運命の、出会い…………?
高機能執筆うんたらで改行するの忘れてた
俺、風谷創太は魔法が全く使えない。
それなのになぜか、国立の魔法中学校に通っている。
通っている、が、当然のことながら魔法が使えないので二年生までの魔法実技に関しての総合成績は五段階評価で異例のゼロだ。
ゼロ、だぜ。
もはや評価じゃないじゃん。
泣けてくるぜ。
まあ、他は群を抜いていい。
しかし魔法の実技評価がゼロであるゆえ、ある点では優等生、またある点では劣等生扱いだ。
おかげで鬱陶しいいじめだって……
しかも容姿も男としてはある種最悪だ。
念のため、不細工なんかじゃなく、むしろ逆。
自分で言うのもなんだが、綺麗な方。
綺麗、というか、可愛いとよく言われる、残念ながら。
整った小柄な顔立ち、女性声、空に同化しそうなくらい澄んだ青い瞳と水色の艶やかな長い髪、綺麗な肌、細い身体、美しいくびれ…………。
化粧なんぞしなくても、女子と見間違えられるレベル。
お陰でこちらは女子だの、女男とからかわれる始末。
母親_____魔理亜にでさえ、時々女子用の服を買われるほどだし、クラスの女子には無理矢理女装させられたりだのする。
まあこれはマシだ、イラつかないし。
しかし悲しすぎる。
これを自分で認識し始めた辺り、もう俺も人としてダメなのかもしれない、と感じてることも含め残念だ。
はあ………
………毎日が嫌になりつつある。
……と言ってもしかし、仲のいい友達も何人かいるし、それが学校に行かせる動機だと言っても過言ではない。
そして今日、五月のある日。
この日はテストがあった。
内容は魔導防壁の展開……常人であれば、簡単なものなら簡単に展開できる、が、魔法学校ゆえに強度の面も試される。
そうなると魔法が使えない俺の評価は始まる前から決まるわけだ。
それでも参加は強制、やるしかなかった。
魔法が使えない故の副産物か、元から体は丈夫、しかも異常に……。
おかげで受身に関してはもう慣れっこだ。
とはいえ、それにも限界や、限界を簡単に越えてくるやつもいる。
一応、色々あってわかったことではあるが、高度1万メートルから落下しても耐えられた俺の体。
たが、俺をいじめてくる奴の中に『衝撃波』使える奴がいた。
具体的にいえば、自身及び対象に与える衝撃及び波動をコントロールすると言うもので、
たとえ原子一つ分の波であったとしても打ち消し、衝撃波でも打ち消してしまう。さらには音波、光波までも打ち消してしまい、皮膚が僅かにも歪むことを許さなくする、つまりものが当たっても凹まない。
故に大半の攻撃は無効化、さらに貫通、切断、打撃などの攻撃も体表面に届いたとしても皮膚が凹むこと、歪むことを許さない故、無効化してしまう。
更に衝撃波は打ち消すだけでなく、発生させることも可能という鬼畜仕様であるため、相手に一方的に高エネルギーの波動をブチ込めるため、攻撃も油断できない。
残念なことにテストのペアは言うまでもなくそいつ____石倉武雄だった。
こいつのパンチに強烈な衝撃波を載せられると、流石の丈夫な身体も、奴のフルパワーでなくても大怪我を負ってしまい…………てか実際、ついさっきか、ぶっ飛ばされて身体から沢山の血を流し、保健室まで送られたレベルだったし。
はあ……ついてない。
と、ここまで駄弁ったのだが
どこだ、ここ…………
保健室に、おくら、れて……あれ?
ちょっと唐突すぎるが、マジでわからん。
周りは暗いが、目の前の遠くの一点だけすごく眩しく輝いている………
うーん、
なるほどわからん。
もしかしたら、死んだ……?
いや、でも死んだのだったら走馬灯の一つや二つ、あってもおかしくないな……
どうすればいいかわかんねぇし、とりあえず光ってる所行くか……
そうして動き出した時だ。
『創太さん…………まだ、死んじゃダメっ!!!』
心拍音とともに、どこからともなく俺を呼び止める声が聞こえた。ソプラノボイス、女の子の声だ。
てか俺やっぱ死にかけなのか…………
誰?
そう、聞いてみる。
だが、再び心臓の鼓動音が一回して、
『まだ、やることがあるの!!今死んだら……世界が…………だから、早く!』
え、一体なんのこと?
