第五話 一年越しに知った事
宣託の儀を終えた僕たちは家へと着いた。そういえば、初めて家の外観を見たけど、まさに屋敷って感じの家だ。勿論西洋風の。
エミリーは僕をリンダに預けるとデイブと共に寝室へと向かった。時刻はまだ夕方前だ。きっと二人だけでの話があるんだろう。何かショックを受けていたようだし……。
ヤコブとジークは気が付いた時にはいなくなっていた。
リンダは僕をベッドに置くと椅子に座り、編み物を始めた。リンダはエミリーたちと違い僕に思うことは無いようだ。いつも通りのリンダだ。
今日行われた宣託の儀とは何だったのか。
教会で洗礼のようなことをやるのだと思っていたのだけれど、違ったようだ。いや、洗礼と同じように欠かすことのできない儀式の様ではあったけど、両親たちが悲しむような何かがあったのだ。
それは何だろうか。一つ気になるのは神父の言った事だ。
「属性は無、無属性である。」という一言だ。
属性……日本育ちの僕としては属性と言えばゲームに登場するようなキャラクターの得意な魔法の系統であったり、モンスターの有する性質を表す際に使われるのをイメージする。
いやいやいや! 魔法って……。
まさか本当に魔法があることが信じられているのだろうか。仮にそうだとしてもあそこまで落ち込むのだろうか。行きの馬車ではあんなにはしゃいでいたのに。
ヤコブの発言も気になる。
資質がどうとかって。
だめだ、どうしても魔法があるんじゃないかと思ってしまう。
もしかしたら本当に魔法でもあるのだろうか。
そして僕はその才能がない……?
だめだ、わからなくなってきた。
僕は考えるのを止め、眠りについた。
目を覚ますと外は暗く、部屋に月明かりが差し込んでいた。窓は開けられており、夏の夜の心地よい風がカーテンをはためかす。
随分と寝てしまったようだ。僕は起き上がり外を眺める。
この半年の成果もありつかまり立ちはマスターした。いまだに柵をのりこえることはできなさそうだが。
魔法は本当にあるのだろうか。昼間の疑問が再燃する。
夜ならだれも聞いてないよね? 僕は最近ようやく単語を言えるようになってきた程度の口で舌足らずながらも呟いた。
「ほおおよ」
何にも起こらない。ちなみに、今のは炎よと言おうとした。
やっぱりあこがれるじゃん、男の子としては手から炎を出すなんて。――まぁ、結局失敗したんだけどさ。
これだけじゃわかんないよなぁ。まだ魔法を使う力がないのか、最初から魔法を使う力がないのかだ。
この考えに至った時、既に僕の心は魔法があることを認めてしまっているのだと気が付いた。
まぁあんだけ落ち込んでいたらね。――そして、このことからもう一つの考えが浮かんだ。
それは考えてみればあり得る話で、ここが全く聞いたことも無い国であることや電化製品が一つもない事にも説明がつく。しかしそれを思いつくのはあまりにも突拍子のない事で、でもそもそも転生なんて事が起きている時点で突拍子のない事は起きているわけで…………。
あぁっ! もう! 簡単に僕の思いついたことを口にするなら――
――あれ?ここって地球じゃないんじゃね……。
転生して一年。僕はようやくここが異世界であることに気が付いたのである。