れた位置に影が見えれば、
「あれはビッグゴート。肉も乳も美味しい。」
といった具合に、ノインが説明を挟まる。
ほぼ、観光地の散策状態で街道を歩き、イズリールへ向かう形はなっていた。
観光ガイドもこなす、万能属神ノインさん。
ノイン「この草は食べれる。」
アネモネ「いや、それはいらない。」