世界?
この世界やばいって言うのか?
まさか、これ多分俺の思い込みだろう。
いや、やっぱ死ぬ前になんか変な夢でも見てるんだろうなぁ……
『違います!本当に……だから、戻って来て!』
また心拍音……しかし先ほどと違い一回出なく、力強い音が、徐々に激しくなりながら響く。
そして、遠くにあった光が、どんどん激しくなる鼓動とともに、眩しさを増しながらこちらに迫り、何も言う間も無く俺を飲み込んだ………
____________________
「…………っ!」
はっ、と目を覚ました。
今度は目の前に、整った白の正方形がいくつも綺麗に並んでる。
知らない天井…………ではないが、場面的にはそんな感じ。
体を起こし、辺りを見渡す。
どうやら保健室らしい。
白い天井に白い壁、窓から入り込む光で明るく照らされ、そして白の仕切りとなるカーテンが風で煽られている。
そのカーテンに黒く人影が映っている。
椅子に座る謎の影だ。
ふと、カーテンが風でめくれ上がり、その後ろの景色が見えた。
そこには幼馴染、緋山龍神の姿。
赤髪をほんの少し伸ばして、髪留めで左側をバックにしている青目の少年だ。
「おっと、王子様のキスは無用みたいだな、
創太君、っと」
景気のいい言葉を投げかけてから、パイプ椅子から勢い良く腰を上げ、俺の顔に一気にあいつの顔を寄せてくる。
「よしてよ、俺男だから。それに誰が姫だよ、呆れた。」
そう返すとあいつ、ケラケラ笑ってきやがった。
よほどからかってるのか、不気味な笑み。
腹立つな。
「てかホモ嫌い………引くわ」
「よせ、冒頭から俺のイメージが変な方向に向かうじゃねぇか」
別に変な方向へ向けたつもりはない。
「俺は容姿美麗、性癖普通の草食系で世界一のジェントルメェン、あまりの美しさ故に誰もがイチコロの男なんだが?」
「それ自分で言う!?」
「どっかおかしいか?」平然と聞いてきた。
「いやおかしいよ!!初期キャライメージ変なふうに固められる原因の半分以上自分でつくってんじゃねぇかぁっ!!」
全く。
と言っても、こんな感じの馬鹿だが龍神はいい奴だ、昔からの良好な仲、時々からかってはくるけども……
でもあいつは勉強も俺ほどでないがそこそこで、魔法だってトップクラス、生まれつきの三属性使いという赤髪のハイスペ炎使いだ。
どうでもいいけど料理めちゃくちゃ上手いし。
……俺とは真反対なとこが多い。
妬ましく思うこともあるが、最も信頼できる友達だ。
「さて、お前、二時間目から今________4時までずーっと寝てたわけだけど。」
「えっ!?嘘っ!」
急いで上体を起こし、壁がけ時計をみる。
なんと、針は4時をちょっと回ったところを示していた。
西陽が窓から流れ込むのもそれで納得がいく。
「さすがに寝すぎたな、早く帰んねぇと、っ!」
ちょっと体に電撃が走る。
激しく咳き込み、呼吸がしづらい。
軋むような痛みに悶えてしまう。
「お、おい!大丈夫か?」
しばらく咳き込んだままだったが、なんとか呼吸を落ち着け、深呼吸を繰り返した。
そして、
「…………あ゛あ゛、大丈夫。」
少しゼェゼェとしながらも、返事を返す。
「なら、いいんだけど………あまり無理すんなよ。」
「…………あいよ」
そして多少の痛みを堪えて鞭打って腰を上げた。
「あ、服ならそこん籠に洗ったやつ入れといたぞ。」
「え……?」
首を下に向けると、服を着てなかった。
その代わりと言ってはなんだが、包帯が丁寧に身体中に巻かれ、志々雄真実に負けないほどになっていた。
さすがに顔はそこまでではなかったが……
「うわっ、これ余程ひどかったんだなぁ……」
「そりゃあな。もう内臓が口だけじゃなくて腹部のいたるところからたっぷりとぐしゃぐしゃになって出てきてたしな。」
「そんなにかよっ!?」
てかそれこそマジで死んでねぇのが不思議なレベルだわ!!
