五話 昔話
エレベーターの表記が50階になったところで、チーンと音が鳴り、止まった。
エレベーターから降りると、ルイに重々しい扉の前まで連れられた。
この扉が開けば俺をここに連れてきたヤツがいる。なぜ連れてきたのか聞かねば、という思いで扉が開くのを待った。
「じゃあ行きましょうか。」
ルイはそう言って扉をノックし、開けた。
「失礼します。隊長、連れてきました。」
「おう、ご苦労だったな。」
そこには全く見た記憶のない男の人が座っていた。ただ、男からは懐かしい雰囲気だけ、感じ取ることができた。
「久しぶりだなぁ…、竜也。」
男はそう言った。
「久し…ぶり?」
前に会ったことが、あるのだろうか。しかし、全く思い出せない。
「まあ、思い出せないのも仕方ないか。お前が三歳の時に捨てた親の顔なんて。」
竜也に衝撃がはしった。
突然、自分をここに呼んだ張本人が親だと名乗ってきた。たしかに両親は、幼い時に俺を捨てていた。
「お前が…俺の父親?」
「ああ、そうだ。大きくなったな。今まで迷惑をかけてしまって、すまない。」
「ま、待てって…だって…お、俺の…」
竜也は動揺から、上手く喋ることができなくなる。
「落ち着け、竜也。」
「落ち着いていられるか!」
竜也は怒鳴り散らした。
「俺を呼んだのが白虎隊隊長で、それが俺の父親?しかも、三歳の時に俺を捨てた。わけがわかんねぇよ…」
「あぁ、だがこれは事実なんだ。受け入れてくれ。」
「じゃ、じゃあ母さんはどこいんだよ。」
男はうつむき、少し黙った。その沈黙があった後に、静かに話し始めた。
「お前の母親はな、お前を産んですぐに逃げたんだ。それから俺も会ってない。」
…
…
もう言い返す気力もなかった。
「落ち着いたようだから、本題に入るぞ。」
落ち着いたわけではないが、全てが衝撃すぎて受け入れきれないだけだ。
「お前にはこれから白虎隊一五部に所属してもらう。」
ルイからここに来るまでに聞いた話によると、一五部が一番弱く、一部が一番強いらしい。
「お前にはそこで、仲間と過ごし強くなってもらう。そして、百鬼討伐に参加し、成果をあげてほしい。」
「ただそれだけだ。」
…
「これで話は終わりだ。もう用はない。」
そう言われ、竜也は来た道を引き返し始めた。重々しい扉を閉め、今度は一人でエレベーターに乗った。
「隊長、あの様子なら戦いに参加させないほうが、いいんじゃありませんか?」
「…うん。あの様子、ならね。」
そう意味ありげに言ったのを聞き、ルイもここを後にした。
「母親…あいつの話か…」
エレベーターを降りた竜也は、一人でトボトボと歩いていた。
「俺を呼んだあいつが…おれの…」
「たっちゃん!」
どこからか俺を呼ぶ、あの声が聞こえた。
顔を上げるとそこには、早月がいた。
「早月…」