第一話 妹ちゃん
この世界には魔法がある。それはさんざん話したことだが、僕はいまだにその魔法を使うことができない。
それはまだ、魔法の本の文字が読めないからだ。
貴族の子供としてある程度の教育は受けているが、魔法の本に書いてある文字は難しくて読めないのだ。
日本でだって子供のころは漢字の書いてある本が読めなかった。それと同じようなもので、魔法の本は四歳児には難しすぎるのだ。
通常、初級魔法という誰にでも使えるような魔法なら八歳程で習い始めるので、その為の本も日本でいえば小学二年生程の力があれば読めるので、僕は今絶賛勉強中である。
しかし、最近悩みの種ができた。
僕が文字の勉強をしている事が家の者にばれたのだ。
別に隠していたわけではないし、知られたのなら知られたでいいと思っていた。
だが、それが間違いだったのだ。
僕には一つ下の三歳の妹がいる。文字なんてとてもじゃないが、読めないのだ。僕には高校生の精神というアドバンテージがあるからいいが、普通三歳や四歳では文字は読めない。だけどね、この年ぐらいだとお母さんに本を読んでもらうことが多かったと思うんだ。日本だったら桃太郎や、浦島太郎、シンデレラなんかの昔話をね。
この世界でも同じように本を読みたがるみたいんだけど、母さんと父さんは貴族としての仕事が忙しく、子供に本を読んであげる時間なんてない。エステルにはジーウという使用人が付いているのだから彼女に頼めばいいものを、何故か僕に本を読んでほしいとねだるのだ。
外からドタドタとした足音が聞こえてくる。
来た――――
「にいさまぁ! ご本読んでぇ!」
ドア越しに妹の大声が響く。ドアをがんがんと叩いている。エステルはまだ、ドアノブに手が届かず、一人では部屋のドアを開けられない。
ジーウがコンコンッと二回ほどノックをした。
「レヴィ様、エステル様がレヴィ様に絵本を読んで欲しいとのことですが……。よろしいでしょうか」
個人的には勉強を続けたい。でも次期当主の妹様の頼みだし、それ以前に兄としてそのお願いを聞かないわけにはいかないよなぁ……。
「わかった、いいよ。エステル、おいで」
「わーい! ねぇジーウ、早く開けて開けて!!」
ドアが開かれるとエステルは勢いよく僕に飛びついてきた。
その勢いのまま僕は地面に押し倒され頭を強く打った。
「レヴィ様大丈夫でございますか」
後頭部を軽く撫で、たんこぶが出来ていないことを確認し、ジーウにその旨を伝える。
「僕は大丈夫だよ。……それで、エステル。今日は何の本なんだい? 昨日『ドワーフ君とエルフちゃん』は読み終わっただろう?」
僕がそういうとエステルは先ほどの突進の事には全く触れず、微笑んだ。
「えへへ、今日はねぇこれ!」
エステルが手に持った本の表紙を僕の目の前に突き出した。
「『魔法使いエドワードと七人の妖精』か。あんまり、エステルの好きっぽい話じゃないな」
「あぁ、それは私が持ってきたものだからでしょうか。前に娘に読んであげていたものでして、庶民の間では一番に人気の絵本ですので。エステル様も気にいるかとおもいまして」
「そうなの! 今日は冒険の気分なの!」
エステルは息を荒げて言った。
「そっか、ありがとねジーウ」
僕とエステルは床に並んで座った。
「それじゃあエステル、読むよ――――
――――エドワードは妖精たちと共に女王様を救う旅に出たのでした。――おしまい」
「えぇ! ここで終わり!?」
「まぁまだ続きはあるんだけどね、でももう大分読んだでしょ? そろそろお腹も空いてくるでしょ?」
既に時間はお昼ご飯の時間になっていた。そろそろリンダが昼食の時間を告げに来るはずだ。
「うぅぅ。ジーウ! 兄様がぁ!」
エステルは目に涙を浮かべジーウの膝あたりにしがみ付く。
「エステル様。続きは食事の後に私が読んで差し上げます。ですから、今はお昼ご飯を食べに行きましょう。ほら、今日のご飯はなんでしょうねー」
五分程するとリンダがやってきて昼ごはんの時間だと教えてくれた。
僕らは食堂へ向かった。