「実際は?」
「うん、嘘」
「死ね」
ニッコリとした笑顔で言ってやったわ。
てか驚いたわ。
ほんと、心臓止まりかけたし……おかげで胸が痛くなったし。
「ちなみに服脱がせたのは?」
「あー、俺」
「!?」
待て待て待て!?
「おおお、襲ったり犯したりしてねぇだろうな!?」
慌てて聞き返す。
最近のこいつは少々信用できない箇所がある、特に目線的に……
表情に何かしらのやばいものを感じざるを得ないのだ。
「してねぇよ!!勝手に変態にすんなや!!」と龍神は否定するが。
「ほ、ほんと、だな?」
この点においては信頼がしづらい。
「ホントだ、親友よ」
「……わかった」
一応納得はした。
さすがにね、龍神がマジでやるわけないもんね、ちょっと部屋にイカくさい匂いが漂ってるのも気のせいだよね!!
『最低だ、僕は』あたかも俺に聞こえないようにとあいつが小声でぼやくのを聞いた。
うん!気のせいだ!!
もう、そう思うことにした。
そうでもしないと変な方向にこの話が進んでいきそうだし!!
すると
「ちょっと〜、うるさいわよ、仕事に集中できないじゃなーい。」
突然、ベッドの方にコツ、コツと、ヒールの音を立てながら長身の女性がやってきた。
途端にタバコの匂いが微かに漂う。
顔を向けるとキャビンを口にくわえ、金髪に、 白衣に手を突っ込んだ保健室の先生、エレオノーラ先生がこちらを見にきていた。
外国人らしいが日本語が上手く、また若々しく艶やかで美人であるが実年齢はもはや彼女の前で口にしても怒られないレベルの歳であり、
通称美魔女、不死身の少女、ロリババアとか色々だ。美魔女はわかるが他の由来がいまいちわからん……まあいいや。
「なぁーに男同士でいちゃついてんのよ、気持ち悪い。」
煙たそうに手を払い、少々引き目で俺たちを冷たく見つめる。
「いや、ち、違いますよ!これはこの龍神がっ!!」
俺は全力で否定した。
「なっ!」
おい、お前否定できないだろ。
しかし先生は
「そんなの知ってるわよ」
「へ?」
龍神が青くなる。
「ほんと、龍神くんは友達思いの生徒よね」
意味深そうに先生が言う。
それを聞くとだんだん不安と龍神への軽蔑の意識が芽生えてくる。
「待て待て!俺何もしてねぇよ!!!」
龍神はあせる。
「ほんと、オマセさんね、龍神くんは……
変な声してたから来てみると〈自主規制〉とかしてたし」
「してねぇぇぇぇよぉ!!!?」
変態クソ野郎の断末魔が響いた。
マジかよ。
死ね屑龍神。
「なーんて、ね。嘘よ。変な声と(自主規制〉は隣のベッドのことだし。」
「……ホント?」
細目で二人を交互に睨む。
「本当よ〜、でも龍神くん焦るのも無理ないわ。だってその時寝ちゃってたわけだし。」
「俺寝落ちしてる間にそんなことが……やり手だな。」
全くその通りである。
保健室でやっちゃうのは定番ちゃ定番のロマンだろうけど、マジでやったらあかんやろ。
それより……
「先生、ややこしくなるから変な冗談はやめてくださいよ……それに龍神も、俺ほんとに絶交考えかけたんだから……」
かといって、それを鵜呑みにしてた俺も俺だけどさ……
「……わーりぃ、気ぃつけるわ♪」
「あらら……ごめんね」
相変わらず龍神は反省という言葉を知らないかのよう、陽気に返し、かといって先生も片腕でゴメンと合掌しながら舌をチラっとだしてぶりっ子してる。
まあ、いつもこんな感じだし、いいや。
しかし、時間も起きてから大分経っただろう。
「さて、本当にそろそろ帰らないと……」
身体の痛みはこの話の間に殆ど消え去り、重い気だるさは抜けきっていた。
傷の治りも早いのが、これまた助けになったみたいだ。
「行こうぜ、龍神。」
「そうだな、帰るか」
そう、二人で話して保健室を出ようとした時だ。
「ねぇ、創太君」
窓からやけに冷たく、嫌な風が流れ込む。
それとともに先生が俺を呼び止めた。
声は先生にしては珍しく、陽気さというか、活発さが感じられない言葉だ。
あまりの不審さに、不安が俺の身体を蝕み始め、冷や汗が背筋や頬を伝う。
それを見てか、先生は遠慮がちに話を続けた。
「ちょっと言いづらいんだけど…………なんというか、死相が見えてるのよね、あなたの。」
「えっ」
あまりの突然さに理解ができない。
死相って…………死期、近いってことか?
