第六話 ここは異世界
僕はどうやら異世界に転生したようだ。
……うん。いまさらだよね。
絶対的な証拠があるわけではないけれど、ほぼ決定的だろう。
そうなると是非とも魔法を使ってみたい。
先ほどは失敗したけど、やっぱり魔法を使うっていうロマンは捨てきれない。
だからこそ、昼間の事が気になってくる。
僕に魔法を使う才能はあるのだろうか。
そして無属性とはなんなのか。
……考えてもしょうがないよね。魔法がつかえようが使えまいが、今の僕には知識が足りていない。
どうにか本とかで情報を集められたらいいんだけど……。
思考に詰まった僕はベッドに横になり外を眺めた。僕はふと風になびくカーテン越しに窓の外を見た。
そこから見える景色はとても綺麗なものだった。僕の生きていた世界――現代の日本――では見ることのできない景色だった。雲一つない空は無数の星々が埋め尽くしており、その輝きは僕を魅了した。
満天の星空。この世界の空気は澄んでいるのだろう。それが意味するのは排気ガスのない空気――そのことは僕が異世界に生まれたということを強く思い起こさせた。
途端に涙が流れた。
僕がいるのは異世界。
もう二度とあの世界を見ることは無いのだ。
僕の好きだった彼女にも、大好きだった家族にも、友達にも、先生や先輩に近所のおじさん。みんなみんなもう会うことは出来ない……。
あの日、僕はストーカーに殺された――――死んだんだ。
わかっていた、わかっていたつもりだった。
わかってたつもりだったんだよ‼
僕がもう彼女たちに会えないことぐらい‼
でも、でも! 僕はまだ死にたくなかったんだよ。いつもみたいに友達と話しながら家へと帰って、母さんの料理を食べて、父さんと学校の話をして、友達とメールをして、休みの日には遊びに行って、それでそれでそれで……‼
気が付けば僕は大声で泣いていた。目からはボロボロと大粒の涙をこぼし、頬が濡れていく。
もう二度とあの世界には戻れない事への悲しみに。
僕の泣き声を聞いてか、リンダが部屋へと入ってきた。
「おやおやおや、どうしたんですかレヴィ坊ちゃま。いつもは夜泣きなんてしないのに」
リンダは僕を抱きかかえ、身体を揺らしあやそうとする。
「お腹がすいたのかねぇ、おしっこやウンチはしていないようだし。普段泣かない子が泣くと困っちまうねぇ」
リンダは必死に僕をあやそうとしてくれるが僕は泣くのを止められなかった。泣くのを止めようとしても目の奥から涙がどんどん溢れてくる。
「リンダ? レヴィ? どうかしたの? レヴィの泣き声が部屋まで聞こえたのだけど」
「エミリー様申し訳ありませんでした、レヴィ様が泣いておられたのであやしていたところでございます」
「レヴィが夜泣き? 今まではしてなかったのに、どうかしたのかしら」
エミリーがこちらへと手を伸ばし僕をリンダから受け取る。
「どうしたのレヴィ? お腹がすいたの? おしっこ出ちゃったの? それともどこか痛いの?」
僕は泣きながらではあるが首を横へ振った。
「……寂しいのかしらね。そうね、レヴィは最近は一人で寝かしてしまっていたし、今日くらいはいいわよね」
エミリーは僕の頭を優しくなでながら子守唄を歌い始めた。
「リンダ、今日はもう休んで頂戴。レヴィは私が見るから」
「かしこまりました奥様」
リンダはそう言って部屋を出て行った。
残ったのは今だ泣きじゃくる僕と僕を優しく撫でるエミリー。
エミリーは僕の頭を抱え自分の胸に押し当てる。右手では頭を撫でながら、左手は僕の背中を優しく叩く。
エミリーの温かさによって僕は少しずつ涙が止まってきた。
「レヴィ、今日はお母さんがずっと一緒にいてあげるからね? 今日は一人じゃないよ? 安心してね?」
エミリーの体温はとても心地が良く僕は気が付けばウトウトとしていた。
子守唄は僕の眠気を刺激し、僕の意識は次第に薄れていった。
ご指摘などいただけたら幸いです。