新しい世界へ 7
「では、私はこれで失礼しますぞ。」
あの後、切り札以外にも加工、操作魔法を教わっている内に、夕日が沈むところで魔法訓練は終わりとなった。
「ありがとうございました。」
色々魔法を教わり、ご機嫌で見送る私。
「うむ、ではまた。」
サージュは後ろを振り返ると同時にすっと消えていった。
手を振りつつ見送り、見えなくなったのを確認してから、んーっと背伸びした。
「大丈夫?アネモネ。」
「へ?全然大丈夫!むしろすっごく楽しかったよ。」
サージュに加工魔法から操作魔法を一通り見せてほしい、と頼んだら、地面から鉄の塊を精製する所から剣の形になった鉄が空中遊泳するまで、十数種類の魔法が次から次へと流れるように行う様は、一つの見世物を見てる気分だった。
実際にあんなにスムーズにはいかないんだろうなぁ。
「あんな風に出来るのには、時間かかりそうだなぁ。」
サージュからもらった魔道書を見つめながら呟くと、ノインは首をかしげる。
「文字が読めれば大丈夫。」
「あ、ホントに?頑張って文字の勉強するわ。」
私は魔道書を腕輪にしまうと、ノインを見る。
「ノインは魔法、得意?」
問われたノインは迷うことなく頷いた。
剣を振るうイメージよりも、魔法使いのイメージのが似合いそうだ。
知的なイケメンも最高です!
「そろそろ夕食。」
「あ、そうだね。確か、料理の属神さんに会いに行って、そのままご飯なんだよね?」
お昼の時にノインに料理の属神に会いに行く話をしたら、すぐにその属神に連絡してくれたらしく、夕飯の頃に会いに来てくれ、と言われたそうだ。
ついでに夕飯を作ってくれる、ということで楽しみなんだよね。
「じゃ、移動する。」
ノインが私を呼び寄せ、指をならした。
着いた先は、キッチンだった。ただのキッチンではなく、テレビ等で見たことある高級ホテルのキッチンで、レンジやオーブンの他に、見たことがないようなパネルのついた機械類が並んでいた。
「らっしゃい。」
まるで店の中に入ったかのような声がかかり、正面に向き直る。
「ウワサの客人だな。」
そう言った人物は、にぃっと笑って見せた。
金髪に青い瞳で、イタリア人ぽい見た目の男性はコック服を着た20代位で、チャラい印象である。
爽やかな笑みを見せて、私に一礼する。
「オレは料理の属神───ユーリンだ。よろしくな!」
「初めまして、ユーリンさん。」
私が手を差し出すと、ユーリンはがっちりと握手をしてくれた。
その後、手をマジマジと見つめた。
「あまり料理はしないのか。」
ずぼら料理しかしないのがバレバレだったか!
「あ、まぁ。食べるのは好きですけど。」
私の言葉に、ニカッと笑ってユーリンは手を下ろした。
「なるほど、ノインが張り切るわけだ。」
「ユーリン。」
ユーリンの言葉を嗜めるように、ノインが声をかけた。
「なんだよ、事実だろ?」
「料理の話、して。」
ノインが強引に話を進めたので、ユーリンは呆れたような笑みで答える。
「はいはい、食文化が知りたかったんだったな。」
「はい、日本とどう違うのかと。」
ユーリンはんー、と唸りながら考えこんだ。
「ほとんど変わらないぞ?機械が必要な手の込んだ料理が難しいくらいで。」
「そんなに変わらないんですね。」
良かった!和食が食べたくなったら探せばあるってことだよね?
「基本的にはオレが、この世界の文明に合わせて広めてるからな。」
────ん?広めてる?