俺、死ぬのか?
そんな馬鹿な。
今だって怪我やら何やら、すぐに治ったし、事故で死ぬほどの体ではない。
だめだ、考えると理解からどんどん遠ざかる。
死という、実感がわかない言葉が思考回路の迷宮をさまようばかりである。
それでも先生は話を続ける。
「と、いってもだけど中々はっきりしたものじゃないのよねー。すごく危険信号発してるんだけど、断定できないくらい曖昧なビジョンだけが見えるの…………」
つまり、死相が曖昧、ってことか。
曖昧である以上、何が起こるかわからない。
不安が徐々に恐怖を感じさせ、全身が悪寒で震えてきた。
そこに、妙に冷たい風が吹きつけてくるのが、嫌気も煽ってきてしまう。
「ただ、一つわかることがあるとすれば……」
この言葉に息を飲んだ。
これが、何か死相を回避する鍵になるかもしれない。
聞き漏らしはしてはいけない…………
簡単なことなのに、格別な緊張感を感じてしまう。
そして、先生の口から出てきた言葉は……
「頭上に気をつけなさい、ってことね」
「「へ?」」
なんだそりゃ。
ポカンとしたまま、龍神と二人で固まる。
そして顔を互いに合わせてから、また先生の方に振り向き、ポカンとした顔を向けた。
それを見てか、先生は
「と、とりあえずそういうことよ、これが確実に起こるってこと!それ以外はなんとも言えないわよ……」
「ま、マジで?」
龍神が問う。
「うん、マジで」あっさり返された。
取り敢えず、もう諦めて頭の上の注意をして過ごすしかないな。
「さ、そろそろ帰りなさい。
何かヤバいことあったら学校に連絡して。
対応にならいくらでも当たるわ」
「は、はい……」
結局、死相を見られ、自身にヤバい危機が迫っている、ということしかわからずじまいのまま、学校を後にせざるを得なかった。
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さて、帰路に着いてから数分経った。
西陽が眩しく俺らを照らす。
空は徐々にオレンジへ染まっていくが、平凡な日を装っているかのようである。
まだ家まで4分の3くらいはあるだろう。
ここまでは何も起こらなかったが、少し怯えながら歩く。
「そういえば……お前に見舞いの品、何個か持ってきてた奴いたな」
と、龍神が思い出し、バッグを漁り始めた。
そして
「そうそう、これだ!」
取り出された紙袋を渡されたので、中身を見ると
『創太へ』と書かれた厚紙、そしてその下には木ノ実、果物が沢山。
厚紙の裏には「これ食べて体治してにゃ〜 ミーシャより」
なるほど、彼女らしいな。
ミーシャは猫耳族の、緑髪黄眼、華奢な身体の可愛い娘である。
割と活発で、森林とかでも自然環境下でも難なく遊んでいる奴だし、見舞いの中身に納得いく。
そしてもう一つ、こっちにはおにぎり、菓子、そしてエロ本やエログッズ…………
「あの………………これ誰からっすか?」
「あー、クロシから」
クロシ……か。
あいつあまり話したことないんだが……普段から無口、静かな奴だし、それくらいしか知らない、というか接点も一回だけ石倉からの一方攻撃から助けてもらったくらいか。
まあ、時々募金活動とか慈善活動とかに参加してるのを見るくらい、だから推測に過ぎないが人に基本的に優しい奴なのだろう。
しかし、そんな奴からエロ本とは……
キャラ崩壊がちょっと起こってしまったな。
しかも中身……『濡れる幼女特集! 合法ロリたちの淫らな性戯。』『性活一位のエッチな小学一年生 始業式が処女卒業式』
何故だかロリコンだと思われてたらしい。
なんか、悲しくなってくる。
というか頭痛い。
まあ、いっか。
「あららー、お前そんな趣味も加わったのか〜?」うっざい顔で龍神が微笑とともに煽ってきた。
「そんな趣味もこんな趣味もねぇよ。」
「嘘つけ、お前の部屋にある、数々のエロ本、全部知ってんだぜ」
「なっ!?」
そんな馬鹿な!
絶対バレないよう、しっかりベッドの下に…!
「ベッドの下だろ、テンプレすぎて笑えるぜ」大笑いされた。
「そ、そんな……」
「あと、気づいたの俺じゃなくて麻里亜さんだぜ」
「母さんが!?」
「ああ、なんかイカくさーい匂いしたから探したら、ホントにテンプレな所にあった、って笑いながら言ってたぜ」
「マジかよ……」
麻里亜、俺の母さんだが、家族を溺愛するだけでなく、察しが良すぎる人だ。
マジでめんどくさいことになったな……
母さんのそーゆーことへの反応厄介だしなぁ……
いじられ倒され、辱め(女装やら何やら)させられそうだし。
嫌な汗が滴る。
帰ってからのこと考えるとなぁ…………それに死相も…………
ふと、何となく、じめっとした、身体に纏わりつく気持ち悪い風が吹いている気がし、烏の合唱がさっきよりも耳に響き、さらに数は、歩いていくたびに増えてきた。
西陽も妙な妖しさを帯びてきている。
これもまた死相の話に関係あるのだろうか…………考えたくもないが、そう考えてしまうのだ。
「創太」
いきなり龍神に声かけられて驚いてしまった。
何度も呼んでいたのか、割と強いトーンだ。
「な、何?」
「お前、なんか考えすぎ、って感じがしてるぞ。」
どうやら、顔に顕著に現れてたらしい。
「もっと気楽にいこうぜ」
「……………そうだな」
悪い癖だな。
考えすぎて周りが見えなくなってしまうことが時々。
話の重要性によるが、重たい話なら気にしすぎてしまうのだ。
龍神は俺の変化に敏感だ。
昔からの仲、だからか。
割とこれには助けられることがあるのでありがたい。
「さ、はやく帰ろーぜ」
「うん」
そして少しペースを上げ、まがりかどに差し掛かった時だ。
「「……!」」
足が止まってしまった。
疲れ、いや、そんなものじゃあない。
殺気
それが漂ってきたのだ。
恐る恐る曲がった後の真っ直ぐな道の先には、人影が一つ、真ん中にポツンと立っていた、いや、待っていたというべきか。
普通に見るとぼやけて見えるほどの距離だが、それでも十分なくらいの殺気や妖しさを感じてしまう。
何というか、たくさんの夜の闇、闇の恐怖を固めたような存在だ。
……徐々に迫ってくる。
距離が近づくたび、恐怖は増す一方。
近づくにつれ、姿がよくわかってきた。
喪服のようなスーツに簡単な服装品、髪は暗いクリーム色、無精髭が生えた30代の痩せた男。
微笑を浮かべる様が、さらなる妙な妖しさを醸し出す。
そして、迫りくる恐怖の塊は、ついに俺たちの目の前に来た。
今すぐ逃げてしまいたい。
でも、体が動かない。
動けという命令が拒否される。
とうとう震えさえ許されなくなってしまった。
力を振り絞り、横目で龍神を見ると、全く俺と同じでうごけない。
そこに、ふと風が流れ込む。
しかしそれでさえ、もう身体では冷酷なものとしか感じられないほどになっていた。
すると男は立ち止まった。
うつむきながら微笑を絶やさないままである。
「ふっ、ふっ、フハッ、フハハハハハハハハッ!」
笑い声が大きくなってくる。
何がそんなに愉快なのか、俺たちにはわからない。
しかし、確かな狂気だけはわかる。
本当に、こいつは殺しにくる!