「えっ、ユーリンさんは他の属神さんみたいに"否定"されてないんですか?」
「おぅ。まぁ、オレは属神として認識されたのは最近なんだ。他の属神たちとは違って、まだ否定されてねぇってことだ。」
ユーリンはニヤリ、と意地悪そうに笑った。
なるほど、だから広めることが出来るのか。
「しかも、こーんな平凡なツラだからな。下界ではちょっと有名なシェフ位の知名度で済むから楽だぜ?」
自身の顔を指差して笑うユーリン。
たまにいる人気の有名店の美形シェフ、的な感じかな。
───そういや、ヴァレアとエレノアがアフリカ系美女で、サージュやシュリアはイギリス系のように見えたな。
「だから今でも広められて、下界も出歩けるってワケだ。」
ユーリンは私のすぐ隣にいるノインの方を近づいた。
「ノインもつい最近生まれたから、同じ理由でアネモネに同行出来るんだよ、なぁ?」
ノインの肩を叩きながら、ユーリンが嬉しそうに笑う。
こうしてみると、二人ともに兄弟な感覚を抱く。見た目は全然似つかないはずなのに。
「ユーリン、痛い。」
「なんだよ、こんくらい。」
ノインの口調が私と同じで、嫌そうにも見えない。
ちゃんと仲良しな属神がいたんだね。
「おっと、まぁ、話はこんなもんだ。」
「ありがとうございます。ユーリンさんのおかげで食事には困らなそうです。」
「おぅ。ただ、自由にメシが食えるのは大きい都市や裕福な街くらいで、貧困の激しい地域は気を付けろよ?」
ユーリンはやや厳しい顔で私に言った。
「ホントは食事くらいは、ウマイもんが食えるようにしてやりたいが、戦争やらで泣きをみちまうやつらばっかでな。」
心の底から嫌そうな顔をするユーリン。
「じゃ、私も頑張らないといけませんね。」
私がそういうと、ユーリンはきょとんとした後に豪快に笑った。
「戦うのを怖がってたのにか?」
────あれ?何故ついさっきのことを、ユーリンが知ってるんだ?
チラッとノインを見たら、ノインは何事もなかったかのように、近くにあった冷蔵庫のドアに隠れた。
やっぱり、ノインを通じて他の属神さんにバレちゃうのね。
まぁ、あまり漏らして欲しくないけど事実だしなぁ。
「そうですけど。剣も練習しますし、戦わなくても済む方法だってあります。」
「そうだな!それが一番だな、微力ながらオレも協力するからな?」
そう言いながら、ユーリンは左手を差し出した。
────ん?握手かな?でも、さっきもしたような?
そんなことを思いつつも、私は笑顔で握手をする。
すると温かさを感じて、すぐに収まった。
「ムリすんなよ?」
ユーリンの声に我に返り、はい、と答えた。
────今のなんだったんだろ?
一人で考えこんでると、目の前に移動していたノインがユーリンの服を掴んだ。
「夕食。」
「あ?あー、そうだな。アネモネ、夕食は何が食べたいんだ?」
ユーリンに問われて、んーっと考えてから、
「えっと、そうですね。じゃあ、ハンバーグ、サラダ、コンソメスープですかねぇ。後はデザートにティラミスがいいです。」
リクエストをすると、ユーリンはおっし、と気合いをいれて冷蔵庫を開け始めた。ノインは手伝うのか、いつの間にかユーリンの近くに移動しようとしていた。
「あ、ノイン。」
その前に頼みたいことがあり、ノインを呼び止めた。
「なに?」
「悪いんだけど、さっきの訓練してた場所に連れてってくれる?」
ノインは怪訝な顔つきになったが、すぐ私をつれて訓練場所に移動した。
「アネモネ、何するの?」
「出来るまで時間あるだろうから、魔法の練習をね。あと、あのかかしも置いてって。」
ノインは明らかに顔を歪めた。
「アネモネ、戦わなくていい。」
「さっきも言ったでしょ?出来れば一人でも出来るようにしたいって。」
心配そうに見つめるノインに、私は胸にこぶしを当てた。
「あの時は初めてで、怖かっただけだから。」
「大丈夫?」
「やらせて。」
やや強引に私が言い切って、ノインを見つめる。やがて、彼はすぐ横にかかしを出した。
「さっきよりも、優しい設定にした。」
「ありがと。たくさん食べれるように、しっかり運動するからね。」
ノインは微かに笑って頷いた。
「気をつけてね?」
そう言いながら、ノインはふっといなくなった。
さて、と呟いてサージュからもらった魔道書を腕輪から出して開いた。先程習ったばかりの操作魔法で魔道書を浮かせて、ページをめくらせる。
「まずは見てわかるものから、やってみよう。」
ユーリン─────安直すぎたかな?