目を瞑る。
だが、次の瞬間だ。
ふと、殺気が消えた。
恐る恐る目を開けると…………
残念ながら男はそのまま立っていた。
異常な蔓延の笑みをこちらに向けて……
逃げたいが足はやはり動かない。
殺気は感じられないのに、さっきので怯んでいるのだ。
男は真っ黒な、年代物の分厚い、銀の逆十字が表紙につけられた本を取り出し、目の前の宙へ浮かべた。
そして詠唱を始める。
「我、汝を求む。汝則ち魔王なり。魔王則ちサタンを、我求むなり。
地獄の最下に眠る汝の加護を求むなり。
我が御主の名の下に我求む。
我汝の王国臨也。
ゆえに我、汝の国を侵すべき愚者へ、汝の怒りを下すこと求めん。
我の眼前、弐敵あり、唯一神に使えし我らの悪なり。
我汝の加護を以て、汝の畏れ多き、暗き慈愛に溢れた闇夜の手を以て彼らを地獄の最下へ落としたもう。
汝代わりに彼らの血を以て力を戻せ。
我賛美する汝よ、願はくば黙せず我が願い受け入れ給へ。」
魔法陣が奴の足元に展開された。
通常のものと違い、暗黒の禍々しく巨大な魔法陣…………
しかし、逃げることができない。
『地獄より、餓鬼共の手』
詠唱がおわると奴の背中から現われた、暗黒で出来た巨大な手が無数に迫ってきたのだ。
そして俺たちの首根っこを掴む。
「かはっ!?」とてつもない力で首を締め付けられる。
「くっ……」
龍神も同じくだ。
しかし、息ができない。
龍神の方を見ていた視界も、徐々にぼやけて、更にはみしみしと音を立ててた締め付けも、意識の遠のきで聞こえなくなっていた。
ついには、苦しみはもはや消え、どことなく暖かさを感じ始めた。
___やっべぇ、俺たち死ぬのかな……
あんだけ仲よくやってきた俺たちは、ここで共倒れするのか……
せめて龍神だけでも助かってほしい。
しかし叶う期待などできない。
首の締め付けは終わらない。
それに助けも来ない。
俺たちは死ぬ。
そういえば、死相……
なら納得行くな。
でも、ず、じょう……
だ、だめだ考えが浮かばない。
「んっ!」
口から息が漏れる。
首締めが強くなった。
血が流れてくるのを感じない。
苦しい。
息を、すい、たい。
俺の肺は全力で息を吸おうとし、心筋は
脳へと血を全力で送ろうとし、体はこの腕を外そうと必死に悶える。
「か、っ」
しかし意識が徐々に遠のいて行く。
その度に、当たり前のごとく力が抜けていった。
「ぐ、ぐぐっ」
遂に、体に力が入らなくなり、全身が軟体動物の死体のごとく宙で揺れるだけになってしまった。
肺は呼吸を諦め、唯一諦めずに、心筋が激しく鼓動するのを感じるばかりである。
なんというか、生を感じる。
だが、もう苦を感じることができないまでに、意識が消えかかっていた。
「そ、そう、たっ!」
龍神のその一言は、俺を現実にもどした。
苦しい。
苦い、地獄。
もう、死にそう。
本当の死。
もう、終わり。
意識はもう……おち、る。
「キャアアァァァッ!」
突然だ、凄く大きな叫び声が聞こえた。
瞬間、手が緩む。
「「ごほっ、げほっ!!」」
苦しみから解放され激しく咳き込んだ。
何だ、この叫び声……
あたりを見回すが何もない。
「だれかとめてぇぇぇぇぇっ!!!!!」
上から聞こえた。
すぐに空を向く。
すると、何か人形の黒い点。
よく見ると_________金髪の少女だと!?
慌てふためき、辺りを再び見回すが、気づくと男は消えていた。
しかしそれどころではない。
彼女は一体……
「ああっ!よけてえぇぇぇぇっ!そこのヒトォォォッ!」
そこの人……よくよくかんがえると、俺じゃん!!
彼女は俺の頭上、完璧に真上だったのだ!
「マジかッ!やべぇ、受け止めねぇと!!」
どうしようどうしよう。
受け止められるか?
しかしラピュタのように空から女の子がと、落下速度が遅くなるようには思えない。
かといって避けても彼女は間違いなく死ぬだろう。
___しかし、そうこう考えてるうちに、もう、避けれないとこまで来ていた。
その距離、わずが1センチ。
世界が、ゆっくり感じられた……
「「うわああああぁぁぁっ!!!!!」」
そして、瞬間で、意識が飛んだ。
ただ覚えてるのは、とてつもなく鈍い音が響いたのだった。
____________________
「っ!」
気づくと、アスファルトの上で寝ていた。
左を向くと「おい、大丈夫か創太っ!!」
なんども叫ぶ龍神。
右を向くと、今度は落下してきた死体……って、無傷で、単に目を回して寝ていた。
「龍神、あれ、落ちて来たんだよな……」
起き上がりながら訪ねた。
俺が無傷、納得いくが彼女の無傷がよくわからない。
「ああ、落ちて来たよ。」
「そうか……」
「すごい音がしたけど、何故二人とも無事なのか、俺には理解できねぇよ……」
だよな、俺でさえ理解できないもん。
身体を起こして彼女をまじまじと見る。
彼女___金髪、長い髪、そして卵のようにつるりとした美しい色白の肌、整った顔立ち、小柄な、華奢な身体、そして程よい胸に白の衣……
しかし、驚くべきことに、それだけでなく、なんと羽根も生え、天使の輪が頭上にあるのだ!
なんだこれは……人、だよな…………
一体これは……
疑問が残る。
ふと、気づくと彼女の腕、そして目がぴくりと動いていた。
「だ、大丈夫か?」
「おい、しっかり!」
俺が近くに寄り、龍神が遠くで声をかけた。
すると
「…………ん、っ」
彼女は目を覚ました。
そして辺りを見渡す。
「……あれ、私、誰?」
「「いや、それ俺らの質問!!」」
困るわ!
記憶障害とか。
「創太、もういっちょ殴りゃ治るんじゃ……」
「阿呆、この娘に悪いわ。」
全く、龍神のこの調子は、時々バカなことを考えるもんだぜ。
殴ってみろ、下手したらもっと酷くなる。
「待って待って待って待って、じぶんのことくらいわかりますからぁぁぁぁっ!!」
どうやら、自分のことはわかるらしい。
最初からそうしてほしいものである。
「じゃあ、はじめに、だ。君は誰?」
聞いて見る。
すると
「私は天使、風を司る天使ルヒエルです。
この世には、ある預言を、ある人たちに伝え、使命をあたえるために天界から降りて来ました。」
なんというか、話が壮大すぎてなんとも言えない。
思うような回答が、出せず、阿呆面していること以外全くできなかった。
「お前、頭大丈夫か?いい脳外科、紹介しようか?」
だけど、本当にごく普通の回答を返したのは龍神だった。
言われてみればだが、先の激突で頭がおかしくなった可能性もあるな。
でも、ルヒエルは非常に焦って反論してきた。
「そ、そんな、ヒドイです……信じてくださいよ、緋山龍神さん!」
衝撃が、走った。
「な、なんで、俺のフルネーム知ってるんだよ……」
俺はもちろん、龍神は名前を一言も言ってないのに、おかしすぎる。
「ま、まさか本当に……」
断定するには早すぎるが、可能性は無くはない。
でも、何かしらの魔法で知った可能性もある。
だが、彼女の身体を見てみろ。
羽根が生えてるわ光輪が頭の上に浮いているわ、普通の人間ではない。
あと、羽根もどうやら魔法で出現させてるわけではなさそうだし。
「し、信じてもらえますか?創太さん?」
一瞬名前を呼ばれ驚いた、が、よくよく考えればこの娘には筒抜けなんだよなぁ……
いやー、信じる、ねぇ…………
どうしよう、判断しづれぇし。
「……創太ぁ、待て」
妙に低い声の龍神が俺を止めた。
そして
「おい、そこの自称天使。」
「なっ、じ、自称じゃないですよ!」と、少し怒って反論。
気にせず龍神は話を続ける。
「お前……どっかの国のスパイかなんかだろ?KGB? CIA?」
龍神、今すぐお前が脳外科行ってこい。
お前の方がよほど重症じゃねぇか。
「スパイ……す、す…………」
なんかルヒエルはルヒエルで要らぬ悩みをひたすら考え出したし。
「じ、じゃあKGBで。」
おい!
答えちゃダメだろ!?
「待て待て待て、なんで選んだんだよ!?」
身体が勝手にツッコミを入れた。
「んー、なんかこっちの方が美味しそうだったし」
なんで特殊部隊の名前を美味しそうだったかどうかで決めてんだよ!?
「スパイスの話ですよね?これ?」
「どうしてスパイスとスパイ間違えるんだよ!?」
根本から焦点がズレてたわ。
にしてもわからねぇなら答えるなよ!?
てか、この娘も脳外科行った方が良さそうだな。
「まあまあ、話戻そうぜ!」
「お前が話濁したんだろうがっ!!」
てか、なんだよその妙に腹立つドヤ顔。
ドヤれることなんもしてねぇくせに。
「ま、話は戻すか」
取り敢えず俺から切り出した。
じゃないと埒あかないし。
「まず手始めに、ルヒエル、お前はなんで空から落ちてきたんだ?」
簡単なものから、まず聞く。
「えーっと、確か、天界から降りてすぐかな、とーっても高いところから飛んで地上まで降りようとしてた時ですけど、その時にヒコーキ、って大きな金属の白い鳥とぶつかってしまって……」
「……よく生きてられたな。」
てか、ヒコーキは何かわからねぇのかよ。
俺らのことは知ってたくせに。
「さて、次にルヒエルが本当に天使だとして、さっき言った目的の通りだとして、だ。預言の内容、そしてそれを誰に伝えるか、それを聞きたい。」
というのも、死相のことになにか関わりがありそうだから聞いたのだが、有る無し関わらず結局、俺たちに関連する何かが起こるかもしれないわけだ。
聞いておいて損はない。
「そそそ、そんな、預言はしかるべき人以外に言うなんてできませんよ!!お気持ちは察しますが……」
まあ、そうなるわ。
こればかりは彼女の義務らしき何かを果たしたまでだ。責めることはできない。
「そんじゃあ、お前が預言を渡すべき、そのしかるべき人ってのは誰だ?」
今度は龍神が問う。
こっちは、聞くことができたら探すのくらい、ある程度は手伝えるしね。
「えーっと、誰だったかなぁ…………思い出せないな…………」
頭ぶつけたせいかもしれないが、思い出すのに苦労しているようだ。
数秒頭を傾げてから
「た、確か………………か、風谷創太、さん………………あ。」
「「あっ」」
完全に三人ともフリーズ。
口を少し開き、驚いたまま時が止まってしまった。
「あーーーーーーっ!いたーーーーーっ!!」
「ええええっ!?お、俺かよ!!!」
かなり大慌てだ。
もう何が何だか……
龍神は相変わらずポカンとしてるが……
「え、じゃあさっきの預言とやら、俺に?」
「はい!」
まさか、こんなことが俺に起こるなんて。
しかし、なんとなく死相のことに関連してそうなのが嫌なところだ。
「創太さん、さっきはすみません。」
突然、謝り出してきた。
「え、何が?」
「創太さん、最初見た時にすぐ預言を渡せなかったことにです。最初、名前を知っていたのに、あなたの見た目が、本当に可愛らしい女の子にしか見えなかったので、何故か創太さんだと思えなかったんです。」
「え゛?」
待て、俺そんなに女子に見えたんすか?
ちょっと、心折れそうになってきた。
非常にがっくしきたのか、かなり俯いた。
「そう考えると、龍神さんと創太さんて、何も知らないで見るとお似合いのカップルですよね!」
さらに傷口を悪気なく抉ってくるのだが。
もう、ヘタレて体育座りのまま動きたくない。
「あれ、どうしてそんなに凹んでるんですか?」
「お前の妄想のせいだよっ!」
最早俺は涙目です。
助けてください天使様。
て言ってもその天使様が、目の前のメンタルブレイカーだしなぁ。
「な、なあ、そんな話置いといて、さっさと預言の話、移ろうぜ。」
だよな、龍神……
て、こいつ顔赤いし。
何照れてんだよおい。
「そ、そうですね。一応、龍神さんも預言の対象入ってるんですが、本来なら他の天使が来るはずなのですが、先に私と会ったのでついでに話します。」
「え、俺もか……」
驚くのも無理はない。
自分はこの件関わることない、と思ってて当然だろうし。
「では、話します。預言の内容。」
息を飲む。
「預言の内容……それは、終末の到来、世界の終わりが訪れること。これから、徐々に世界が終わりに向かって進みます、神すら望まぬ終わり方で。」
「世界が……」
「終わる……だと」
全く、信じられない話だ。
しかし、死相との関連、それを加味して考えると、まさかとは思うがスケールがでかい故の曖昧さ、それならば話が通らないこともない。
「そして、あなたたちに預言を託した理由、それはあなたたちが終末の預言を止める為の存在、偉大なる魔導士『戦士』に選ばれたからです。故に、あなたたちにはこれから先、未知との戦いを、してもらいます….…」
未知との戦い。
俺たちは、まだこれがどういうものか、そしてこれから俺たちの辿る激闘を知る余地など、なかった。